表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/7

第二話「赤い警報」

警報音が夜の東京を切り裂いていた。赤色灯が崩壊したビル群を照らし、黒い雨の中で不気味に明滅している。神城レンは拳銃を構えたまま、目の前の巨大な怪物を睨んでいた。


 超大型ノクス――Phase4。都市災害級。


 黒い肉塊のような巨体がゆっくり蠢くたび、地面が低く震える。全身に浮かぶ無数の赤い眼球。その全てがレンたちを見下ろしていた。


「……こんなの、聞いてねぇぞ」


 レンは低く吐き捨てる。


 隣では白鐘ユアが静かに怪物を見上げていた。銀色の髪が雨に濡れ、赤い瞳だけが暗闇の中で淡く光っている。


「レン。あれ、普通のノクスじゃない」


「見ればわかる」


 問題は、怪物だけではなかった。


 巨大なノクスの肩の上。そこに一人の男が立っている。


 黒いロングコート。細く吊り上がった赤い瞳。そして口元に張りついた笑み。


 男はまるで舞台の上に立つ役者のように、ゆっくり両手を広げた。


「素晴らしい夜だと思わないか?」


 静かな声だった。だが、その声は不思議なほど街全体へ響いた。


 レンは鋭く睨み返す。


「誰だ、お前」


 男は軽く頭を下げる。


「失礼した。私は黒崎レイン」


 雨の中でも、その笑みは崩れない。


「革命家だよ」


 次の瞬間、超大型ノクスが咆哮した。


 轟音が空気を震わせ、周囲のビルの窓ガラスが一斉に砕け散る。


「ッ――!」


 レンは反射的に腕で顔を庇った。


 その直後、巨大な触手が地面を砕きながら襲いかかってくる。


「レン!」


 ユアの声。


 レンは横へ飛び退いた。直後、さっきまで立っていた場所が爆発したように吹き飛ぶ。アスファルトがめくれ上がり、瓦礫が宙を舞った。


「くそっ……!」


 レンは着地と同時に拳銃を構える。特殊弾イグニスを装填し、迷わず引き金を引いた。


 轟音。


 炎を纏った弾丸が触手へ直撃する。爆炎と共に黒い肉片が飛び散った。


 しかし。


 裂けたはずの触手が、瞬時に再生していく。


「再生速度が異常だろ……!」


 通信機からオペレーターの焦った声が響いた。


『レン!! 崩壊区域全域でノクス反応増加!!』


「何?」


『数が多すぎる! まるで何かに呼び寄せられて――』


 突然、通信がノイズに掻き消された。


 その瞬間だった。


 暗闇の中で、無数の赤い瞳が開く。


 レンは息を呑んだ。


 崩壊した街の至る所から、ノクスたちが現れていた。ビルの隙間。地下鉄の入口。倒壊した車両の影。次々と怪物が姿を現す。


「……最悪だな」


 レンは苦く笑う。


 ユアが静かに一歩前へ出た。


「レン、下がって」


「無茶するな」


「大丈夫」


 その言葉と同時に、ユアの赤い瞳が強く光る。首筋に黒い紋様が浮かび上がり、右腕がゆっくり怪物化していく。


 鋭い爪。


 黒く変色した皮膚。


 人間とは思えない力。


 《イレギュラー》。


 ノクス因子を宿した少女たち。


 怪物でありながら、人類を守るために戦う存在。


 空気が変わった。


 ユアから放たれる圧倒的な威圧感に、ノクスたちが本能的に後ずさる。


 だが。


 黒崎レインだけは、愉快そうに笑っていた。


「やはり美しい」


 狂気を孕んだ声が雨の中へ溶ける。


「人間でありながら、人間を超えた存在。《イレギュラー》……実に興味深い」


 ユアの表情がわずかに歪む。


「……気持ち悪い」


「ははっ。嫌われたな」


 黒崎は楽しそうに肩を竦めた。


 その瞬間。


 超大型ノクスの全身の眼球が、一斉に赤く発光する。


 レンの背筋に悪寒が走った。


「ユア!!」


 直後、無数の赤い閃光が夜の街を貫いた。


 爆炎。


 衝撃。


 ビルが吹き飛び、アスファルトが溶ける。


 熱風がレンたちを飲み込み、視界が炎に染まった。


 そして黒煙の向こうから、黒崎レインの笑い声だけが静かに響いていた。


「さあ始めよう――反逆の時間だ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ