第35話 己の弱さ
外は暗くなり、隊士たちは家へと帰る。
西洋人を護衛した者たちは傷が癒えず、警察の宿舎に泊まるだろう。
相良は障子を少し開け月を見上げた。
凛とした光が部屋まで届く。
冬の夜はどの時期よりも最も静かなのではないかと相良は思う。
「情報をもらしたのは岩崎でしょうな」
奥にいた黒崎が独り言のようにつぶやいた。
つい存在を忘れてしまいそうになるくらい、黒崎からは人の気配が感じられない。
「問い詰めますか?」
綾小路にも同じ言葉を投げかけられたことを思い出し、相良は嫌な気持ちを打ち消すように膝をたてて顎を乗せた。
「何も出て来んだろ」
どのみち岩崎は何も知らない。
うまく使われただけだろう。
「だが」
相良は煙草盆を引き寄せた。
「自分で言うか言わないか。
岩崎という男を見ておく必要はありそうだな」
相良が箱を開けようとすると黒崎は「私はその煙がどうも」と呟いた。
相良は何事もなかったように、その箱を奥へおいやる。
「紫苑もワシに隠し事をしている」
黒崎は奥に座ったまま微動だにしない。
「それ」
黒崎の声が小さく響く、
相良は眉をひそめ黒崎を見た。
「執着ですか?」
思わず相良の表情がかたまる。
黒崎は突然立ち上がり、相良のところまで歩み寄ってきた。
さすがの相良も、黒崎の唐突な行動に思わず近づいてくる黒崎を見上げる。
「天羽先生に、一ノ瀬に執着するなと言われたはずです」
「……」
しばらく相良は黙っていた。
「近衛も、高岡も、何か隠しているのは誰の目にも明らか。
遮那との戦いの折に、何かあったのでしょう」
黒崎は言いながら相良の前に座り正座になった。
「時には見守ることも……」
「わかっておる」
黒崎の言葉を遮り、相良は障子を月が明るく見える位置まで開けた。
「岩崎も、紫苑も、清雅も高岡も」
そこで、ふっと相良の顔が緩んだ。
「皆、青い」
白く光る月が今宵は美しく、今日の戦いでたかぶった心を落ち着けてくれる。
「だがな、それをいちいち心配する己が、隊長でありながら一番甘いのだ」
相良の背を、黒崎は静かに眺めていた。
(いやいや。
あなたは十分よくやっています。私が二十八の頃などは)
黒崎はそこで思考するのをやめた。代わりに
「そうですね」と優しく付け加えた。




