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一三 家の盛衰 1/7
この新田乙蔵という老人は、数十年の間、山の中に一人で住んでいました。
家柄は良いのですが若い頃に財産を傾けて失ってしまったのです。
それからは世の中に思いを断ち、道を通る人に甘酒を売って生活をしていました。
馬子(孫ではありません)達はこの人を父のように思って親しんでいたそうです。
彼は収入に少し余りが出れば、町に下ってきて酒を飲みます。
赤い毛布で作った半纏を着て赤い頭巾を被り、酔えば町の中を踊って帰るような人でしたが巡査さんも咎めませんでした。
今(明治)は老衰して里に戻り、貧相な暮らしをしています。
子供は全員が北海道に行ってしまったので彼は一人です。
この話は一見蛇足的ですが、小説を書いているとこういった人物紹介の文章を短く正確に書く事の凄さがわかります。




