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七九 まぼろし 3/5

 この長蔵さんの父もまた長蔵といいます。(以下、長蔵(父/子)と書き分けます)

 代々田尻家の奉公人で、彼の妻とともに仕えていました。


 長蔵(父)が若い頃の夜に遊びに出て、まだ宵(日が暮れてから暫くの間)のうちに帰ってきた時に、角の門から入ると、ほら(虚ろな場所、暗い場所を指していると思われます)の前に立つ人影がありました。

 懐手ふところで(懐に手を入れていること、他に人任せにして何もしていないことも指します)で筒袖つつそで(和服の袖を指します)を垂らして、頭はぼうとしてよく見えませんでした。

 長蔵(父)さんの妻はおつねと言います。

 長蔵(父)さんが、おつねさんの所へ来たヨバヒト(呼ばい(夜這い)人)かと思いつかつかと近寄ると、奥へ逃げずしてかえって右手の玄関の方へ寄ったので、人を馬鹿にするなと腹立たしくなって、なお近寄ると、懐手のまま後退りして玄関の戸の3寸(約10センチ)ほど開いたところから、すっと家に入っていきました。

 しかし長蔵(父)さんは不思議と思わず、その戸の隙間に手を入れて中を探ろうとすると、中の障子はきちんと閉じていました。

 ここで初めて少し恐ろしくなり、少し下がろうとして上を見れば、その男は玄関の雲壁くもかべ(玄関や窓の上には横木なげしがあって、それと屋根までを埋める壁です)にひたついて長蔵(父)さんを見下してきて、その首は低く垂れて長蔵(父)さんの頭に触れ、その眼球は1尺(約30.3センチ)余りもとび出ているように思ったと言います。(混乱や恐怖があったのでしょう)

 この時はただ恐ろしかっただけで前兆のようなものはありませんでした。

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