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九三 山の神 3/6

 和野の菊池菊蔵という人の妻は、笛吹峠の向こうの橋野(釜石市)出身の人です。


 この妻が親里へ行っている間に、糸蔵という5,6歳の息子が病気になったので、菊蔵さんはお昼すぎから笛吹峠を越えて妻を連れに妻の親里に出発しました。

 六角牛山の峰続きなので山路は樹が深く、特に栗橋(詳細不明)へ行こうとするあたりは、道はウド(両側が高く切り通された道。東海道のウタウ坂、謡坂などの地名は全てこのような坂です)になっていて両脇はそば(山の切り立った所、崖)です。

 太陽がこの岨に隠れてやや薄暗くなった頃、後ろの方から菊蔵さんの名を呼ぶ者がいたので振り返ると、崖の上から覗く者がいました。

 顔が赭く目が輝いているのは以前お話したままです。

 その者は


「お前の子はもうすでに死んでいるぞ」

 と言います。

 この言葉を聞いて恐ろしさよりも先にはっと思いましたが、すでにその姿は見えませんでした。

 菊蔵さんが急いで夜中に妻を伴って帰ってくると、その子は死んでいました。

 4,5年前(明治)の事です。

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