第四話 黒き爪痕
炎の熱気が崩壊した地下通路を包み込んでいた。
暗闇の奥で、ノクスたちの赤い瞳がゆっくり揺れている。
神城レンは拳銃を構えながら、少女を庇うように前へ立った。
「ユア、数は?」
「……十五」
「多すぎるな」
低く舌打ちする。
しかも狭い地下通路だ。逃げ場は少ない。
ノクスたちは獣のような唸り声を上げながら、じりじり距離を詰めてくる。裂けた口から垂れる黒い液体が、地面へ落ちるたび不快な音を立てた。
ユアが一歩前へ出る。
「レン、少女お願い」
「一人で突っ込む気か?」
「早く終わらせる」
そう言った瞬間、ユアの姿が消えた。
轟ッ――!!
衝撃音が地下通路へ響く。
一体目のノクスが壁へ叩きつけられ、身体を潰しながら吹き飛んだ。
続けざまに二体目。
三体目。
銀色の残像だけが暗闇を駆け抜ける。
ユアの右腕が黒く変質し、鋭い爪がノクスたちを切り裂いていく。
だが。
「……ッ!」
ユアが小さく顔を歪めた。
レンの表情が変わる。
「ユア!?」
黒い紋様。
それがユアの首筋から頬まで広がっていた。
侵食率が上がっている。
イレギュラーが力を使いすぎた時に起こる、ノクス化現象。
最悪の場合、自我を失う。
それでもユアは止まらなかった。
迫るノクスの腕を躱し、鋭い蹴りで頭部を粉砕する。
レンは少女を抱き起こしながら叫んだ。
「もういい! 一回下がれ!!」
「……まだいる」
ユアが低く呟く。
その瞬間。
地下通路の奥から、重い足音が響いた。
ドン。
ドン。
空気が震える。
レンは息を呑んだ。
暗闇の中から現れたのは、通常のノクスより遥かに巨大な怪物だった。
異様に膨れ上がった筋肉。
四本の腕。
全身を覆う黒い外殻。
そして胸部には、大きな赤い眼球が埋め込まれている。
「……新種かよ」
怪物は低い咆哮を上げると、一瞬で距離を詰めてきた。
「速――ッ!」
巨大な拳がレンへ振り下ろされる。
轟音。
地面が砕け、瓦礫が吹き飛んだ。
レンは少女を抱えたまま横へ飛び退く。
だが着地した瞬間、怪物の二本目の腕が迫っていた。
「っ……!」
避けきれない。
そう思った瞬間。
銀色の影が割り込んだ。
ユアだった。
黒く変化した右腕で怪物の攻撃を受け止める。
衝撃で地面が砕ける。
ユアの足元に亀裂が走った。
「ユア!!」
「……レン、逃げて」
「ふざけんな!」
レンは拳銃へ新しい弾倉を叩き込む。
特殊炸裂弾。
「ぶっ飛べ!!」
轟音。
放たれた弾丸が怪物の胸部へ直撃する。
赤い眼球が爆発し、黒い液体が飛び散った。
怪物が苦しむように咆哮する。
その隙を突き、ユアが跳んだ。
黒い爪が怪物の首を切り裂く。
一閃。
巨大な頭部が宙を舞った。
怪物の身体が崩れ落ち、地下通路が激しく揺れる。
静寂。
荒い息だけが響いていた。
レンはすぐにユアへ駆け寄る。
「大丈夫か!?」
「……平気」
だが、そう言ったユアの頬には黒い紋様が広がっていた。
赤い瞳も微かに濁っている。
レンの胸がざわつく。
「お前……侵食が」
「まだ制御できる」
「無理するな」
ユアは少しだけ視線を逸らした。
「……レンを守れるなら、平気」
その時だった。
地上から、巨大な爆発音が響いた。
地下通路全体が揺れる。
レンは顔を上げた。
嫌な予感がする。
通信機がノイズ混じりに鳴った。
『レン!! 聞こえる!? 超大型ノクスが第一防衛壁へ到達した!!』
レンの表情が凍りつく。
『クロノス・ウォールが……破られる――!!』




