九四 狐 2/3
同じく菊蔵さんが柏崎の姉の家に用があって行き、振舞われた残りのお餅を懐に入れて、愛宕山の麓の林を過ぎた時に、象坪の藤七(象坪とは柏崎にある山及び地名です。また藤七さんの名字でもあります)という大酒飲みの親友と会いました。
そこは林の中ですが少し芝原のある所です。
藤七さんはにこにことしてその芝原を指差し、
「ここで相撲を取らないか」
と言います。
菊蔵はこれを承諾し、この時の藤七さんは弱く軽く自由に抱えて投げられる程だったので、面白いままに3番まで取りました。
「今日はとても構わなかったな。さあ行こうか」
と藤七さんから言って別れました。
菊蔵さんが4,5間(1間は約1.8メートルなので、7.2〜9.0メートルです)も歩いた頃に懐のお餅が無くなっていることに気が付きました。
彼が相撲場に戻って探しましたが見つからず、始めてあれは狐だったのかと思いましたが、外聞を恥じて誰にも言いませんでした。
そして4,5日後に酒屋(居酒屋かお酒の小売店かは分かりません)で藤七さんに合ってその話をすると、
「俺が相撲なんて取れるはずもない。その日は浜へ行っていたのだから」
と言われて、いよいよ狐と相撲を取ったという事実が発覚しました。
しかし菊蔵さんはなお他に人々には包み隠していましたが、昨年(明治)のお正月に人々が酒の肴に狐の話をしていた時、
「俺も実は…」
と菊蔵さんはこの事を白状し、大いに笑われました。




