7. 知っていたらね
それぞれの事情が分かります。
「え? 私?」
沙希は、今までの人生で一番驚いた。
「え? どうして? 私が偽物だと思っていたのに......」
エドワード王子はニコニコしながら近づいてくる。
「私は一度も疑いませんでしたよ。あなたが天の娘であることを」
「なんでなんですか? エドワード王子、全然驚いてないですよね。私が本物のことも、リアナたちが逃げたことも」
「そうですね。薄々そうじゃないかと思ってましたから」
エドワード王子はさりげなく爆弾を落とした。
「ええっ。見当がついてたっていうんですか!?」
さすがに辺りの人々が一斉に反応する。
「説明しなければなりませんね」
「まず、赤い石ですが。実は真っ赤な鉱石というのは、この国では採れません。リアナが盗まれないようにと見えやすいところにつけていた石は立派でしたが、複雑な赤っぽい色をしていました。『天の娘は異世界から来た娘』という条件がある以上、この国で産出されたであろう石を身に着けていた娘であるリアナは、怪しいということになります」
「そんなこと、知らなかった」
「次に、リアナは、『偽物が混ざっていたらどうなるのか』を、気にして調べていました」
「そういえば」
「以上のことから、おそらく偽物はリアナだろうと思っていたんですよ。シンシアの石を見てなかったこともあって確証はありませんでしたが」
エドワード王子は沙希に向かってにっこりした。
グレースが言う。
「私の指輪のルビーのようなきれいな赤い石は、持ち込まない限り存在しないのね。ところでシンシアはどうして石を見せてくれなかったの?」
シンシアはぽつりぽつりと話し始めた。
「私の出身のインドでは、守り石は人に見せないというのが普通なんです。他人に見せたり触られたりしたら、呪いの石になってしまうかもしれません」
「なるほどね。いくら言っても見せてくれないから『怪しいな、ほんとは持ってないんじゃないか』と思ってたわ」
「紛らわしくてすみません。でも私は逆にゲルダの換気が怪しいと思っていたんですけど」
「え? 換気しないの?」
ゲルダは鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしている。
「私の出身のドイツでは数時間おきに換気するのは当たり前のことよ?」
「しないわ。そんなに」
沙希が口をはさむ。
「グレースさんが料理を警戒したり、荷物を肌身離さず持っていたのはなぜなんですか?」
「ああ、それ。私ビーガンだから、料理に動物性の物を使ってないか知りたかったの。でもそれを言ったら、シンシアだってお肉料理よけてたじゃない」
「だって、宗教上食べられないもの」
「なるほどね。それに私の出身地のロサンゼルスでは荷物を抱えてるのは常識よ。下に置いたらすぐ盗まれてしまうわ」
「あのう、もしかしてなんですが」
沙希が言いにくそうに切り出す。
「初日にシンシアが入れてくれたミルクティー。もしかしてスパイスのないチャイの代わり?」
「そうよ、ちょうどチャイ・タイムだなぁって。一緒にチャイ・タイムを楽しめたらいいなって」
「そうだったんですね。自分のカップに先に入れたのは『毒は入ってませんよ』っていうアピールかと思っていました」
グレースはため息をついた。
怪しく見えていた各人の行動は、地球上の文化の違いからくるものだったと知り、
「それを知っていたらね」
と小さくつぶやいた。
「それぞれの行動の理由もわかったところで、今後のことも考えないといけませんね。まず沙希が、誰を国王に選ぶのか、シンシアがどういう風に結界を張るのか、ゲルダが民をどのように治療するのか、何より仕事を終えた後、誰が元の世界に還るのか、この世界に残るのか」
エドワード王子が今後やらねばならないことをまとめる。
本物が確定したところで、考えなければいけないことはまだまだたくさんあった。
*
一行は帰路についた。道中、迎え人は、天の娘にいろいろと教えていたが、ゲルダの迎え人、フィリップ第二王子は先に帰ってしまったため、ゲルダには誰もついていなかった。天の娘としてどうやって人々を癒すのか、ゲルダはわからないままだった。
「あの。すぐに治癒を始めた方がいいんでしょうか? と言っても治癒の仕方もわからないんですが」
おそるおそるカイルに聞いてみる。
「もちろんお手伝いしますよ。環境が整ってからやりましょう。困ったことがあったら何でも言ってください。遠慮しないで」
カイルはニコニコ笑ってそう答えてくれた。心細かったゲルダはやっと少しだけ笑顔になった。
沙希は新しい難題と向き合っていた。
この国に来てから、一番信頼しているのはエドワード王子だ。
が、国王として彼を短絡的に選んでもいいものか。もっといろいろな人と喋る必要があるのではないか。国の未来がかかっている。
今まで自分が偽物だと思っていたのであまり真剣に考えてこなかったのだが、真剣に考える必要が出てきたのだ。
王宮に戻ると沙希の周りには行列ができた。中には贈り物を持ってくる人もいる。たちまち物と人で溢れかえった。そしてそれは他の人の迎え人達も例外ではなかった。
ニコラス宰相は淡々とシンシアの補佐をしていたが、アルベルト王弟は沙希にすり寄ろうとしていた。
フィリップ王子はもっと露骨で、ゲルダは放りっぱなしで沙希のことしか見ていなかった。自分を新国王に選んでくれたら王妃にしてやってもいいとまで言ってきた。
ゲルダももう迎え人としてのフィリップ王子を信用してないのか、わからないことは全てカイルにきいていた。カイルもゲルダを助けるのもまんざらではなさそうだった。
「カイル、ゲルダを助けてやってくれてありがとう」
エドワード王子にお礼を言われる有様だった。
何日か王宮で過ごした後、
「こんな露骨な人たち、信用できるわけないじゃない」
沙希はエドワード王子にこぼしてみたが、王子は困ったように微笑むだけだった。
「あーあ。こればっかりは誰も助けてくれないか。自分で決めなくちゃならないのね」
*
沙希は悩んでいた。大きくため息をついて自室のソファに大の字に倒れ込む。
考えれば考えるほど、エドワード王子が正解な気がしてくる。
でも、そんなに簡単に決めていいのかと囁く自分もいる。
考えているうちになんだかわからなくなってきた。
つい、つぶやいた。
「誰か、正しい答えを決めてくれないかなあ」
「正しい答え?」
背後からエドワード王子の声がした。
皆さんの推理の根拠は合っていましたでしょうか?
選別の娘がきまったらこうなりますよね。




