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明治維新がこなかった....(下)  作者: yuyuko50
第二章 西洋人の江戸見学
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第37話 岩崎の謝罪

小笠原たちの退出を見送り、部屋を出ると、相良と黒崎は早々に警察所へ戻ろうと廊下を進む。


黒崎は一刻も早くこの場から姿を消したかった。


まるで、この城の空気を吸うたびに、自分の肺が黒く蝕まれるような錯覚さえおこってくる。




相良はひどくゆっくりと廊下を歩く。


ふと立ち止まったため、黒崎は相良の腕をとり肩を貸した。




「歩くのがつらいですか?」




「いや」


黒崎に腕をまわしたものの、相良は黒崎の言葉を否定した。




「ワシはお前に、かっこ悪いところばかり見せていると思ってな」


妙に弱気な言葉に黒崎は相良の横顔を見た。


しかし、言葉とはうらはらに目はしっかり前を向き、口元は皮肉げに歪んでいる。




「相良隊長は、かっこいいですよ」


思わずその顔を見て言葉が滑りでた。




相良は黒崎を見る。




「顔のことか?」




黒崎は一瞬黙り込んだ。




「顔も……ですかな」






背後に気配を感じ、二人は立ち止まった。




「相良」




静かで優しげな声。




振り返るとそこにはルブランが立っていた。





「怪我は?


 まだ……歩くのもつらそうですね」




「仲間の怪我の具合はどうだ?」


ルブランの問いには答えず、相良は斬られた西洋人を気遣った。




「怪我は軽かったようで、あと数日もすれば外にも出られます」


言って、顔を曇らせた。


「あなたは、もっと静養すべきように見えますが……」




「職務だからな」




ルブランは周りに視線を送り、誰もいないことを確かめると、相良と黒崎の近くへ歩み寄ってきた。




「助けてもらったことは本当に感謝しています」


少しうつむいたかと思うと、決意のこもった目で相良の目を覗き込む。




「しかし、あなたたちは、もっと自分の命を大事にするべきです」


黒崎には、その一言を言うために、ルブランが自分達を追いかけてきたのだろうと思った。




「組織よりも。職務よりも。


 まずはご自分を」




そこまで言うと、またうつむき、次に顔をあげた時には、人懐っこい笑顔を二人に向けた。




「まだ、わかってもらえないか、もしれませんが……」




相良はかすかに笑うと「では帰ったら陽が傾くまで寝るとしよう」と呟いた。






高岡と清雅は、第一隊の部屋の隅で二人でこそこそと話をしていた。




「次の非番の日を合わせましょう」


清雅の言葉に


「俺はいつでも合わせられるぞ」


と高岡が答える。




「そしたら、二人でその、京都から刀を見にくる男に会いに行けますね」


「よし」




話がまとまったとき、そっと障子の開く音がした。




「近衛さん」


遠慮気味に腰をかがめ、部屋に入ってきたのは岩崎だった。


後ろから同期の神崎と榊もついてくる。




「相談したいことがあるんですが良いですか」


高岡と清雅の両方の顔を交互に見て、岩崎はその場に正座した。




高岡と清雅は岩崎の方に向き直った。




「重田さんの件、隊長たちに黙っていていただき、ありがとうございました」


頭を下げる岩崎を見ながら、高岡と清雅はお互い意味ありげに視線を交わす。




「わかっています。


 このままじゃ駄目だって。


 ただ、私が自分で言うまで待っていてくれていたのでは…と思いまして」


両隣に神崎と榊も正座をして、同じように頭を下げた。




(良い同期をもったな)


清雅は三人を見て、思わず表情を緩ませた。




「お前が自分で言わないのなら、俺は早々に相良隊長に言うつもりだった」


高岡は腕組みをすると目を細めて岩崎を上から見やる。




「でもな」


高岡はそこで頭をかくと


「ここでは、上の人間は下の人間を監視せず、見守るのがやり方のようだからな」




「え?そうなんですか?」


清雅は高岡の顔をまじまじと見る。




「お前、気づかんのか?


 でないと、散々あんな九曜みたいな化け物だしておいて、隊長たちが何も言わないのもおかしいだろ」




ちょっとは考えろよと、先輩風をふかせるのが高岡だ。




「俺たちはみんな、そうやって、ここまで育ててもらったようなもんだ」


高岡は眉をよせ、唇をへの字に曲げているが、言葉の節々で、後輩三人のことを気にしているのがわかる。




「だから岩崎。


 お前も自分で考えろ。


 そして行動すればいい」




「高岡さんって……」


清雅が高岡をしみじみと見る。




「なに?」




「キャラ変えしました?」




「……っんだよ?キャラって?」




高岡と清雅がお互いの顔を見合っているとき、岩崎が急に泣き出した。




ぎょっとしたのは二人だけじゃない。


隣にいた神崎と榊も驚いて距離を置く。




榊は小さな声で「まじか」と口走った。




「お、俺。


 近衛さんのこと……本当に見下してて……」




「……


 それっぽいこと、前に聞いたけど。


 まだ言うんだ?」




清雅の言葉が聞こえていないのか、岩崎はまだ続ける。




「高岡さんのことも、嫌な奴だなって思ってたのに……」




「お、俺?


 そんなふうに思ってたの?」




岩崎の声が一段と大きくなった。


「そんな風に思っててくださり、ありがとうございました!!!!」




言うと急に立ち上がり、直立不動で頭を下げた。




『熱いのぉ』


九曜の声がする。




「……


 わかったんなら、いいんじゃない?」




高岡のちょっと傷ついた声が静かに響いた。

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