第六話 鍵を持つ少女
黒崎レインの指先が、真っ直ぐ白鐘ユアへ向けられていた。
「――君が“鍵”だ」
その言葉が、レンの胸に嫌な重さを残す。
「……何言ってやがる」
レンは拳銃を構えたまま黒崎を睨みつける。
だが黒崎は愉快そうに笑うだけだった。
超大型ノクスの肩の上で、まるで舞台を楽しむ役者のように両手を広げる。
「知らないのかい? その子の価値を」
ユアの表情がわずかに曇る。
「……レン」
「気にするな」
レンはユアを庇うように前へ出た。
黒崎の赤い瞳が細く歪む。
「ああ、実に美しい。守ろうとする人間と、守られる怪物。実に滑稽だ」
「黙れ」
レンは低く吐き捨てる。
その瞬間だった。
超大型ノクスが咆哮した。
轟音が夜空を震わせ、周囲のビルの窓ガラスが一斉に砕け散る。
「来るぞ!」
東雲アオイが叫ぶ。
直後、巨大な触手が地面を砕きながら襲いかかってきた。
レンたちは散開する。
轟ッ!!
アスファルトが爆発したように吹き飛び、炎と瓦礫が宙を舞う。
「ッ……!」
レンは転がるように回避し、そのまま拳銃を構えた。
特殊炸裂弾。
「吹き飛べ!!」
轟音。
放たれた弾丸が触手へ直撃する。
爆発。
黒い肉片が飛び散った。
だが。
再生。
裂けた触手が瞬時に蠢き、元へ戻っていく。
「またかよ……!」
「普通の攻撃じゃ止まらない!」
アオイが高速で駆ける。
青い刀身が光を放ち、巨大な触手を切り裂いた。
一瞬だけ怪物の動きが止まる。
「今!」
レンとユアが同時に飛び出した。
ユアの右腕が黒く変質する。
鋭い爪。
怪物の力。
ユアは超人的な速度で触手を駆け上がった。
「ユア! 無茶するな!」
「大丈夫……!」
しかし、その声は苦しそうだった。
黒い紋様が首筋から頬へ広がっている。
侵食率が上がっていた。
それでもユアは止まらない。
巨大ノクスの本体へ向かい、一気に跳躍する。
「――ッ!!」
黒い爪が振り下ろされた。
轟音。
超大型ノクスの眼球の一つが切り裂かれ、黒い液体が噴き出す。
怪物が絶叫した。
地面が揺れる。
レンは思わず顔を上げた。
「やったか……!?」
その瞬間。
黒崎レインが笑った。
「惜しい」
ゾッ、とする声だった。
次の瞬間。
超大型ノクスの全身が脈動する。
無数の眼球が一斉に開いた。
「ユア!! 逃げろ!!」
遅かった。
赤い閃光がゼロ距離で放たれる。
爆発。
轟音。
ユアの小さな身体が吹き飛ばされた。
「ユアァァァ!!」
レンは迷わず駆け出した。
崩れ落ちる瓦礫を飛び越え、炎の中へ飛び込む。
そして。
倒れているユアを見つけた。
「おい!! しっかりしろ!!」
抱き起こした瞬間、レンは息を呑む。
ユアの右腕。
そこが、完全に黒く変色していた。
まるでノクスそのもののように。




