初めて竜を退治します。(8)
「俺のベッドで何してるんだ!?」
「どうされましたか、エリック様!?もしや侵入者でしょうか!?エリック様の意識が無いところを狙い好き勝手に振る舞うなど許されざる蛮行!しかし、ご安心を!この忠臣、シルビア・オーベルニュがこのような場合に備えておりましたわ!さあ、侵入者め、生きて帰れると思わないことね」
「俺の意識がないのを良いことに好き勝手に振る舞っている侵入者はお前だよ!?」
っていうかシルビアは何という恰好をしているんだ。エルザはコレをネグリジェと形容したが布が足りなすぎる!ほぼ肌が露出しすぎて、もはや下着姿と大差ないぞ!
「ああ、この恰好でしょうか?よくぞ聞いてくださいました。ただ主の身をお守りするなど三流のすること。私ぐらいになれば、添い寝をすることで快適な睡眠をお届けし、お目覚めの際には、この研ぎ澄まされた美貌にて目を癒すぐらいまではカバーしておりますわ!」
「その有り余る忠誠心が今、お前の主を危機に陥れてるんだよ!」
過ぎたるは及ばざるが如し。
「なるほど、シルビアさんがその恰好である理由を理解はできないけれど、一応はわかったわ。それでエリックはいつの間にその恰好に着替えたのかしら?まさかシルビアさんのその恰好に欲情して着替えたのではないのよね」
先ほどまでは、いつその短刀を突き刺してくるかわからないほどの殺気を発していたエルザであったが、俺の反応から事情を聞く余地があると判断してくれたのだろう。説明を求めてくれる。
しかし、表情から察するに依然崖っぷちであることには変わりないことはわかった。激情型より怒りを秘めるタイプのほうが恐ろしい。
いつ着替えたかだって?
「起きたときには既にこの恰好だったんだが?俺はてっきり騎士団の人が貸してくれたのだとばかり」
「騎士団の人たちは勝手に箪笥を開けるのも悪いからと着替えさせずにベッドにそのまま寝させたはずよ。そのときに私もいたのだもの」
「では、一体だれが、、、」と言いつつ、俺はなんとなく察しがついていた。
「ふふふ、エリック様。もちろんそれも私の仕業ですわ」
「やっぱりお前か!それじゃ、勝手に俺を裸にして着替えさせたというのか!?それにどこから持ってきたこの服は!?俺はこんなの持ってないぞ」
はっ。こいつまさか錬成魔法で作りやがったな。貴重な魔法をこんな阿呆みたいなことに使いやがって!(カッコイイ鎧を作って欲しいと頼んだときには断ったくせに!)
「あのような埃まみれの恰好で寝台に横たわるなどエリック様には似つかわしくありませんわ。それに今更、裸を見せ合って恥ずかしがる間柄じゃないではありませんか」
いやいや、そんな頬を赤らめながら言われても困る!全然、今、現在進行中で裸を見せ合うような間柄じゃないですけど!?
「---ミシッ」
ほら、もう!エルザのナイフを握る手にあり得ない力が入っちゃってんじゃん。
「あの襲撃の夜に、私を娶っていただけると無言で肯定してくださったではないですか。私、あの日からいつでも大丈夫なように毎夜準備して待っているのですよ」
「何の準備だぁ!」
無言で肯定というかお前に絞殺されそうになって返事ができなかったんだよ。
「最低」
言うが早いか。エルザは右腕を振り上げ、ナイフは開いた手のひらに沿う形で、親指と手のひらに挟まれている。
いやだから何でナイフの投擲方法まで熟知してんだよ。持ち方から構えまで堂に入りすぎている。
「ヒュ------」
放たれたナイフは回転しながら、俺に一直線に向かってくる。その光景はスローモーションに感じた。人間死ぬときに感覚が研ぎ澄まされると言うが本当だったらしい。
そしてその刃がついに眼前に到着し、俺の額に向かって伸びる‐‐‐‐‐‐伸びる‐‐‐‐‐‐‐‐伸びる。ってあれ?なかなか刺さらないな?
落ち着いて見てみるとナイフは止まっていた。俺の眼前で。もちろん、ここで俺の超能力やら魔力やらが目覚めたとか、時を止めたとか言うことはない。
物理的に止まっていた。
人差し指と中指に挟まれて。そしてその手は俺の後方から伸びていた。
「ふふふ、危ない、危ない」と一切危機感を感じさせない声が後ろのシルビアから聞こえてきた。
「何をそんなに怒っているのかしら、このシスターは?私とエリック様がどんな関係になろうとあなたには関係ないでしょう?恋仲でもあるまいし」
「ええ、そうだったわ。全くシルビアさんの言う通りだわ。私、一体に何に怒っているのかしら。私には関係ない話だったわ。ただ、自分の友人が恩があることを良いことに女性に行為を求める下賤な男と知って幻滅したというだけね」
「なっ。それは勘違いだ!俺はそんなことしていない!」
「知ったことじゃないわ。好きにしてよ。金輪際、私には話しかけないことね。どうぞ、お幸せにっ!」
バンっ!!と勢い良く扉を閉めてエルザは出て行ってしまった。
「全く、ヒステリックも過ぎますわね。さあ、邪魔者もいなくなりましたし、どうですか?もう少し惰眠を貪るというのは?それとも本当にお楽しみになりますか?」
シルビアは仰向けになり上目使いで(仰向けだから下目使いなのか?)、心なしかその胸を強調しながら呼びかける。
「はあっ」
俺は無視してベッドから降り、外出の準備を始める。
「私を放ってあのシスターを追いかけるのですか?それがエリック様の意思とあらば止めませんが、ただ今すぐ追いかけても、火に油を注ぐだけかと」
誰がその火を灯したのかわかってんだろうな。
「そういうことは付き合いの長い俺のほうが分かってるよ。女性の扱いは現在勉強中だがエルザの扱いなら免許皆伝だ」
怒ると手が付けられないところとか本当に親子そっくりだよ。ああなると思い込みに思い込みを重ねて聞く耳を持たないだろう。弁解をするにしても時間をもう少し置いたほうが良い。
その間にしておくべきこと、確認しておくべきことがあると思い出したのだ。
「では、どちらに向かわれるのですか?」
「ジークのところだよ。朝は会話にならなかったが今なら話ができると思ってな。こっちも聞きたいことが山ほどある。シルビアは留守番だ。今回、俺に濡れぎぬを着せた罰だ」
あの『宝玉』のこと、それになぜこの村が襲われる危険を予見できたのか。知る権利があるはずだ。




