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魔王の力をお借りします!  作者: 働く猫の日常
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初めて竜を退治します。(16)


ルガト


 聖戦では魔王軍に属し、シルビアと同じく1つの騎士団を纏める団長クラスだったはずだ。そして魔族の中でも希少種に分類される吸血鬼(ヴァンパイア)の生き残り。


 竜騎士団という集団も奴の吸血鬼一族としての能力が無ければ成立していなかった。


 「アフトクラトラスなんていつの間に手なずけたのかしら。あの孤島に辿り着くばかりか、飛王竜の目を盗んで、その稚児(ちご)を能力の支配下に置くなんて信じがたいわね」


 『魅了(チャーム)』


 吸血鬼の能力の一つである。一定量の吸血さえ成功させれば、どんな相手だとしても自身の指揮下に置くことができる。この能力で奴は何十匹という竜をその支配下に治め、魔王軍の機動隊としての役割を果たした。


 「俺の実力を持ってすれば難しくはない。と言いたいところだが今回は幸運と良き同志に恵まれたというところだ。万事うまく運び、此奴(こやつ)の母体と戦闘になることなく、屈服させることに成功した。無論、それなりの犠牲も払ったがな」


 ルガトはワイバーンを地面に着陸させると、自身も地にその足をつけた。


 「そして此奴(こいつ)の試運転を兼ねて、この村の『宝玉』を奪取しに来たという訳だ」


 「あの傭兵たちを差し向けたのも、あなたね」


 「できる限り痕跡を残したくはなかったのでな。あくまでも愚かな人間たちの蛮行だと偽装するのが目的だった。それなりの実力者を選んだつもりだったが結果は知っての通りだ。まさかお前がここにいるとは思わなかった」


 「あの夜、すぐそばにあなたの魔力を感じていたわ。なぜ、すぐに襲ってこなかった?あの時であれば騎士団も到着していなかった」


 「旧友との感動の再会なのだぞ?お互いにそれ相応の準備が必要だと思っただけのこと。あれだけわかりやすく魔力を開放していたのだ。いくら低級魔族の貴様と言えど気づくとふんでいたのだ。そのほうが交渉も円滑に進むだろう」


 両方武器を下げ、旧友との会話に興じているように見えるが全く隙がない。一刻も早くエルシッドを抱え治療を施さなくてはならない。しかし俺の全身が警告を発している。シルビアから離れればすぐにでも殺される。


 「交渉ですって?あなたと話すことなんて何もないわ。気づいていないようだから教えてあげるけど私(わたくし)はあなたのことが昔から嫌いなのよ」


 「久しぶりの再会に免じて、その無礼な発言を今は見逃そう。今日の俺の目的は2つだ。『宝玉』の奪取、そしてシルビア、貴様を再び仲間に迎えることだ。もう既に生きのこった同胞のほとんどが集結している。あの聖戦での屈辱、まさか忘れたわけではあるまい。今度こそ我ら同胞の雪辱を晴らすときだ」


 魔王軍残党が町を襲っているという話はジークから聞いている。


 しかし、これは俺が考えていた以上に事態は深刻なのかも知れなかった。


 幹部クラスの集結に加え、竜王種をも従え、さらには強力後ろ楯の存在まで感じさせる。これでは本当に聖戦の再来だ。人間に恨みを抱えるものもまだ多く存在しているだろう。


 シルビアだってその一人のはずだ。多くのものを失い、傷つきながら長い放浪の旅をしていた。その中で俺のようなものと出会い、一時(いっとき)の気の迷いで俺に力を貸してくれているに過ぎないのだ。


 かつての同胞。同じ志(こころざし)を掲げ、戦い抜いたその仲間たちが再び剣を取ろうとしている。仮にも1つの騎士団を纏め上げた実力者である。慕い、付き従うものも少なくなかったはずだ。


 そのルガトからの呼びかけにシルビアは微笑み、笑顔で答えた。


 「だからあなたのことが嫌いと言っているじゃない?ストーカー紛(まが)いのことは止めてもらえるかしら。ああ、嫌だわ。まるで自分の誘いが断られるはずがないっていう自信満々なその顔。怖気(おぞけ)が走るわ」


 うわあ。シルビアなんてこと言ってんだよ。ルガトのやつ固まってんぞ。余裕のある表情がいまはただただ痛ましく見える。


 「貴様は人間が憎くはないのか?あれほど魔王を慕っていたお前が!あの忠義は偽物であったと言うのか!?」


 「魔王様を慕う気持ちは変わらない、いや時が経つにつれ増すと言っても過言ではないわ。人間が憎くは無いかですって?何で私(わたくし)が人間なんぞに関心を持たなくてはいけないのかしら。魔王様を殺したあの人間は確かに憎いわ。けれどもう死んでしまっているもの。私の今の生きる目的は魔王様をいずれ超える存在となる、このエリック様のお傍(そば)にお仕えすることのみよ」


 『魔王様のいない世界で生きる意味はないのよ』


 俺と出会ったとき、虚ろな目で今にも消えてしまいそうな、消えてしまいたいと心から願っていた彼女は自身の生きる目的をはっきりと口にした。


 負うべき責任を放棄し、見たくないものから目を背け、犠牲になった、犠牲にしてきたもの全てから憎まれることになったとしても、自身の心の赴くほうへ歩みを進める。


 自己中心的で利己的なその理由は誰に責められたとしてもおかしくはないものである。しかし、その考えを良しとするまでにどんな葛藤があったのか、どれほど自分を傷つけたのか。そして何を諦め、何を選んだのか。その過程を知る俺にとって、その意味は重い。


 「クク、クハハハハハハハハハハハハ」


 さきほどまで怒りや驚き、焦燥によって表情を強張(こわば)らせていたルガトであったが、今度は堪えきれないとばかり笑い声を上げる。


 ガキンッ


 「えッ」


 身の丈をゆうに超える槍が俺の左頬の肉をわずかに削り、後方へと吹き飛んでいく。


 気づけばルガトの手から槍はなくなっており、シルビアは剣を再び抜いていた。


 「よもや騎士団長の1人である貴様が、そのような小僧にかどわかされようとはな」


 「ルガト、あなたがこれから先、何を企んでいようと私(わたくし)には関係の無いこと。けれどエリック様に危害を加えようとするなら」


 殺すわよ。と、かつての仲間にその剣先を向け、敵対の意思を明確に示した。


 「随分、この小僧にご執心なんだな。わかった、安心しろ。俺がお前をたぶらかすこの小僧をこの村ごと消し去ってやる。そもそも最初からそのつもりだったんだからな!俺がここに連れてきた竜がアフトクラトラス1匹だと思ったか!?」


 「------っ」


 村のほうからは煙が上がっているのが見える。ルガトに気を取られていたが村人の悲鳴、そして騎士団が武器で応戦している音も聞こえる。


 「ワイバーンの軍勢を既にこの村を襲わせている。果たして騎士団だけで太刀打ちできるか楽しみだ」


 「くっ」


 「行かせるか!」


 瞬時に村の方向へと走りだそうとするシルビアに攻撃を仕掛けるルガト。その手には錬成魔法で創り出した新たな槍が握られている。


 「ちっ。未練がましい男はこれだから嫌だわ」


 軽口を叩きながらもシルビアの表情には一切の余裕はなく、攻撃を凌ぐので精いっぱいのようである。第一、戦場に置いて槍はそもそも剣よりも有利だと言われているのだ。


 『剣術三倍段」。槍を相手にするならば3倍の実力を要するという格言が騎士団の中であるほどである。魔法の実力が同等ならば、この戦闘においてシルビアは圧倒的に不利である。


 「そんな心配そうな顔にで見ないで欲しいですわ、エリック様」


 不安な表情を浮かべていた俺にシルビアはそれでも言う。


 「あなた様が信じてくれさせすればどんな状況も打破して見せますわ。私(わたくし)はエリック様の期待には必ず応えますもの」


 「無駄口叩く余裕がまだあるとはな!」


 ルガトの猛攻は威力を増すばかりである。シルビアは多少の擦過傷を受けることはあれど、その攻撃を全てさばき切り、ギリギリのところで防いでいる。


 「ふん、このままでは埒(らち)が明かないな。先に目標を達成するとするか。俺はお前を倒す必要などないのだからな。お前が潔くこちらの仲間になる状況を作りだせさせすれば良いのだ」


 パチン


 ルガトが指を鳴らすと先ほどまで静観していたアフトクラトラスが意識を取り戻したように動き始めた。


 「なっ!?まさかシルビアを挟み撃ちにするつもりか!」


 「愚か者め、そのような無粋なことなどするものか」


 アフトクラトラスはその両翼をはためかせ、その巨体をはるか上空まで上昇させた。


 「アフトクラトラスよ、『宝玉』を奪取して来るのだ。所有者はあの牧師の娘だ。強い魔力の波動を辿ればみつかるだろう。回収後はワイバーンに加勢し、騎士もろとも村を焼き払え。手負いの貴様とてそれぐらいはできよう」


 アフトクラトラスはルガトの指示を理解したのか、村へ向かい飛行を開始した。あの方角は村の集会所だ。エルザとニーアがそこにいるはずだ。


 「エリック様!」


 動き出せずにいる俺にシルビアは呼びかける。


 「この不敬者の相手は私(わたくし)が務めます。エリック様はあの娘の救援へ!」


 俺は目の前に倒れているエルシッドの姿から目が離せなくなっている。騎士団の一員ですらこの有様(ありさま)なのだ。もし、自分が向かえばどうなるか。最悪の状況が頭をよぎる。


 「行くしかないのです!それともエリック様にはエルザを見捨てるという選択肢がおありなのですか!そうでないのなら、向かう以外に取るべき行動は無いはずです!」


 そこまで言われてハッとした。


 行くしかない。その通りだった。俺にエルザを見捨てるという選択肢がないのだ。それならば走り出すことしかできない。どんな結果に至ろうとも、エルザを救う。淳前たる死の恐怖に俺の最優先事項が見えなくなっていた。


 俺は未だ意識の戻っていないエルシッドを担ぎ、村へ一歩目を踏み出す。


 「ここはシルビア、お前に託す。だから、」


 だから飛王竜は俺に任せろ!そう叫び、俺は気づけばすぐにでも恐怖で使い物にならなくなる手足に力を籠(こ)め持てる全てを振り絞り集会所へ、エルザの許(もと)へと駆け出した。


 「ええ、このシルビア。信じてお待ちしておりますとも!」


 後ろから聞こえる俺の活躍を信じて疑わない激励の声を背に受けて俺は速度を速めた。

 


 


 

 

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