第38話 歓迎する者
二人で合わせた非番の日。
清雅は上等な綿を詰めこんだ絹の羽織に身を包み、冷え切る寒さを少しでも和らげるため、濃い青の首巻をして外へ出た。
そこにはすでに高岡が、麻布に木綿の綿を入れた羽織を着込み、寒そうに立っている。
高岡は手をこすりながら、上から下まで清雅の身なりを見ると「ぼんぼんかよ」とため息をついた。
刀を見たいと言う人物は、待ち合わせを古い神社の境内に指定してきたため、二人はあったかい室内で話をすることを断念していた。
「事が済んだら茶屋で甘いものでも食べて帰りましょう。
お代は俺がもちますので」
ささやかな清雅の気持ちだ。非番の日に付き合ってくれた高岡への礼のつもりだった。
「お前、そういうところ、本当に気がきくよな」
清雅は冷たくなった鼻をこすりながら、高岡の隣を並んで歩く。
高岡といると、不思議と肩の力が抜ける。
何を言っても、何をしても、最後には笑って受け止めてくれる。
清雅は、そんな高岡に何度も救われている気がした。
「俺、高岡さんのこと、けっこう好きです」
清雅は赤くなった自分の鼻を手であっためた。
「お前さぁ。そういうの、一ノ瀬隊長とかにも言ってんだろ?」
ふざけた口調で言いながらも割と本気で確認してくる高岡。
「一ノ瀬さんには……言ってないかも」
「へぇえ」
興味なさげな声を出しながらも嬉しそうだ。
「一ノ瀬さんに言うと、毎日家におしかけられそうな気がして……」
「ああ。あの人、そういうところあるよな……」
二人で苦笑した。
指定された神社は、町の外れに佇んでいた。
両端に並ぶ杉の葉は赤茶色に変色し、太陽を覆い隠すようにカサカサと音を立てる。
その音と暗闇が、清雅と高岡の進む道を、より不気味にしていた。
階段を登ろうとする二人に走り寄ってきた者がいる。
「高岡さん!近衛さん!」
薄めの羽織を羽織った岩崎だった。
「神社にでもお参りに行かれるのですか?」
口から白い息を吐き出し、ぐりぐりと大きな目で二人を交互に見る。
(こうやって見ると、岩崎は本当に大きいな)
鍛えてきた体のせいか、身長よりもよりさらに大きく見える岩崎だった。
「岩崎くんも今日は非番なんだ?」
清雅は行き先を見られたことに焦りつつも話題を変えた。
「いえ……。
なんというか……」
歯切れが悪い。
「相良隊長に、しばらく警察所には来なくていいって言われたんです」
『え!!?』
清雅と高岡と九曜が同時に叫ぶ。
「……なんで?
もしかして、重田さんのことを相良隊長に言ったの?」
心配げな清雅の声に、さらに心配そうな顔をした岩崎が深くうなずいた。
「私……。やはりクビでしょうか」
がっくりとうなだれた岩崎を見て高岡が首を捻った。
「相良隊長にかぎって、そんなことはないと思うがなぁ」
「高岡さんだって、丸山さんに情報漏らしたことありますもんね」
清雅の言葉に高岡がキレた。
「お前!!
それ、俺がどれだけ傷ついているか知ってんのか?
えぐるなよ!昔の傷を!後輩の前で!!」
清雅に殴りかかった高岡を見て
「高岡さんも、やらかしたことがあるんですね」
岩崎は少しほっとしたようだった。
「俺たち、今からこの神社で人と待ち合わせしてて、近衛の刀を見せに行くところなんだ」
唐突に高岡は岩崎にすべて吐露した。
「ちょ……
なんで岩崎くんに全部言っちゃうんですか?」
清雅は驚いて高岡の手首を掴んだが、高岡は顎をくいっと神社のほうに向けると
「こんなヤバそうなところに、俺たち二人だけで行くより、岩崎にもついてきてもらった方がいいに決まってんだろ」
と、やすやすと裏切った。
「え?近衛さんの刀って、このあいだ落武者が飛び出してきた、アレですよね」
『戦国武者な!』
岩崎の言葉を、九曜が不快そうに訂正する。
「そう。
もしかしたら、あやかし連合が絡んでるかもしれないけど、岩崎来るか?」
高岡の問いに岩崎は大真面目な顔で深く頷く。
「はい。今はただ、誰かの役に立ちたいと思っています」
『ワシは知らんぞ清雅』
九曜の声がいつもに増して厳しい。
『今から会う者は、ワシの見立てが正しければ、お前の母の秘密を知っておる』
ここからは清雅には聞こえてはいない。
『お前は母の秘密を知ることになるであろう。
その時、果たして、全てを受け入れることができるのか……』
九曜は気づいていた。
神社へ続く階段を包む杉の木の根本、暗く影が落ちるその空間に、青紫色の紫陽花が咲き誇っていることを。
季節外れのそれは、誰かが清雅が来ることを歓迎しているようにも見てとれた。
(登場人物紹介)




