第21話 計画どおりに
岩崎は、いきなり現れた刺客がルブランを襲い、躍り出た相良が代わりに斬られたところまでを、微動だにせずに見ていた。
「そんなっ」
理想と現実は違う。
あの時、とっさに身を挺して庇うことが、はたして自分にはできたのだろうか。
そうこうしているうちに、隣にいた神崎が突如走り出し、刀を振り下ろそうとした刺客の一撃を必死に受け止めていた。
(自分は何をやっているのだろう)
呆然と見ていただけだった。
重田の言葉を思い出した。
(これは良い機会かもしれない)
その言葉も、今この死闘が繰り広げられている場では、世迷言のように感じてしまうのだった。
「俺も何かしなければ」
ぐるりと周りを見渡す。
重田の言葉が脳裏に浮かんだ。
「いざとなったら、路地へ西洋人を連れて行け。
あそこなら、周りが建物に囲まれ守りやすい」
確か相良も、奇襲を受けた場合、敵をしとめるために路地へおびき寄せるという計画を立てていた。
「俺がやらなければ」
(せめて、最初に立てた計画を実行するくらいなら、それなら俺にもできるはず)
真ん中で怯え、ひとかたまりになっている西洋人のところへ岩崎は走り寄った。
黒崎は刺客の一人を斬り捨て周りを見た。
相良から「奇襲を受ければ路地へ入り込む」と前もって指示を受けていた。
今も、一ノ瀬から路地に向かうと通達を受けたばかりだ。
しかし襲ってくる刺客を見ると明らかに数が少ない。
(何か裏があるな)
このまま路地に、西洋人たちを連れて行くのは危険だろう。
もし、我々の計画をすでに敵に知られていたら?
路地に連れ込むよう、誘導されている可能性がある。
幸い、刺客に襲われても、相良から直接の指示はまだ飛んでこない。
(このままいったん様子を見るのが無難だな)
黒崎が頭をめぐらしている時、背後から誰かが黒崎の肩をひいた。
「相良を助けて」
振り返ると、ルブランの茶色の瞳が黒崎を必死に見つめていた。
(こういう顔もするのだな)
場違いだが、黒崎はこのルブランという男の必死の顔を見て、初めて人間だったのかと思った。
「相良が、私を庇って怪我を負った」
ルブランのその言葉に黒崎は、はっと我にかえった。
「なんだと!」
急いで相良の方へ向かう。
後ろ姿の相良は、敵の一人と斬り合っていた。
確かに、足元がおかしい。
あきらかに、ふらついている。
(どの程度、深く斬られたか?)
相良の性格から、たとえ斬られたとしても、前線をひくことはないだろう。
(一ノ瀬は何をしている?)
なぜだか知らないが、一ノ瀬がそばにいないことに怒りが沸いた。
相良の首めがけて振り下ろされた刺客の刀を、黒崎は弾き返した。
「まさかとは思いますが、西洋人だけでなく、相良隊長の命も狙われています」
刀をはじいた黒崎を、相良は振り返り見た。
相良の周りに集まる刺客の数が、他と比べて異様に多い。
「まさかではない。
確実にワシの首も狙ってきている」
どうやら相良も気づいていたようだ。
黒崎は、相良の怪我の具合を素早く確認した。
胸から脇あたりに幅広く血が広がっている。
(庇ったということは、受け身を取れていないか)
「内臓は無事だ。まだ戦える」
黒崎の視線に気づいたのか、言い訳のように相良が言う。
早々に戦うことをやめさせたいという衝動にかられたが、本人がそう言うのなら仕方ないだろう。
言って聞く男ではない。
「そうですね。では、ご納得のいくまで」
無表情で返す黒崎の言葉に、背後でルブランが息をのむのがわかった。




