第20話 覚悟
「相良!!!」
腕の中に倒れた相良は、気を失ってしまったのか動く気配がない。
そこへ、刀の血を振り払った刺客の男がゆうゆうと近づいてくる。
自分と、相良のとどめをさすつもりだろう。
同時にあちこちから一斉に、隊士たちと刺客の怒声がルブランの耳にこだました。
刺客があちこちで同時に隊を襲ったのだ。
相良を斬った男は刀を振り上げ、ルブランと相良の前に仁王立ちになった。
切先の反り上がった日本刀が陽の光に眩く美しく光る
(あの刀で斬られると、ひどく痛そうだ)
ルブランの脳裏に冷静な分析と、どうしようもない恐怖がよぎった。
男は笑みさえ浮かべ、見せつけるように刀身を閃かせた。
(殺される!)
ルブランは相良の頭をきつく抱きしめた。
ブン!!!
無言で振り下ろされる日本刀。
しかし、振り下ろされた刀は、ギィインと音をたてて弾き返された。
ルブランは驚き思わず顔を上げる。
素早く二人の前に回り込んだのは……新人隊士の神崎だ。
緊張からか、すでに息をきらし、腰をかがめて男の前に立ちはだかっている。
刀を持つ手が震えているのは、先ほどの刺客の一撃のなごりか……それとも。
刺客が、剣を顔の横に構える。
暗い目が神崎を見据え、気味悪く笑っていた。
神崎の刀を握る手はすでに汗で滑り落ちそうだ。
(心臓がどくどくなる)
神崎は自分が震えているのがわかった。
(こいつは強い。
それに、私は人をまだ斬ったことがない)
神崎の心をよんだように、刺客の口元がいやらしく笑った。
「てぇやああああ」
男の声に神崎の肩がびくりと震えた。
―― ザシュ!!!!!
思わず目をつぶりそうになった神崎の足元に、男の首がごろりと転がった。
「よくやった神崎」
声の方を見上げると、相良が刀を振りおろした体制で立っていた。
「さ……相良隊長……」
(いつの間に)
腰が抜けそうになったが、かろうじて踏みとどまる。
相良を見ると、着物には血がどす黒く染み付いていた。
「まだ来る」
相良の声に前方を見ると、先ほどの刺客と同じような町人の姿をした男が数人こちらに向かってかけてくる。
まるで忍者のような走り方だ。
背後では、他の隊士たちが、同じいでたちの男たちと斬り合っていた。
その中心には、怯えた西洋人たちが、ひとかたまりになっている。
「他の新人と、あいつらを守れ。
敵はお前らより格上だ。
相手にするんじゃねえ」
「は……はい」
相良隊長の怪我は……
大丈夫ですか……
言葉に出して問いたかったが、緊張からか頭がうまく動かなかった。
心の中だけで疑問をなげかけ、神崎は後方に下がった。
「相良!」
「下がってろ!」
ルブランの呼びかけを無視し、相良は前方から来る二人の刺客に全ての意識向ける。
一人目は低い姿勢からすぐに斬り上げてきた。
相良はそれをかわし相手の体制を崩す。
前のめりに体勢を崩し、がら空きになった刺客の背中をつかみ、走ってくる二人目の足元へと容赦なく放り投げた。
「ぬおっ」
二人目の刺客が慌てて足を踏みとどまらせたが、その一瞬の隙をつき、二人目の腹に深々と刀を斬り込む。
鮮やかだ。
怪我などもろともしない。
這いつくばった一人目の敵は、急いで体制を立て直そうとしたが、相良の上段からの一撃を首にうけ、そのまま絶命した。
「まだ来るか」
相良は前方に目を凝らしたが、同時に足元がよろける。
ぐっと踏みとどまったが、血を失ったせいか眩暈がする。
目をきつく瞑ったが、ぐらぐらと周りが揺れているようだ。
(集中力がもたねぇ)
意識をむりやり呼び覚まし前を見据えた。
自分が倒れることは、職務の失敗を意味する。
「相良!」
ふたたびルブランが相良の近くに走り寄った。
「あなたは今、怪我をしている。後ろに下がるべきだ」
そう言うと、強く相良の袖を引っ張った。
その手を乱暴に払いのけ、相良は血走った目でルブランを睨む。
「お前たちを守るのが今のワシの職務。
それを放棄しろというのか!?」
その怒りを吐き出さんばかりの言葉と同時に、口から血がほとばしっていた。
ルブランは、相良の剣幕に思わず手を放した。
(なぜ)
理解ができない。
放棄しろとは言っていない。そのままでは死ぬかもしれないと言っているのだ。
そして急いで周りを見渡す。
(誰か……)
ルブランは、自分では止められないと感じた。
周りは、激戦の最中にあった。
どの敵も腕の良い剣客であることは確かだ。
綾小路が呼子笛を吹き、第一隊へ合図を送っている。
第一隊は近くで待機しており、有事の際にすぐに駆けつける手筈となっていた。
敵は、ざっと十人程度。
第一隊が到着すれば、数でこちらが一気に有利になる。
だがそれでは間に合わない。
ルブランは背後で敵を斬り伏せたばかりの黒崎をみつけた。
(誰か……)
周りの敵を気にしながらも、黒崎のところへ急いで走り寄った。
「相良を!」
(誰でもいい……)
息を切らし唾を飲み込む。
黒崎は振り返った。
「相良を助けてください!!」
祈るように黒崎の肩をつかんだ。




