第27話 化け物との戦い
清雅の呼びかけに集まった妖たちは、どれも力が弱い。
目の前の黒い人の塊と化した化け物に恐れおののいている。
しかし、その化け物の前に悠然と立つ清雅の強い意思により、おびえながらも九曜と共に自分たちの住処を守ろうとしていた。
「俺も逃げない。
だからこの化け物を皆で還そう」
言うと赤く光る九曜を抜き放った。
「戦国武者を出すのではなく、それを付与した刀で妖を斬るのか」
黒崎は顎をさすった。
「清雅!
俺も戦う!」
高岡が化け物の足元に滑り込む。
その高岡を狙い、化け物が鋭い爪のついた手を振り下ろした。
その手を避けながら、高岡は足に剛鳳ごうほうを斬り付けた。
―― ギエェエエ!
耳を塞ぎたくなるような奇声を発し、化け物の足が割れる。
しかし、その破れた足が、さらに別の足へと形を変えた。
「足が増えたぞ!」
つい足に気を取られた高岡めがけて、化け物の鋭い爪が光る。
清雅はそれを九曜で斬り落としたが、その切り口から別の手が二本生えてきた。
「まともに斬っては増え続けるぞ」
黒崎の忠告に、清雅と高岡は体制を立て直そうと後ろに下がる。
その瞬間、化け物の口から、まるで蛙のような長く鋭い舌が繰り出される。
それがルブラン目掛けて飛び出した。
ルブランは硬直したまま動けない。
―― キィイン!
黒崎が前に躍り出て刀で弾き返す。
「こやつ、ちゃっかり力の無いものを狙ってくる」
弾き返した勢いで四つにさけた舌は、四つの舌となって同時に再度ルブランを狙い、鋭い刀のように突きをはなった。
二つは防いだ。
しかし、残りの二つが黒崎の両肩に刺さる。
黒崎はその衝撃に数歩後ろによろめいた。
「黒崎さん!!」
清雅は九曜で舌を切り落とすが、今度は八つに別れそれぞれが鋭い刃となる。
「やばい。
俺たち死ぬぞ!」
すでに高岡は心が負け戦だ。
「高岡さんは、ルブランと黒崎さんを守って」
「私は守ってもらう必要はなし」
清雅の言葉に、黒崎は肩を押さえ顔をしかめながらも完全拒否の姿勢だ。
しかし、両肩を貫かれたため刀が手から滑り落ちた。
(斬れば斬るほど増え続ける)
清雅の心臓が跳ね上がる。
(守らなければ、俺がみんなを守らなければ。考えろ)
したたり落ちる血をもろともせず、黒崎は呪を唱え始めた。
紡ぎ出される言葉と共に、化け物の足元から美しい人間の手が現れる。
その手が化け物の三本足を捉えた。
無理やり地面に結え付けられた化け物は、その手から自分の足を引き剥がそうとする。
足がちぎれ、そこからまた別の足が現れる。
黒い人の形をした化け物は、複数の足を持つ人間になり、もはや人の形をした禍々しい生き物と化していた。
あまりの惨状に、黒崎の後ろにいたルブランが吐いた。
「これ以上その化け物に攻撃したらあかんよ」
冷めた声が聞こえてきたと思えば、いつの間にか黒崎の横に綾小路が立っている。
「相良隊長、あんたもなんとか言ったらどうや……戦いの指示を出すのは隊長の務めやろ……」
言うと同時に綾小路は目を見開き言葉を失った。
相良が膝たちになり、下をむいたまま動かないからだ。
胸を抑えるその手からは、ポタポタと血が滴り落ちていた。
「ちょ……
あんたたちの隊長、死んでるけど……いいん?」
「死んではおらん」
耳だけは聞こえているのか、顔は上げず言葉だけが返ってきた。
「貴様は文句ばかり言ってないで協力せんか!」
黒崎は怒鳴りながら自分の羽織を脱ぎ捨てると、小さく折りたたんで相良の胸の傷口へ強く押し当てた。
「ぐっ……っ」
相良の漏らした呻きにも構わず、黒崎はその上から帯を力任せに巻きつけ、ギチギチに結び目を作り固定した。
「そやから」
(江戸警察の揉め事に手を貸す気はなかったんやけど。
でもまあ、ここで皆に死なれても困る)
綾小路の頭に色々な考えが浮かんだが、そのまま言葉を続ける。
「自然界のことわり考えたらわかるやろ。
無理やり切り刻んだら、再生しようと躍起になる」
言っている間にも、妖は自分の足を押さえつける手を食いちぎり始めた。
手から悲痛な悲鳴が溢れ出た。
高岡が思わず耳をふさいだ。
「俺も吐くかも」
(そうか。倒そうとしてはいけない。ひとつひとつ還せばいい)
綾小路の言葉に、清雅は目を瞑り九曜に意識をうつす。
『そうじゃ。あれらは病、呪い、恨み、死の集合体』
(それぞれに向き合おう)
「黒崎さん!もう少し足止めできますか?」
清雅の問いに黒崎は静かに頷く。
「私も手伝おう」
綾小路がすばやく口元に指を添えた。
高岡は相良とルブランの前に立ち塞がり、妖から繰り出される攻撃に備えて構えをとる。
「行きます!」
言うと、清雅の目は赤く光り、口から静かに白い煙のような息がもれた。




