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明治維新がこなかった....(下)  作者: yuyuko50
第三章 信じるということ
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第45話 全力で生きるとは

「また上からの呼び出しだ!」


廊下をドスドスと異様な足音をたて相良が佐倉の部屋へと押しかけた。




「ワシはもう行かん!!」


障子を開け放つと同時に警察所中に聞こえんばかりの大声で怒鳴り込んだ。




佐倉は飲んでいたお茶を豪快に吹き出す。




ゴホッゴホッ!!




気管に入ったのかしばらく咳き込んでいた。




「稔ぃ……ゲホッ!ゲホゲホ。


 お前は私を殺す気か……ゲホッ」




「佐倉さんがワシを殺す気じゃ!!」




相良の剣幕に押され佐倉はおしだまる。




「相良隊長……。


 皆が見ておりますゆえ」


鬼頭が背後から相良の袖を引き、庭や廊下に立ちすくむ隊士たちを振り返った。


中には新人隊士の顔も見える。




「今回の呼び出しは、西洋人からのご指名だ。


 お前とどうしても話をしたいそうだ。


 黒崎くんと、一ノ瀬くん、あと……近衛くんも指名されておる」




「え?私ですか?」


庭で様子をうかがっていた清雅が、思わず佐倉の部屋の前へ走り寄った。


西洋人からのご指名と言われ、相良の眉がぴくりと動いたのを清雅は見逃さなかった。




「西洋人と話すことなど無い!!!」


しかし、大声で叫んだ手前、相良は引っ込みがつかないのだろう。




「お前は時々、まるで子供のような態度をとる」


佐倉は他の隊士に聞こえぬように配慮しながら相良をたしなめた。




「行ってこい。お前にとって悪い話ではないはずだ」


相良は仁王立ちになり佐倉を睨みながらも「黒崎と紫苑を呼んでくれ」と清雅に告げると、そのまま佐倉の部屋を後にした。





江戸城への道すがら、先頭を相良、黒崎が進み、その後ろから一ノ瀬と清雅が歩く。


ずんずん前を行く二人を見ながらふと、清雅はある西洋の物語が頭に浮かび顔がにやけた。




「なぜ笑ってるの?」


いつも意味なくニコニコしている一ノ瀬が、清雅のにやけ顔を指摘した。




「あ、いえ。


 ちょっと最近読んだ、西洋の物語を思い出したんです」


「え?なになに?どの話?」




一ノ瀬の顔が、ぱっと華やぎ清雅の耳元に近づいてくる。




「オズの魔法使い」




「??」




「相良隊長がライオンで、黒崎隊長はブリキ。


 一ノ瀬さんがドロシーですね。


 俺はじゃあ、かかしかな」




頭の中で、へんてこな四人組が黄色い道を歩きながら、西洋かぶれした江戸城へずんずん進む妄想が、清雅の頭の中に広がった。




「最近、西洋倶楽部にも顔を出していないから、新しい物語もぜんぜん情報がない」


一ノ瀬は清雅の顔を見ながらため息をついた。




「西洋倶楽部って何ですか?」




「前に、活動写真を見に行っただろ?


 ああいうのを取りまとめている組織があるんだ」




一ノ瀬は、清雅のように個人の趣味ではなく、組織に出入りして西洋の情報を収集しているところがある。




「一ノ瀬さんって、けっこうヤバい橋、渡ってますよね」




「うん。


 生きる時は全力で。って決めているんだ」




(変わってるなー)




清雅は一ノ瀬の顔をしげしげと眺めた。





―― 江戸城





清雅にとっては初めてまたぐ城。




一生出入りすることなど無いと思っていた場所。




清雅の心は打ち震えた。




将軍様のおわすこの場所に、まさか自分が踏み入ることがあろうとは。




(でも、俺は純粋な"人"ではないのだな)




次節、首をもたげるこの想い。




(しかも、兄はあやかし連合の頭でもある)




己の血が罪人であるかのように思えてくる。





「清雅くん?」


はっと顔を上げると、一ノ瀬の見開かれた大きな目が、清雅の顔を下から覗き込んでいた。




「緊張してる??」


覗き込むその顔が、面白そうに笑いかけてくる。




「お前が緊張する必要は全く無い」


前を歩くブリキの黒崎がため息をつきながら、清雅を振り返った。




「さっさと用を済ませたら、団子屋に寄って帰るぞ」


相良は着慣れぬ警察の装いに、不愉快そうに襟元を引っ張った。




「大丈夫です」


皆の自分を見る目を見返し、清雅は力強く笑った。




(己が何者であろうが、何が変わろうか。


 俺は俺だ。


 血に問題があると言われれば、その時は潔く散ってみせよう。


 しかし、今、ここにあるうちは、全力で生き抜くつもりだ)




清雅の心には、かつて、まんがやゲームに明け暮れていた頃とは違い、侍らしい覚悟が芽生えていた。

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