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くさなぎときつねの思い出ごはん。  作者: ちはやれいめい
ざしきわらしの章《しょう》
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19 かえるばしょのないざしきわらし

 夏休(なつやす)みも終(お)わりにさしかかって、涼(すず)しい日がふえてきた。

 夕方(ゆうがた)の営業(えいぎょう)がはじまる前(まえ)に、私(わたし)は玄関(げんかん)でリードをにぎって雪路(ゆきじ)たちをよぶ。


「雪路(ゆきじ)、小町(こまち)。散歩行(さんぽい)くよ」

「まちかねたぞマコト。はようせい。はらをすかせてカレーをおいしくいただくぞ!」

「さんぽなのだ!」

「そんなせかさなくても、ちゃんと行(い)くってば」

「しゅくだいというのにかかりきりで、ぜんぜん動(うご)いてくれなかったではないか」


「私(わたし)は学生(がくせい)なの。いまの時代(じだい)、学生(がくせい)は勉強(べんきょう)しないといけないの。わかる?」


 現代(げんだい)というものをおしえているのに、雪路(ゆきじ)はふまんげ。


「マコト。世(よ)の中(なか)、机(つくえ)にかじりつくより大事(だいじ)なことがあるだろう。おもてに出(で)ろ」

「もう。いい話(はなし)っぽく言(い)ってるけど散歩(さんぽ)に行(い)きたいだけでしょ」

「わがはいと雪路(ゆきじ)だけで歩(ある)いたらホケンジョというのにつかまると言(い)ったのはマコトであろう」


 雪路(ゆきじ)と小町(こまち)がうちに住(す)むようになってはや半月(はんつき)。

 二人(ふたり)は「われわれは何年(なんねん)もこの家(いえ)に住(す)んでいますが?」というかおをしてくらしている。


 なぜか、二人(ふたり)ともねるときは私(わたし)のふとんのどまんなかを取(と)りたがる。

 ダンボールベッドはいちども使(つか)われることがないまま、しげんゴミになった。

 あやかしはワガママだね。



 雪路(ゆきじ)にはリードをつけて、小町(こまち)はリードなしで私(わたし)のよこにくっついて歩(ある)く。


 すれちがうひとたちが「わんことにゃんこの散歩(さんぽ)だ!」「仲良(なかよ)しねえ」「かわいいわねぇ」と笑(わら)って手(て)をふっていく。


 長谷寺(はせでら)の手前(てまえ)あたりでぐるっとまわって、店(みせ)に戻(もど)る。 

 


 信号(しんごう)をわたって、角(かど)を曲(ま)がったときだった。

 小(ちい)さな女(おんな)の子(こ)がひとり、うずくまっていた。


 まだようちえんくらいかな?

 むらさき色(いろ)の上品(じょうひん)な着物(きもの)を着(き)ている。


 このあたりで見(み)かけたことのない子(こ)だから、旅行中(りょこうちゅう)にかぞくとはぐれたのかな。


「ねえ、どうしたの? おうちのひと、いっしょじゃないの?」


 しゃがんでめせんを合(え)わせてきいてみる。

 泣(な)いていた女(おんな)の子(こ)が、かおをあげた。


「ユカリのおうち、もうない。どこも、かえれないの」

「あなたはユカリちゃんっていうのね。かえれないって、どういうこと?」


 雪路は女の子のすそをくん、とかいではなをならす。


「マコト。この童(わらわ)はあやかしものだ。家(いえ)につくあやかし。人間(にんげん)が『ざしきわらし』とよぶもの」

「ざしき、わらし? ユカリちゃんは人(ひと)じゃないの?」

「そうだ。マコトにしか見(み)えておらん。だから、はたからみたら、マコトはなにもないところにはなしかけているへんな人(ひと)だ」

「え……」


 ふりかえると、道行(みちゆ)く人(ひと)たちがちらちらこっちを見(み)ていた。



 たしかに、ふつうなら、幼(おさな)い子(こ)がひとりぼっちなら、どうしたのかなって声(こえ)かけるよね。


 だれもユカリちゃんを見(み)ていない時点(じてん)でなにかへんだって気(き)づくべきだった。



 ここで話(はなし)をきくのはすごーくまずい。


「ユカリちゃん、ついてきて。うちで話(はなし)をきくよ」


 手(て)をさしだすと、ユカリちゃんはじっと私(わたし)を見上(みあ)げて、手(て)をにぎり返(かえ)した。


 たしかにここにいて、ふれたかんかくもあるのに、だれにも見(み)えていないなんて。


 あやかしって、ふしぎ。

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