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明治維新がこなかった....(下)  作者: yuyuko50
第三章 信じるということ
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第38話 歓迎する者

二人で合わせた非番の日。




清雅は上等な綿を詰めこんだ絹の羽織に身を包み、冷え切る寒さを少しでも和らげるため、濃い青の首巻をして外へ出た。




そこにはすでに高岡が、麻布に木綿の綿を入れた羽織を着込み、寒そうに立っている。




高岡は手をこすりながら、上から下まで清雅の身なりを見ると「ぼんぼんかよ」とため息をついた。




刀を見たいと言う人物は、待ち合わせを古い神社の境内に指定してきたため、二人はあったかい室内で話をすることを断念していた。




「事が済んだら茶屋で甘いものでも食べて帰りましょう。


 お代は俺がもちますので」


ささやかな清雅の気持ちだ。非番の日に付き合ってくれた高岡への礼のつもりだった。




「お前、そういうところ、本当に気がきくよな」




清雅は冷たくなった鼻をこすりながら、高岡の隣を並んで歩く。


高岡といると、不思議と肩の力が抜ける。




何を言っても、何をしても、最後には笑って受け止めてくれる。


清雅は、そんな高岡に何度も救われている気がした。




「俺、高岡さんのこと、けっこう好きです」


清雅は赤くなった自分の鼻を手であっためた。




「お前さぁ。そういうの、一ノ瀬隊長とかにも言ってんだろ?」


ふざけた口調で言いながらも割と本気で確認してくる高岡。




「一ノ瀬さんには……言ってないかも」




「へぇえ」


興味なさげな声を出しながらも嬉しそうだ。




「一ノ瀬さんに言うと、毎日家におしかけられそうな気がして……」




「ああ。あの人、そういうところあるよな……」




二人で苦笑した。





指定された神社は、町の外れに佇んでいた。


両端に並ぶ杉の葉は赤茶色に変色し、太陽を覆い隠すようにカサカサと音を立てる。


その音と暗闇が、清雅と高岡の進む道を、より不気味にしていた。




階段を登ろうとする二人に走り寄ってきた者がいる。




「高岡さん!近衛さん!」


薄めの羽織を羽織った岩崎だった。




「神社にでもお参りに行かれるのですか?」




口から白い息を吐き出し、ぐりぐりと大きな目で二人を交互に見る。




(こうやって見ると、岩崎は本当に大きいな)


鍛えてきた体のせいか、身長よりもよりさらに大きく見える岩崎だった。




「岩崎くんも今日は非番なんだ?」


清雅は行き先を見られたことに焦りつつも話題を変えた。




「いえ……。


 なんというか……」


歯切れが悪い。




「相良隊長に、しばらく警察所には来なくていいって言われたんです」




『え!!?』


清雅と高岡と九曜が同時に叫ぶ。




「……なんで?


 もしかして、重田さんのことを相良隊長に言ったの?」


心配げな清雅の声に、さらに心配そうな顔をした岩崎が深くうなずいた。




「私……。やはりクビでしょうか」


がっくりとうなだれた岩崎を見て高岡が首を捻った。




「相良隊長にかぎって、そんなことはないと思うがなぁ」




「高岡さんだって、丸山さんに情報漏らしたことありますもんね」


清雅の言葉に高岡がキレた。




「お前!!


 それ、俺がどれだけ傷ついているか知ってんのか?


 えぐるなよ!昔の傷を!後輩の前で!!」


清雅に殴りかかった高岡を見て


「高岡さんも、やらかしたことがあるんですね」


岩崎は少しほっとしたようだった。




「俺たち、今からこの神社で人と待ち合わせしてて、近衛の刀を見せに行くところなんだ」


唐突に高岡は岩崎にすべて吐露した。




「ちょ……


 なんで岩崎くんに全部言っちゃうんですか?」


清雅は驚いて高岡の手首を掴んだが、高岡は顎をくいっと神社のほうに向けると


「こんなヤバそうなところに、俺たち二人だけで行くより、岩崎にもついてきてもらった方がいいに決まってんだろ」


と、やすやすと裏切った。




「え?近衛さんの刀って、このあいだ落武者が飛び出してきた、アレですよね」




『戦国武者な!』


岩崎の言葉を、九曜が不快そうに訂正する。




「そう。


 もしかしたら、あやかし連合が絡んでるかもしれないけど、岩崎来るか?」


高岡の問いに岩崎は大真面目な顔で深く頷く。




「はい。今はただ、誰かの役に立ちたいと思っています」




『ワシは知らんぞ清雅』


九曜の声がいつもに増して厳しい。




『今から会う者は、ワシの見立てが正しければ、お前の母の秘密を知っておる』


ここからは清雅には聞こえてはいない。


『お前は母の秘密を知ることになるであろう。


 その時、果たして、全てを受け入れることができるのか……』




九曜は気づいていた。


神社へ続く階段を包む杉の木の根本、暗く影が落ちるその空間に、青紫色の紫陽花が咲き誇っていることを。


季節外れのそれは、誰かが清雅が来ることを歓迎しているようにも見てとれた。



(登場人物紹介)

挿絵(By みてみん)

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