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明治維新がこなかった....(下)  作者: yuyuko50
第三章 信じるということ
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第39話 信じることを疑うこと

鬼頭は第五隊全ての人間に警察の中のささいな事も全て報告させていた。


その中で、清雅と高岡が非番を同じ日にとっていることも把握していた。




「放っておけ」


相良に伝えた際に言われた言葉である。




(本当に良かったのだろうか)


相良にそう言われたこともあり、二人の後をつけさせることはできなかった。


部屋から外を見ると、一ノ瀬がズルズルと足を引きずりながら廊下を歩いているのが見えた。




「一ノ瀬隊長、ずいぶんお会いしていない気がしますが……」


部屋から声をかけると、行き過ぎようとした一ノ瀬が後ろむきに戻ってくる。


「ずっと外での仕事をしていたから」


顔だけ出した一ノ瀬は、いつもの目の大きさの半分くらいしか開いておらず、目つきが悪い。




「目つきが怖いですよ。


綾小路隊長に似てきましたね」


我ながら悪い言い方だと思いながらも、つい言ってしまった。




「京都警察の悪口言わんといてくれますか?」


低い声と共に一ノ瀬の後ろから、高階がぬっとこちらを覗き込む。


その目がぐるりと部屋を見渡したのがわかった。


「ところで、その目つきの悪い隊長さん、見ませんでした?」




高階と一ノ瀬を一緒に見ると、その身長差に遠近感覚がおかしくなりそうだ。






「綾小路隊長の動向はまったく把握できていません。


 なにせ、ふっといなくなってしまうので」


鬼頭は本心を言った。


失礼ながら京都警察といえども、第五隊から見るとムカデ衆調査の対象である。




「近衛くんと高岡くんは休みを合わせているようですけれど」


鬼頭が何気なく付け加えた。


高階は「ふうん」と興味なく目をそらしたが、一ノ瀬の肩がびくりと震えたのがよくわかった。




「二人はどこに行ったの?」


平静を装いながら一ノ瀬が聞いてきた。


「それは流石にわかりません……」




「そう……」


つぶやくように言うと、一ノ瀬はそのまま鬼頭の部屋の前を後にした。




(ずいぶん疲れておられるな)


一ノ瀬の去った入り口を見ながら鬼頭はため息をつく。


(相良隊長の補佐もあるが、一番大きいのは丸山がいなくなったことだろう)


丸山は副隊長として、一ノ瀬の仕事をうまく調節していた。


(丸山の代わりになる者はいないのだろうか)


鬼頭は考えを打ち消すように、深く息を吐いた。





一ノ瀬が廊下に出ると、はらはらと雪が風にふかれ舞い落ちていた。


心にほんの少しもやがかかったような、すっきりしないものが浮かぶ。




(まあ)


ふっと息を吐き出すと白く空気が濁った。




(友人として、副隊長として、清雅くんに、僕ができることは全部するから)


心とはうらはらに、その目は鋭く冷たく庭先を見つめる。




(とりあえず、今の仕事を全て片付ければ……)






「働きすぎです!」


急に懐かしい声が一ノ瀬の耳の奥に響いた。




「これと、これと、これは、私がやっておきますから」


一ノ瀬の前でてきぱきと書類を整理するのは丸山だ。




小梅下村の幽霊退治の時も、丸山は相良の所まで直談判しに行ってくれた。


「一ノ瀬隊長はお忙しいので、我々だけで向かいます」と。





丸山は第二隊の仕事をよくやっていた。




丸山が入隊したのは二年前。


副隊長になり一年ほどだ。




仕事もでき、気配りもでき、温和で仲間ともよく飯を食べに行きおごってやった。




丸山にとって警察所は家族のようなものであった。




そう。




もし、自分がムカデ衆ではなかったら…。




丸山は、自分の本当の姿を思い起こす時、いつも心の奥底が痛み、逃げ出したくなる。




警察の仲間たちほど、大事にしたいと思えた人々はいなかっただろう。




しかし、いつかは裏切らなければならない。


それが自分の仕事なのだ。




「なぜ俺は、ここまでこの警察に染まってしまったのだろう」


誰もいない部屋で、丸山はいつも考えていた。




一番の理由はわかる。




一ノ瀬だろう。




疑うことも知らず、自分にいつも笑顔で話しかける。


副隊長として絶対の信頼を向けてくる一ノ瀬のために、自分が出来ることはしてやりたいと思うようになっていた。




「丸山くん!


ご飯行こう!」




「はい」


(でも、帰りにあなたを殺すかもしれませんよ)




「丸山くん。


今日は丸山くんの部屋で寝る」




「はあ??


やめてください。怪しまれたらどうするんですか」


(少しは警戒してください)




気づけば丸山は、一ノ瀬の、まるで大雨のように自分に浴びせかけてくる、はた迷惑な信頼に、応えてやりたいと思うようになっていた。

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