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私、偽物だと思ったのですが......  作者: 赤木典子


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10/12

10.覚悟してくださいね

「ジェラート」って何でしょう?

「じぇらーと?」




「私、ジェラート屋さんを探してただけなのに何かを目撃してしまったらしいんです。でも、それが何だかも誰なのかも知らないんですよ? 誰かに告げ口しようったって、誰にしたらいいのかもわからないというのに」




「とにかくみんなに、螺旋階段を降りる前はどんな状況だったのか訊いてみます!」




 沙希はまくし立てると瞬く間に消えて行った。




 何も口を出さずにその場に控えていたカイルが意味が分からずきょとんとしているエドワードに言う。




「おい、いいのか? チャンスじゃないのか? 自分の気持ちをちゃんと伝えといた方が後悔しないぞ」




「......後悔? いいんだ、彼女が自分で選んだのでなければ、意味がない」


「そうかよ、陛下はいろいろ難しいんだな」






 *






 驚いたことに、「水中」に「あり得ない」階段があったのは沙希だけだった。




「私はね、ロスのおばあ様の家に行っていて食事の支度の途中、おばあ様が地下の倉庫に、ストックを取りに行こうとしたから、私が代わりに行くわと申し出て。そしたら倉庫の隅っこにさらに下に続く螺旋階段を見つけたって訳」




「え......そんな身近に......」


「だから、この資料を信用するなら、食事の支度の最中に戻れると思うわ」


「あ、そう......」


「誰にも気づかれずにね」


 グレースはそう言ってウィンクをした。




 シンシアは買い物の途中だった。


 ショッピングモールの端の店に入ったら店の中には螺旋階段しかなく、興味本位で降りてみたという。




「その端っこのお店は私の記憶と違っていたし、お店の中に螺旋階段しかないなんて、降りてみようと思うしかないでしょう?」




 もっともだった。沙希でもきっと降りる。




「多分階段の上で友達が待っているわ」




 ゲルダは隣国の山間の町に旅行に行った先だった。続く岩山の裏手に回ったところ、謎の螺旋階段が場違いに下に続いていた。こんな山の地下になにがあるのかと興味深々に降りてみたのだという。




「そんな不思議なシチュエーション、無視しろって言っても、無理だったわ」






 結局、沙希のように死ぬのも覚悟の上で螺旋階段を降りた娘は誰もいないことがわかり、他の天の娘たちの体験は何の参考にもならなかった......








「沙希ちゃん、ちょっといいかな」


 新しく親衛隊長になったカイルが沙希を呼び止めた。




「なんでしょう?」


 今ではすっかりカイルと打ち解けた沙希は何の気なしに返事をする。




「やっぱり元の世界に帰りたいのか?」


「え?」


「まだ、やることあるんじゃないかと思って」


「ん? 新国王の指名はもう終わりましたよ。もう私なんてここにいてもしがない用なしです」




「用なし? そんなことないと思うけどなぁ。謙遜するのは君が育ってきた国の文化かもしれないけど、時には自分に素直になって自信を持って前に進むのも大切だと思うぜ」




「自信を持って前に進む?」




「あなたには、それだけの価値があるってことさ」




 カイルは謎かけのような言葉を残して笑いながら去っていった。




「まだやることがある?」


「自信を持って前に進む? 価値?」




(何のことだろう?)




 沙希は考え込む。




(私に課せられた使命には続きがある?)










 約束の日まであと一日。明日には帰るかどうか決めなくてはならない。沙希の問題点を何とかするために違う時間に戻れる可能性をグレースも調べてくれていたが、前例が見つからず、わからないままだった。




「やってみるしかないわね」




 ここ数日考え続けてきた。




 こんな自分にまだできることがあるとすれば、ここに残って神殿などで、天の娘についてきちんとした資料を作り続けて未来の人々が迷うことなどないようにすることなのかもしれない、と思うようになった。




 元の世界に帰っても、あの逃走劇のさなかに放り出されるだけで、無事に逃げ延びられるかもわからない。おそらく捕まるのも時間の問題だ。だったら一度死んだと思って、帰らずにここで天の娘に関する資料を作った方が誰かの役に立つのではないかという思いが大きくなる。




(あ~あ。せっかく決まった就職先だったのになあ)


(ここまで育ててくれた両親にも申し訳ないな。でも私が選んだ人生、きっとわかってくれる)




 その日の夜。いつも通りその日あったことを話しに来たエドワード国王にそのことを告げてみる。




「なので、まだ決めた訳ではないんですけど、帰らずにここで資料の整理をしようかなぁと」




「え?」




「いや、まだ決めたわけじゃないんですよ?」




 エドワード国王は何故か真剣な表情で座り直す。


「あなたの口から『帰らずに』という言葉が出てきたことが私にはとても重大です」




「はあ」




エドワード国王は身を乗り出すように沙希に尋ねる。




「それは、将来、僕の隣で僕を助けてくれる可能性が出てきたということですね?」




「僕の......隣で、ぼくをたすける?」




 沙希は言葉に出すとびっくりしたように言った。






「助けて欲しいことがあるんですか?」






 *






 翌日。


 帰還のための会議で帰るのはシンシアとグレースの二人だけということが判明した。




 ゲルダはカイルから直接


「帰らないでくれ」


 と頼まれたようで、頬を染めながらグレースに帰らないと報告していた。




「ほら、私の場合は、これからも治癒はできるから」というのが表向きの理由だったが、本当の理由は誰の目にも明らかだった。




 沙希の場合は帰れないというのもあったが「未来の天の娘候補が、困らないようにちゃんと情報整理したい」というのが表向きの理由となった。




 エドワード王子は、




「帰らないと自分で決めたからには容赦はしませんよ」




 となにやら恐ろしい宣戦布告のようなことを言っていたが、一体、「僕を助ける」とは何をさせるつもりなのだろう? とりあえず今は気にしないことにした。








 帰るかどうかをグレースに告げてから1週間。それぞれの出現地に向けて旅立つ時が来た。




 天の娘たちは抱き合って、それぞれの健闘を称え、これからの健康を祈った。




「貴重な経験をさせてもらったわ。結局アルベルト王弟はロジャー達の企みを知ってたみたいで、全然姿を見せないわ。仕方がないから、カイルさんの部下に送ってもらいます。あと、日本に行って沙希のご両親に沙希の話をしておくわ。約束する。じゃ、行くわね」




「ニコラス宰相には本当にお世話になりました。もう少しだけお世話になりますが、どうか皆さんお元気で。ゲルダさん、ドイツに行って必ず両親に幸せだと伝えます」






 *






 グレースとシンシアが出発してしまうと、また王宮は、元の忙しさに戻る。


 エドワードは沙希の方を向いてにっこりとほほ笑む。




「さ、さっそくですが部屋を移りましょう。王宮の奥に部屋を用意してもらいました。誰にも文句は言わせません。僕の部屋の隣です」




「あ、もう始まったのね。僕の手伝いって何をさせられるんでしょう?」




 カイルが耐えられず噴き出した。




「沙希様。お覚悟を」



ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。

これで完結となります。


エドワードと沙希が統治するこの国が、幸せいっぱいのいい国になりますように。



来週末、番外編を投稿します

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