第42話 血
「待ち合わせの場所ってここだよな」
顔に強くふきつける風を避けるように高岡がくるりと背を向ける。
「はい。確かにここのはず」
言いながらも清雅は、心の奥深くに何か拭えない不安が沸き起こってくることに身震いしていた。
岩崎は首だけでぐるぐると周りを見渡す。
ここで刺客にでも襲われようものなら、ひとたまりもないだろう。
それくらい、木がおいしげり、見晴らしが悪かった。
「ここで合っていますよ」
ふいに三人の背後、荒れ果てた社殿の奥から低く深みのある声が聞こえてきた。
三人同時に刀の柄に手をやりながら振り返る。
そこには、六十を少し過ぎたくらいであろう、
白と黒の入り乱れた髪を後ろで束ねた男が立っていた。
「あなたがその刀を受け継いだ近衛くんだね」
「受け継いだ?」
突然、九曜の話を出され、清雅は男の腰あたりに目をやる。
男は刀を持ってはいなかった。
「私は侍ではない。
刀匠だ。
成りは侍のような格好をしているが、代々、いわくつきの刀を扱っている」
(いわくつき……?)
高岡と岩崎の目が清雅の腰の刀に向く。
「申し遅れた、私は名を新井宗俊と申す」
新井がそう名を告げた直後、九曜が赤く光り、清雅の真横に人と同じ背丈の戦国武者が姿を現した。
三人同時に驚き九曜を見やる。
鎧武者の格好をした九曜は突然、新井の前で片膝をついて首を垂れた。
『お久しぶりでございます、新井殿。
このような場で、またお会いできるとは嬉しい限り……』
そこで九曜は急に涙をこぼした。
「九曜!お前の知り合いなのか?」
清雅は自分と変わらぬ背丈の九曜を新鮮な面持ちでしげしげと見つめた。
『新井殿は、我ら"妖の拠り所"となる刀を作るが仕事』
「そしてその刀を、"妖の心を持つ者"に委ねるのが、我らの役目なのだ」
九曜の言葉を新井が引き継いだ。
「え?
待て待て。
"妖の心を持つ者"ってなんだ?」
鋭い高岡は、清雅に目をうつしながら新井に問うた。
新井は注意深く岩崎と高岡を交互に見つめた。
「この二人は信用できるのですか?」
清雅は何がなんだかわからず、ただ「信用できる」とだけ告げた。
『主も、しかと心して受け止めよ』
九曜はぎろりと厳しい目を清雅に向ける。
「妖の心とはつまり……」
新井は清雅の目を覗き込む。
「”妖の血”ということだ」
「……」
清雅は新井の目を見た。
新井の目は清雅をとらえて離さない。
まるでその意味を理解し、受け止めさせるまでが自分の役割だと言いたげだ。
『清雅……』
九曜の声がするが、清雅の心は遠く、人ごとのようにこの場を見つめていた。
「俺は……」
『清雅、お前は』
九曜が続ける。
『人ではない』
九曜の声は清雅の頭にだけ響いた。
(そうか……)
心の奥底、ずっと恐れていた真実が頭をもたげてくる。
(そうかもしれないな)
抜け落ちた記憶。
制御できぬ力。
この世界にちらばる妖の声をひろい、それを還す能力。
(あぁ俺は、普通の人ではなかったのだ)
妙に腑に落ちた。
と同時に全身に悪寒が走る。
(俺は、人ではないのか!!?)
その言葉の本当の恐怖が突如全身を駆け巡った、
唇が震えた。
指先に感覚がない。
(俺は……
嘘だ……
人ではないとは、何だ!?)
岩崎と高岡の視線が針のように自分を刺している……気がする。
顔が熱くなった。
(妖の……血?)
「人でないわけではない」
新井が清雅の心を拾うように優しくつげる。
「正確には、お前の母が、人から少し遠かった。それだけだ」
ふっと、清雅の視界が戻ってくる。
よく見ると、針のような視線と感じた岩崎と高岡の目は、優しく心配げに自分を見ていた。
高岡が一歩前に出る。
「近衛……」
その声は優しかった。
「お前は人だよ。
どっからどう見てもな」




