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くさなぎときつねの思い出ごはん。  作者: ちはやれいめい
ざしきわらしの章《しょう》
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22/30

20 ざしきわらしが食《た》べたいもの

 店(みせ)に入(はい)ると、父(とう)さんが聞(き)いてきた。


「マコト、その子(こ)はどうした? 迷子(まいご)をほごしたのか?」


「あ、よかった。父(とう)さんには見(み)えるんだ。……他(ほか)の人(ひと)には見(み)えないみたいでね。雪路(ゆきじ)がいうには、この子(こ)はざしきわらし、なんだってさ」

「ごめんね、二人(ふたり)が何(なに)を言(い)っているかわたしにはわからないわ」


 母(かあ)さんが私(わたし)のよこにかがんで目(め)をこらす。


「うーん。なにかもやがかかってるかんじで、はっきりとは見(み)えないわ。雪路(ゆきじ)たちがいう、血のちがいかしら? わたしは、おんみょうじの血(ち)すじでもなんでもないから……」

「私(わたし)には、三才(さんさい)くらいの女(おんな)の子(こ)が見(み)えるよ。ユカリっていうんだって」


 ユカリちゃんはゆっくりとうなずく。


「おねえちゃん、ここどこ?」

「私(わたし)の家(いえ)。ごはんを食(た)べるお店(みせ)だよ」


 お子(こ)さまランチ用(よう)プラスチックカップでむぎ茶(ちゃ)を出(だ)す。

 ユカリちゃんはざぶとんに正座(せいざ)して、私(わたし)とカップを交互(こうご)に見(み)ている。


「のんでいいよ」

「……いいの?」


 おそるおそる小(ちい)さな手(て)をのばして、お茶(ちゃ)に口(くち)をつけた。


「なんでひとりであんなところにいたの?」

「……もといたおうち、おばあちゃんがいなくなって、こわされちゃったの。くさなぎは、こまったことがあったらいつでもこいっていった。だから、くさなぎにあおうとおもって、さがしたの。でも、くさなぎのおうち、どこかわからなくて」

「ユカリちゃんもご先祖(せんぞ)さまのこと知ってるのかぁ……」


 あちこちにあやかしの知(し)り合(あ)いがいるなんて、ご先祖(せんぞ)さま、本当(ほんとう)におんみょうじだったんだな。


 じっとおすわりしていた雪路(ゆきじ)が口(くち)をひらく。


「ユカリ。草凪(くさなぎ)はとうの昔(むかし)になくなっておる。こやつらは草凪(くさなぎ)の血(ち)を引(ひ)くものだ」

「そう、なの?」

「あ、うん。私(わたし)、草凪(くさなぎ)マコト。こっちは父(とう)さんの誉(ほまれ)。母(かあ)さんの千夏(ちなつ)よ。そっちのきつねは雪路(ゆきじ)。ネコは小町(こまち)だよ」


「たしかに、おねえちゃんのにおい、くさなぎによくにてる」



 ユカリちゃんの声(こえ)が明(あか)るくなった。


「そう、くさなぎ、いいこにしてないとおいだされちゃうから、おとなしくしてろっていってたの。だからユカリは、いいこにしてた。でもおうちもうないから、くさなぎとおはなししようとおもったの」


「うーんと、もしかしてお(・)ん(・)み(・)ょ(・)う(・)じ(・)のお仕事中(しごと)に会(あ)ったのかな。なにかじじょうがあって、たいじされそうになってた?」


 雪路(ゆきじ)がふかくうなずく。 


「そのとおりだ。そのとき、わしも同行(どうこう)しておった。やどの客(きゃく)に悪(わる)さをするあやかしものが取(と)りついているから追(お)い払(はら)ってくれと言(い)われて、草凪(くさなぎ)はやどに行(い)った。そこにコヤツがいたのだ」

「わるさ? この子(こ)が?」


 ユカリちゃんは、ひっしにうったえる。


「ちがう。ユカリは、あそんでほしかっただけ」 


「ふつうの人(ひと)には見(み)えていないから、なにもいないのに足音(あしおと)が聞(き)こえたり物(もの)が動(うご)いているようにしか見(み)えなかったってこと?」


「そう。だから草凪(くさなぎ)は、大人(おとな)しくしていればだれもお前(まえ)をはらったりしない。とさとした。やどのあるじにも、「人(ひと)のことが好(す)きな、幸(しあわ)せをもたらしてくれるあやかしだから、むりにはらわず、めしの一杯(いっぱい)でもわけてやれ」とはなした」


「そのおやどがつぶれちゃって、行(い)くあてがなくなっちゃったのね」


 母(かあ)さんがしんみりとうつむく。父(とう)さんなんて、かおをタオルでおさえている。


「うっ、うう。たいへんだったなユカリ。好(す)きなだけうちにいるといい。はらがへったなら好(す)きなもん食(く)わせてやる。食堂(しょくどう)だからな。えんりょはいらないぞ」


 ユカリちゃんはぱっとかおをあげる。


「ほんと? ならユカリ、やどのおばあちゃんがくれたおつゆをのみたい」

「おつゆ?」

「うん。おみそのおつゆ」


 日本人(にほんじん)の心(こころ)、みそ汁(しる)。明治時代(めいじじだい)にもふつうにある。


「みそ汁(しる)ならあるぞ。ほら」


 父(とう)さんてば、幼(おさな)い子(こ)には食(た)べきれないくらいたっぷりネギのみそ汁(しる)をもった。


 ユカリちゃんはお面(めん)をすこしずらして、うつわに口(くち)をつける。


「おいしい、けど、おばあちゃんがくれたのじゃない」

「そっかあ……」



 みそ汁(しる)とひとくちに言(い)っても、具(ぐ)も使(つか)うみそもダシも、地域(ちいき)や家(いえ)によってぜんぜんちがう。


 かんたんなようでむずかしいリクエストがきたのである。

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