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 国王達は勇者の帰還を喜び半分、恐怖半分で出迎えた。魔王が倒されこれ以上この国に苦しみは齎されないだろうという安堵感を抱く一方で、勇者のハーレムを見るのが怖くて堪らない。

 旅立つ勇者に要求され契約書を渡してしまったから、一体誰が犠牲になったのかと戦々恐々する面々の前に姿を見せたのは膨れっ面をした勇者とその後ろからついてくる黒いローブの人間の姿が一つきり。思ったよりも少ない人数に彼等は一先ずほっとしたが、何故だろう皆の胸に去来する嫌な予感は拭い去れない。虫の知らせ的な何かかもしれない。

 王の前に立つと、勇者は来た時と同じく無礼ではない程度の礼を取った。

「無事魔王は滅ぼすことが出来ました。囚われていた娘達も全て解放しました」

「それは真か!」

 皆勇者が帰ってきたことでそのことを知り及んではいたが、初めて知らせを受けたかのように広間には不必要なまでに歓声が湧いた。それはこの後勇者からなされるハーレムの報告を恐れてである。一刻も『遅く』ハーレムの知らせを聞きたい。いや、できることなら聞きたくないという気持ちは皆一緒だった。

 国王も同じ考えのようで、ハーレムの話を少しでも遅らせようと勇者に一応頼んでおいた件について振っている。

「勇者よ、ところで我が息子の遺品などは……」

 その言葉に、勇者の表情が引き攣ったことに周囲は怯えた。あの勇者がこんな顔を見せるなど、一体何があったのか。初回のインパクトからそんなことを思っているのは国王も同じようで、沈痛な面持ちを見せた。どうやら最悪のパターンを考えたらしい。

「やはり見つからなかったか……」

 気落ちした国王に、勇者は慌てて首を振った。傍若無人という言葉がこれほど似合う者もいまいといえる勇者にしては珍しいことだった。

「いいえ、それでしたら一番大きいのを持って帰って来ました」

 その勇者の言葉におおっ、と現金にも王は顔を明るくする。

「して、それはどこに」

「これです」

 言って勇者が指し示したのは黒ローブ。国王も誰もかもがそれに訝しげな表情をした。その人物が持ち運んでいる、とそういうことだろうか。いや、もしかしたら、小さな声だがざわざわとそんな内容が聞こえてくる。

 そんな中、勇者の言葉に一歩前に出たその人影がローブを脱ぎ去ると、広間は一気にどよめきに満たされた。黒のローブの下から現れたのは輝く蜂蜜色の髪、この上なく美しい容姿はこの国の人間ならば誰でも知っている第一王子その人だ。死んだものと思われていたその人の帰還に、誰もが喜びを露わにする。

 そんな彼らはつい忘れていたのだ。先程己の胸を過ぎった嫌な予感の存在を。

「よくぞやった、勇者よ。国一の果報者だ」

 感極まる余り王族にしては手放しの褒め言葉さえ与えた国王に、勇者はますます顔色を悪くした。その辺りで勇者の反応が可笑しいことを思い出し、国王はどうかしたのか、と口にする。

 勇者は非常に言いづらそうに、しかし口を開いた。

「その……返却したいのは山々なのですが、契約を結んでしまっていまして。とても残念なことにお返しできません」

 その言葉にしーん、といつかのように広間は嫌な静寂で満たされた。勇者が何を言ったのか初め皆の脳は理解を拒んだ。やがてそれが聞き間違いでも何でもないと悟り、貴族らは気まずげに互いに視線を交わす。

 もしこれが勇者でなければ、王子を籠絡して玉の輿を狙っていたのかと言い出す者があったかもしれないが、あれほどハーレムがどうたら美女がどうたら言っていた勇者だから誰も勇者が王子狙いだったなどとは思わなかった。加えて、王子の態度がそれに拍車を駆けている。

「返すだなんて言うなよ。俺はこんなにもお前を気に入っているのに。それともお前がこの城に住んでもいいんだぞ? 俺はお前なら妃に迎えてもいい」

「ひぃぃぃっ、触らないで下さいぃぃぃいいい男はいやぁぁぁあああっ! 私は女の子に愛されたいんであって男は嫌なんですぅぅううう……」

 勇者に拒まれたからか拗ねたような声と共に王子に抱きつかれて嫌悪の声すらあげ悲愴に嘆く勇者に、皆が投げかけるのは同情の視線だった。皆勇者がどれだけ女を好きかきちんと把握しているのだ。

 国王は己の独断で契約書にかけた魔法がどうやら王子に対して発動しているらしいことに気が付いたが、どうしてその契約を王子が結ぶことが出来たのかが分からない。身寄りがない女しか契約を結べないようにしていたはずなのに、どうして王子が、と頭を痛める始末。

 他方そんなことは知らない貴族達も、王子が勇者にぞっこんであることだけは分かったが、同様に理由が分からない。何がどうなると女好きの勇者が王子をもらう事態になるんだ、とそればかりが皆の脳裏を駆け廻っている。

 勇者が関わると、ろくなことにならない。

 やはり、皆の気持ちは一つだった。

呪いが強力すぎて王子が元に戻れないとかそういう展開も途中まで考えていましたが、誰得?となってやめました。ただの勇者得。

最初に思いついたときには単に魔王に連れ攫われたのが王子様で勇者が女だったら、っていうコンセプトだった気がしたのですが、どうしてこういう形になったのか自分でも不思議です。

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