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明治維新がこなかった....(下)  作者: yuyuko50
第二章 西洋人の江戸見学
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第23話 因縁

綾小路は隣で戦う一ノ瀬の剣技にため息をつく。




「紫苑くんって、本当に強いねぇ」


「下の名前で呼ばないでくれます?」




一刀の元に敵を斬り伏せ、一息ついたところで一ノ瀬は綾小路を振り返る。




「そういう綾小路さんは、ぜんぜん戦ってませんよね?」


刀は抜いているものの、ただ周りの戦いの行く末を見ているだけのように一ノ瀬には見えた。




「普段、第一隊の隊長は戦わないんだよ」


そう言うと、遠くにいるであろう相良を、おでこに手を当てて探すふりをする。


「まあ、お宅の隊長殿は、真っ先に先頭で戦ってはりそうやけど」





「しかし、いよいよおかしいですね」


一ノ瀬は後方に目をこらす。




「第一隊が姿さえ見せない」




「こりゃあ、第一隊に、いたんじゃないかな?」




綾小路の言葉に一ノ瀬が嫌な顔をする。




「では、今頃、そこも死闘ですか」




「こっちは、そろそろ片付きよるけどね」


そう言った綾小路の足元を、不気味な黒い影がうごめきはじめた。




「危ない!」


一ノ瀬は綾小路を押し退けると、その足元の影に日本刀、鳳切(ほうぎり)を突き立てる。





―― ギャアアアアアアアア!





およそ、人とは思えぬ不気味な声が町中にこだました。





戦っていた者全てが一瞬手を止め、一ノ瀬が刺した影に目を向ける。





皆が見る中、むくむくとその影が起き上がり、大きな蛇の形を取り始める。


その頭に人影が立っていた。





「相変わらず、勘がいいというか、酷いというか」


人の三倍ほどの大きさの大蛇の頭から、子供のような声が降ってくる。




一ノ瀬は、顔色ひとつ変えず、綾小路を庇うようにその化け物に対峙した。


綾小路が口を手で塞いでいるのが見える。


多分、「出よった」と言っているのだろう。





「紫苑くん、生きてたんだ?」


蛇の上の人影がニタリと笑ったように見えた。




「久しぶりだねぇ。もう怪我は癒えたのかな?


 だいぶ深く食いちぎってやったと思うけど。


 しばらく立てなかったろ?」




見た目は十五、六歳くらい。


紫色の水干(すいかん)を纏い、高下駄を履いた男。


腹のあたりをポンポンと叩いている。





「えっと、誰?」


一ノ瀬は飄々とした態度で、それを見ぬふりして刀を肩に置いた。




「遮那(しゃな)だ!」


まるで何もなかったかのような一ノ瀬の態度に、怒りの声が降ってきた。




「あ、そう」


言いながら一ノ瀬は周りを見渡した。


(ここで戦うと、町の人も巻き込むかもしれない)




戦いが繰り広げられたと同時に、すでに町ゆく人々は家の中に閉じこもり、扉や窓を固く閉めている。


江戸では、侍同士の斬り合いはよくあることで、人々も慣れたものだ。




(妖との戦いとなると、どうなることやら)




一ノ瀬は遮那を見据えたまま、刀を低く構え、隊から距離を取るように走った。




「逃げるの?」




予想通り遮那は一ノ瀬についてくる。


思ったよりも一ノ瀬に執着しているようだ。




「紫苑くん!一人で戦うつもり?」


綾小路が後ろから叫ぶが、ついてくる気はなさそうだ。




「まあ、君は強いから大丈夫か」


声は遠ざかり、一ノ瀬は遮那を連れたまま、人気の少ない大通りまで走った。




(因縁の対決というものは、早めにカタをつけておいたほうがいい)


深く息を吸い、自分にとって有利に働く場所をすばやく目だけで探した。





「行ってしまった」


つぶやく綾小路の横で、鬼頭が一ノ瀬の消えた方角を目を細めてみる。




「ワシも行きます。


 あれは前に一ノ瀬隊長が殺したはずだ。人間ではない」


鬼頭は遮那の姿を捉えたと同時に、一ノ瀬が死にかけた苦い記憶が蘇った。


(一度起こったことだ。また起こらないとは言い切れん)




駆けつけようとした鬼頭の足元に、複数の黒い影が浮き上がった。




「助けに行くって、言うてる場合じゃないかもしれんで」


綾小路はわかっていたかのように、にわかに刀をかまえる。




「妖を扱うものっていうのは、複数の化け物を連れてくるものやから、こっからたくさん沸いてくるわ」




足を踏み鳴らすと、綾小路は軽く呪を唱え始めた。

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