初めて竜を退治します。(9)
広場に行くと確かにジークがいた。
いたにはいたが、縛り付けられていた。
「はははははははは、ニーア、ありがとうな。お前がいなければ腹が減って死んでいたところだったぞ。全くアレットの婆さんも足元に食べ物置いてくれたのは嬉しいが、自分じゃ食べられないからな。うむ、この気立ての良さ。村で二番目の良妻になることだろう!一番はもちろんエルザだからな!」
ジークは広場中央の木に縛り付けられていた。足元にはお供え物のような形で野菜やら果物やらが置いてある。
小さいニーアはどこから持ってきたのか、木箱に乗りながら精いっぱい手を伸ばし食べ物をジークに与えていた。お礼を言われたからか、その表情は満足気である。
「どういたしまして、ジーク牧師。また何かあったら呼んでね」ニーアはそう言うと木箱をその両手に抱えながらどこかへと行ってしまった。
ああ、エルザにもあんなに素直で可愛らしい時期が昔には、、、、、無かったな。昔から触れば冷たすぎて低温火傷するかと思うような仕打ちを受けることがあった。
そして、その文字通り生みの親がそこのジークである。
さきほどまで多少なりとも怒りを感じていたが、木に縛り付けられ、年端のいかない少女に食べ物を与えられている姿を見て、その顔面に一撃を食らわせる気持ちは霧散してしまった。
「何だ、そこにいるのはエリックじゃないか。どうした、俺のことが心配で様子でも見に来たのか。その気持ちは見上げたものだが、余計なお世話だ。さっさとどこかに行ってくれ」
ニーアによって口まで運ばれた食べ物を咀嚼しながら、心底嫌そうな表情をする。
「世界のどこに、自分の顔面目掛けて魔法をぶっ放す暴漢を心配するやつがいるんだよ。全く全然心配していない。願わくば一日中ここに縛り付けられていて欲しいと思っている」
人類の罪というか自分自身の罪を一身に背負って磔の刑に処されている牧師がここにいる。しかも割と俗な理由で。
「ははははは、俺は別にそれでも構わんぞ!日頃の行いゆえに、見ろ、村の人たちが食べものを置いてくれる上、食事の世話までしてくれるのだ。木陰で陽の光に焼かれることもない。快適至極、旅からの疲れを癒すにはもってこいだ」
「そんな人望厚いやつを木に縛り付けるやつもいないだろうが。縛りつけるってことは縛り付けておきたいって思われてるってことだ」
心理と行動は矛盾しない。とはだれか学者の言葉だったか。
「勘違いしているようだな、エリック。俺を縛り付けたのは村の住民たちではない。俺を縛り付けたのはエルザだ。いや、万が一に備え、縄の使い方を一通り仕込んでおいたがここまで完璧にマスターしているとは。縄抜けの心得がある俺でも、抜け出せん。我が娘ながら称賛に値する!」
「一体どんな状況に備えて緊縛の技術を仕込んでんだお前は!」
「あらゆる事態に備えてに決まっているだろう。想定される事態としては、恋仲となる相手に浮気の疑惑が浮上したときに逃げられないようにだな。魔法はもちろんのこと、交渉術、航海術、索敵方法に至るまであらゆる技術を叩き込んである。これも全てエルザの幸せのためだ」
俺の知らないところで幼馴染が王都諜報員並みの特殊訓練を受けていたことが判明した。こいつは自分の娘を国の暗部にでも仕上げるつもりか。その先にどんな幸せがあるというのか。だいたいそういう業を背負った奴は因果応報な目にあって悲惨な最期を迎えるものだが。
ん?あらゆる技術を叩き込んだとジークはいったか?
「そのあらゆる技術に短刀の扱いは入っているのか。例えば刺殺の方法とか、投げナイフの要領とか?」
「はははは、当たり前ではないか!そこらへんも抜かりなく!縫合しにくい切り方や状況に即した投げナイフの方法などは幼少期に済ましているわ!いまや、人の頭に乗せられたリンゴの的も正確に当てられるぞ。この技術があれば、不埒な輩など瞬殺にできる」
「やはりお前が犯人か!」
さきほど、俺が死にそうになった要因が目の前にいた。そう考えると怒りも再燃しようというものだ。いつも思うが、ジークの教育愛は別の方向へ向いてしまっている。
今更ながらエルザと付き合うことになったときのことを考えてぞっとした。最悪の場合は最愛の妻に殺される可能性もある。しかもあの性格も相まって、濡れ衣で殺されるかもしれない。
こちらも防ぐ手立てを考えておく必要があるということか。決死の覚悟で結婚生活を送るのは嫌だ。甘々の結婚生活希望である。
相死相愛。愛し合いたいが、殺し合いたくはない。
「そういう訳で娘の成長をこの緊縛を通して感じているという訳だ。ちなみに村の住人の中には解こうとしてくれる人もいたが、丁重にお断りをした。娘によって縛り付けられているこの状況をもう少し堪能していたかったからな」
この状況を楽しんでしまっている。なんか、こう、まっすぐ娘の成長を願えないものか。まず間違いなくこいつは俺とエルザの恋路の前に立ちはだかるだろう。それはもうラスボス的な意味合いで。




