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明治維新がこなかった....(下)  作者: yuyuko50
第二章 西洋人の江戸見学
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第32話 信じたい

「一ノ瀬さん、俺……」




元輝が消えたあと、三人は隊士たちの待つ場所へと急いでいた。




「すみませんでした……」




清雅は前を歩く一ノ瀬の背中に、とまどい気味に声をかけた。




「兄がまさか……」


清雅はなんと言ってわからず言葉を切る。




「俺、全然知らなくて」




ふと、一ノ瀬が足を止めた。


自然と、清雅と、隣を歩く高岡も足を止める。




「この話さー」


前を向いたまま一ノ瀬が言葉をつないだ。




「誰にも言わない方がいいから」




「え?」


高岡が代わりに返事をする。




「もし誰かの耳に入ったら、清雅くんのお家がお取り潰しになる可能性があるから」




清雅は、はっと息をのんだ。




その通りだ。




兄が、あやかし連合の頭だなんてことが知れたら、それは国家逆謀に値する。


公家はよっぽどのことがなければ、お取りつぶしを逃れることができる。


しかし、テロリストの首謀者となると話は別だろう。




「僕たちでなんとかするしかない」




「本気でいってるんですか?」


高岡は一ノ瀬の後ろ姿に思わず大声で反論した。




「俺たちだけで、なんとかなる相手じゃないですよね?」




「じゃあ、高岡くんは、清雅くんが警察にいれなくなってもいいの?」


振り返る一ノ瀬の顔は真剣で、高岡を戒めるような視線さえ感じる。




「僕が……


 何か考えるから……」




一ノ瀬は目を伏せたが、まぶたがわずかに震えているのを、清雅は見逃さなかった。




「だから、少し待ってほしい」




清雅は目頭が熱くなった。


一ノ瀬さんは警察の副隊長だ。立場がある。


こんなこと、この人の口から言わせてしまっても良いのだろうか……。






視線を前に戻し、一ノ瀬は歩き出した。




先ほどの高岡の自分を責めるような口調はもっともだと一ノ瀬は思っていた。


そして何より一ノ瀬が気にかかっているのは(本当に清雅くんは何も知らなかったのだろうか)である。




あの場面を見れば一目瞭然だろう。




しかし、この戦いで、あやかし連合と、戦国復古派率いるムカデ衆は結託していたのは確実だ。


そして、江戸警察内部にもムカデ衆が入り込んでいるのだ。




(兄との出会い、あれが演技だった可能性も否定できない)




一ノ瀬はあらゆる選択肢を常に考える。


しかし、この男の決定的な問題は、一ノ瀬自身も自覚しているが、一度信頼した者を疑うことができないことだ。




(清雅くんを信じたい)




だからこそ今はまだ、相良にも、黒崎にも、誰にもこのことを言うつもりはなかった。





三人が皆がいる場所についた頃には、江戸の人々も外に出ており、皆が協力して怪我人への治療を行っていた。


家から熱い湯をもってくるものや、懐紙や布を持ち、隊士の怪我を治療する町人たち。


お茶や菓子を運んでくるものまでいた。




「良かったぁ。みんな無事だったんですね」


一ノ瀬は極力明るい声で座り込む隊士たちに話しかける。




「一ノ瀬隊長、よくご無事で!」


鬼頭が慌てた様子で一ノ瀬に駆け寄った。


「怪我、されていますね。


 すぐに手当を」




「ありがとう」


一ノ瀬はにっこり笑ったが、鬼頭でさえ気づくほど、その笑顔はぎこちなかった。



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