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明治維新がこなかった....(下)  作者: yuyuko50
第二章 西洋人の江戸見学
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第35話 己の弱さ

外は暗くなり、隊士たちは家へと帰る。


西洋人を護衛した者たちは傷が癒えず、警察の宿舎に泊まるだろう。




相良は障子を少し開け月を見上げた。


凛とした光が部屋まで届く。


冬の夜はどの時期よりも最も静かなのではないかと相良は思う。




「情報をもらしたのは岩崎でしょうな」


奥にいた黒崎が独り言のようにつぶやいた。




つい存在を忘れてしまいそうになるくらい、黒崎からは人の気配が感じられない。




「問い詰めますか?」


綾小路にも同じ言葉を投げかけられたことを思い出し、相良は嫌な気持ちを打ち消すように膝をたてて顎を乗せた。




「何も出て来んだろ」


どのみち岩崎は何も知らない。


うまく使われただけだろう。




「だが」


相良は煙草盆を引き寄せた。




「自分で言うか言わないか。


 岩崎という男を見ておく必要はありそうだな」


相良が箱を開けようとすると黒崎は「私はその煙がどうも」と呟いた。




相良は何事もなかったように、その箱を奥へおいやる。




「紫苑もワシに隠し事をしている」




黒崎は奥に座ったまま微動だにしない。




「それ」




黒崎の声が小さく響く、


相良は眉をひそめ黒崎を見た。




「執着ですか?」




思わず相良の表情がかたまる。




黒崎は突然立ち上がり、相良のところまで歩み寄ってきた。


さすがの相良も、黒崎の唐突な行動に思わず近づいてくる黒崎を見上げる。




「天羽先生に、一ノ瀬に執着するなと言われたはずです」




「……」




しばらく相良は黙っていた。




「近衛も、高岡も、何か隠しているのは誰の目にも明らか。


 遮那との戦いの折に、何かあったのでしょう」




黒崎は言いながら相良の前に座り正座になった。




「時には見守ることも……」


「わかっておる」




黒崎の言葉を遮り、相良は障子を月が明るく見える位置まで開けた。




「岩崎も、紫苑も、清雅も高岡も」


そこで、ふっと相良の顔が緩んだ。


「皆、青い」


白く光る月が今宵は美しく、今日の戦いでたかぶった心を落ち着けてくれる。




「だがな、それをいちいち心配する己が、隊長でありながら一番甘いのだ」


相良の背を、黒崎は静かに眺めていた。


(いやいや。


 あなたは十分よくやっています。私が二十八の頃などは)


黒崎はそこで思考するのをやめた。代わりに


「そうですね」と優しく付け加えた。

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