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私、偽物だと思ったのですが......  作者: 赤木典子


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5/11

5.グース山へ

誰の石も光らなかったというのはどういうことなのでしょう?

 観衆がざわつく。色々な人が色々な意見を言い合い収集がつかない。


 その時、エドワード王子がその場を収めるべく立ち上がった。


「皆さん、落ち着いてください。これにはいくつかのケースが考えられますので、場合分けしましょう」


 エドワード王子が発言してくれたことで、観衆が静かになる。


「今回のケースでは、次の可能性が考えられます。

 一、イヤリングが片方など不完全だったため儀式が不成立だった。

 二、偽物が混じっていたため、儀式が不成立だった。

 三、全員偽物」



 あたりが静まりかえる。


「ゼンインニセモノ?」


 全員の頭の中にその事実が染み込むのを待ってエドワードは口を開く。


「一の場合はイヤリングの持ち主であるゲルダ以外の誰かが偽物、ニ、三の場合は全員怪しいので、いま特定することはできません」


「ですから甚だ不本意ではありますが、本物の決定は祭壇に持ち越します。とりあえず馬車に乗りましょう」


 エドワード王子がすかさず民衆を落ち着けたおかげで、大事にならずに済んだ。




 馬車のなかはピリピリした空気で腹の探り合いでもあった。

 特に、「片方のイヤリングを無くした」ゲルダはずっと泣きながら謝っている。


「泣いたって結果が変わるわけじゃないんだから、泣き止みなさいよ」

 グレースがうんざりした顔で正論を言う。



「片方なくしたからだって言ってるって、私が本物ですって言ってるようなもんよ? 印象操作?」

 リアナの容赦ない一言が飛ぶ。


 馬車に乗る前にもゲルダはフィリップに

「お前が、片方なくすからだ」

 と怒られていた。


 シンシアは何も言わず悲しそうな顔をするだけで、沙希はずっと泣いているゲルダの背中をさすっていた。


「あの、偽物だってわかったらどうなるんでしょう」


 沙希は恐る恐るグレースに訊いてみる。


「今まで偽物が現れたことがないから、資料にもないわ。正直、わからないわね」

「偽物の自覚のあるなしに関係するとか」

「そうかもしれないわね。自分が偽物って知らない場合は不可抗力ですもの」


 それから、グース山のふもとに着くまで


「誰が偽物か」

「自覚がないのに偽物だったらどうなるのか」


 という疑問点がぐるぐると娘たちの頭の中を回る。



 迎え人の馬車の中はお互いの顔を伺うだけで言葉を発するものは誰もいなかった。



 グース山のふもとに着く。空はますます暗く、雲は低かった。さらに酷い霧が立ち込めていて、とても視界が悪かったが、そこには魔道具のリフトがあることが辛うじてわかった。


「なにしろ150年ぶりだからなぁ。ちゃんと動くのか」

 リフトの埃を払っていたカイルがぼやく。


「お嬢様がた。リフトのご用意が出来ましたので、馬車を降りてこちらに乗ってください」


 リフトに乗る時点で、本物か偽物かは、果たして判別するんだろうか。


「現れた順にしましょ」


 リアナの一言で娘たちは、王宮に現れた順に乗ることにした。



 いちばん最初に乗ったのはグレースとアルベルト王弟だった。何も起こらずすんなり乗れた。

 次に緊張気味のリアナとロジャーが乗った。何も起こらない。


「よかった、本物だわ」

リアナは、ほっとしていた。


 続けて大きく深呼吸をしてからシンシアとニコラス宰相が乗った。リフトには何も起こらない。

 絶対に石を見せようとしないシンシアが何事もなくリフトに乗れたことに、その場にいた人々は驚く。


「この三人は本物なのか」

 誰からともなくため息が漏れる。


 沙希は、もしリフトで本物と偽物の判別が行われるなら、安物の石を持っている自分が偽物だとある意味確信していた。


(エドワード王子、ごめんなさい。やっぱり私だと思う)


 沙希は目をつぶったままエドワード王子に手を取られ、リフトに乗り込む。




 何も、おこらなかった。


「では、ゲルダが偽物なのか?」


 周囲の疑いの目が、二人に向く。


「まだ余裕あるじゃないか、後二人ぐらいなんてことないだろう」


 そういったフィリップ王子はゲルダの背中を押してリフトに乗り込んだ。


 すると、けたたましい音が鳴り響いた。

 いつの間にか、リフトには

「定員オーバー」

 の表示があった。


「ゲルダが偽物だったの!?」リアナが叫ぶ。

「偽物はやはりゲルダだったのか! イヤリングを片方なくしたなんておかしいと思ったんだよ」ロジャーが納得の面持ちで頷く。


 目を見開いて数歩後ずさったゲルダは

「そんな!」と叫ぶと口を押えて霧の中へ走り出した。


 濃い霧の中、その姿はあっという間に見えなくなった。

 記録にあった通り、グレースがスイッチを押す。


 ズズ、ズズ。リフトが動き出した。


 ふもとに取り残されたフィリップ王子も呆然としている。


「ま、待ってくれ。そんな筈はないんだ! ちゃんと、ゲルダは螺旋階段を降りてきてドアを開けたんだ!」


 いくらフィリップ王子が叫ぼうともリフトは止まることはなかった。




 一方霧の中に消えたゲルダも、あまりの視界の悪さに、そんなに遠くに行くことはできず、探しに行ったカイルにすぐに捕まった。


「もしあなたが偽物だっていうなら、帰りは馬車に乗ってもらうわけには行かないな。俺の馬に一緒に乗るといい」


 ゲルダはずっと下を向いて泣いていた。


 上昇していったリフトはもう見えなくなっていた。

 降りてきたときには、すべてが決まっているだろう。



      *



 帰りのために、馬車の中を点検していたカイルの目にあるものが止まった。それは迎え人たちが乗っていた馬車の中だった。


 カイルは目を丸くする。


「何だこれ? イヤリングの片方? ゲルダが無くしたって言ってたやつじゃないか? 何でこんなとこにあるんだよ! この馬車は今日まで、使ってなかった筈。ってことは誰かがここに置いたってことじゃないか!」





ゲルダのなくした筈のイヤリングの片方が、何故か迎え人の馬車の中から出てきました。

この事実の意味するものは?

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