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明治維新がこなかった....(下)  作者: yuyuko50
第二章 西洋人の江戸見学
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第29話 誰の裏切りか

黒い塊の化け物は跡形もなく地面に溶け込み、空を覆っていた黒い雲も、まるで何もなかったかのように消え去っていた。




高岡は清雅に肩を貸しながら「お前って、つくづくすごい奴だよな」と感心した声をあげる。




地面からつぎつぎ現れた妖たちも静まり返り、ようやく戦いも一息ついたようだ。


膝をついている者や、うずくまっている者、四つ這いになっている者など、それぞれが限界まで戦ったようだ。




「噛まれている者が、いなければいいが」


綾小路が不吉な顔で不吉な事をいった。





黒崎は相良に肩をかすと「警察所に戻るぞ」と早々に引き上げようとする。


(相変わらず黒崎さんは、相良隊長しか見ていないな)




鬼頭とエリオットが全ての隊士の怪我の具合を見るため走り回っていた。




そこへ第一隊副隊長の藤堂が肩をおさえながら、息をきらして走り込んできた。


「すみません。


 遅くなってしまって、まさかの裏切りが起こりまして、隊士の半分が負傷しました」




「誰が裏切った?」


鬼頭は珍しく怒りの形相で藤堂につめよる。




「重田です」




ちょうどその時、新人隊士三人が西洋人たちを連れてこちらに戻ってきていた。


西洋人たちはルブランと抱き合い無事を喜び合っていた。




重田の名前を聞いて、岩崎の表情が曇ったのが清雅にはわかった。




そんな様子を見ながら藤堂は話を続ける。


「前を歩いていた重田が振り向き様に斬りかかってきて、私と前列にいたものが負傷したところ、待ち伏せしていた敵に遭遇しました」




「重田はどうした?」




「私が斬りました」




言うと藤堂は悔しそうに歯を食いしばり頭を下げた。





岩崎は視線を下げたまま顔をあげようとしない。


そんな岩崎を神崎が心配そうに見ていた。





「紫苑はどうした?」


ふいに、黒崎に寄りかかったまま相良が問うた。




「え?」


清雅はあたりを見渡す。




「一ノ瀬さんがいない」


急に腹のあたりに嫌な感覚が湧き上がってきた。




(この、ずっと拭いきれないでいる嫌な予感は、まさか……)




「紫苑くんなら、遮那とかいう子供みたいな男と、あっちの方へ走って行ったわ」


綾小路が遠くの方を漠然と指さしながら相良に答えた。




「遮那だと?」


黒崎と相良は同時に叫ぶ。




「すみません、


 ワシが行くべきでした。一ノ瀬隊長を一人で行かせてしまうなど……」


鬼頭が二人に頭を下げる。




「どう見ても、紫苑くんの方が格上やと思うけど、心配する必要ある?」


周りの空気が一瞬で凍ったことに、綾小路は不思議そうに首をかしげた。




「ワシが探しに行く」


言って、黒崎から手をはなした相良を清雅がそっと両手で抑えた。


「相良隊長、その怪我でこれ以上は動かないでください」




相良の目が鋭く、しかし心配のためか翳りをもって清雅を見たが、珍しく大人しく引き下がった。




(近衛の言うことは聞くのか)


黒崎は少しむっとした顔をした。




「俺が探してきます」




「近衛!


 お前だって、さっきの戦いで……」


言いかけた高岡に清雅は真剣な眼差しを向ける。




「ずっと嫌な予感がしていました。


 嫌な気配を感じると言うか……


 だから多分、俺、一ノ瀬さんのいる場所が、わかるかもしれない」




「なら、俺も一緒に行くわ」


高岡の申し出に、清雅は心底心強いと感じ深くうなづいた。




「清雅」


ルブランに突如名前を呼ばれ、清雅は驚いてその茶色の瞳を見た。


「お気をつけて」


清雅の戦いを見ていたルブランは、本気で清雅の無事を祈ってくれているようだった。

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