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明治維新がこなかった....(下)  作者: yuyuko50
第三章 信じるということ
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第43話 あらたな決意

『清雅、ワシはしばらく新井殿と話がある』


九曜は新井と共に、奥の部屋へと姿を消した。




清雅は居場所なさげに式台に座り、ため息とともに両手で顔を覆った。




「俺の母が妖……


 兄上とは母が違うから、つまり近衛家では俺だけが人ではないということか」


「お前の母親は今、どうしてる?」


高岡は清雅の横に腰掛ける。


二人はそこから、どんよりとした空を見上げた。




「あまり記憶がないんです。


 ただ、母上はずいぶん前に亡くなりました」




「そうか。


 じゃあ、お前の母親のことを知っているのは、九曜だけということか?」




「いえ。


 あとは、兄上も……」




そこで不穏な空気が流れたことに気づいた岩崎は、少し遠慮気味に距離をとって腰をおろす。




(兄があやかし連合の頭であることと、母さまの血のことは、何か関係があるのかもしれない)




『おぉい!


 清雅ー!


 もういいぞー!』




ふいに奥から九曜の声が響いた。


刀から出た九曜の声は、清雅以外の人にも聞こえるようだ。




「え?なに。もういいぞって」


「用があるなら九曜が来ればいいだろ」


清雅と高岡は後ろを振り返り、九曜と新井が消えた方を睨む。




「九曜って、私からすると、ものすごく強くて怖い妖なのですが、お二人はそんな感じなんですね」岩崎の声が震えていた。




三人が九曜の声のする方、本殿の奥へしぶしぶ足を進めると、そこには新井の膝枕に頭をうずめる戦国武者の九曜の姿があった。




『ほれな。


 こんな感じなのじゃ。


 妖と、妖の拠り所を作る刀匠の関係は』


新井は愛おしそうに膝の上の髭面の九曜の頭を撫でている。





バン!!!!





清雅は思わず部屋を仕切る木の扉を思い切り閉めて、視界から二人を消しさった。





『待て待て!すまんすまん!』


「近衛殿、すみません!


 誤解です。


 これは、その、いわゆる刀を磨くという行為です」




「それ、俺たちに見せる意味ありますか?」


清雅の冷たい声。




『刀匠と妖の仲の良さを見て欲しかったのじゃ』


「人と妖は、共に助け合って生きておる」新井も慌てて付け加える。




「だから近衛殿。


あなた様が人であるとか、そうでないとか心を痛めるよりも、もっと関係性を知ってほしかったのだ」


新井の言いたかったことは飲み込めた。




(その行き着いた先が、おっさん同士の膝枕か)


清雅は苦笑いしたものの、新井の気遣いに頭を下げた。





九曜はそれからしばし、新井との時間をゆったりと過ごした。


次会う時は、何十年か先かもしれない。




ならば、新井はもうこの世にいない可能性が高い。




「私が手がけた刀が、近衛様に受け継がれたのを見ることができて安心しました」


新井はくったくなく笑うと清雅に感謝を示した。




「妖の血をひく者には、代々、妖が宿る刀が受け継がれる。


 その刀は妖の血をひく者を守り、正しい方向へと導く」


神社を去る時に、新井は清雅に九曜の重要性を話して聞かせた。





「もし、近衛殿が怒りに我を忘れ、妖の血が人の血を上回ろうとした時、九曜が必ずあなた様を止めてくださる」




清雅は”我を忘れる"という新井の言葉に不安を感じた。




「しかし……」


新井はそこで言葉を切った。




「九曜だけが、あなた様を支える役割をしているわけではなさそうですね」


言うと新井は、高岡と岩崎の目をじっくりと見つめた。





「近衛殿の周りには、近衛殿を信じる人が大勢いらっしゃる。


 そして、近衛殿自身が、その方達を守りたいと思っていらっしゃる」




新井の言葉を受け、清雅の心に熱い思いが込み上げてきた。




「俺は、みんなのことが大切だし、みんなも俺のことを信じてくれている。


 だから俺は妖の血が混じっていようとも、人として生きる。


 そして、俺に大きな力があるのだとしたら、良き妖と、大切な人たちのために、それを使いたいと思っている」




清雅の言葉に新井は心底嬉しそうに微笑むのだった。



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