2 きつねが望《のぞ》むごはんとは?
「どうしたんだい草凪。わしはあの日の料理をまた食べたい。出してくれんか」
白キツネは店に入ってきて、もう一度おねがいしてくる。
私たちはかおを見合わせる。
母さんが困ってといかける。
「ねぇキツネさん。前に食べた料理ってなんなの? なぜあなたはしゃべれるの?」
「わしを知らんのか、こむすめ」
「こ、こむすめ……かぁ。この年になってキツネに子ども扱いされる日が来るなんて思わなかったわ」
何百年も生きているキツネから見たら、そりゃ四十代の母さんは子どもだろう。
「わしは雪路。昔、世話してやっただろう! 恩を忘れたのか、草凪」
「………そういやぁ俺のひいじいさんの時代は、おんみょうじ……お祈りとか、あやかし関係のなやみごとを解決する仕事をやってたって聞いたかもしれん。てことは、雪路は俺たちのご先祖さまとゆかりのあるキツネってことか」
「それで子孫の私たちのとこにきたってこと?」
ご先祖さまが雪路のために作った料理の再現……。
たぶん明治時代に作ったもの。
面白そうじゃない。
「父さん、母さん。雪路の食べたがっている料理の再現、やってみようよ。料理人のうでの見せどころだよ!」
「つってもなあ。せめて料理名がわからないと作れないぞ」
たしかに。いくら料理人の父さんでも、名前もわからないものを作れない。
少しでもおおくヒントを集めないと。
「雪路。作るためにヒントをおしえて!」
「ヒント、とはなんだ?」
うーん。明治時代のキツネに英語は通じない。
「ええとね、その料理についておぼえてることあったら話してほしいんだ。味でも、見た目でも」
「おお、作ってくれるのか草凪。良い心がけだ」
雪路はうれしそうにシッポをふる。
「そうだな。えもいわれぬ香りがする、茶色い汁だ。肉が入っていて、コメにかかっていた」
香りがよくて茶色の汁物、ごはんにかける。
「…………カレー?」
カレーは、食堂くさなぎがはじまったときからある人気メニューだ。
大きめに切ったニンジン、ジャガイモ、玉ねぎがたくさん入っている。
肉はうす切りのブタバラ肉。
コショウでよくやいてから入れているため、カレーも香ばしさがましているのだ。
「なんだ。カレーか。とんでもなくむずかしい料理かと思ったぞ。今作る。待ってな、雪路」
父さんははなうたを歌いながら、カレーをあたためる。
私たちの夕食にする予定だったカレーをごはんにかけて、お皿を雪路の前にだした。
ずっと食べたかったのだと言ったのに、雪路はむずかしいかおをする。
「ううーーむ。ちがう。ちがうぞ。わしの食べたあれと全然ちがうではないか。あの料理には、こんなにゴロゴロ余計なものが入っとらんかった」
「余計なものって、ニンジンとジャガイモと玉ねぎだよ。カレーのていばんでしょうが」
せっかく出したのに文句を言うとは、なんてゼイタクなキツネさんだ。
「いや、ちょっと待てマコト。よく考えたら雪路が初めてカレーを食べたのが明治時代なら、食材は今とちがうはずだ。流通がぜんぜんちがう。このカレーは今のうちのレシピで、ルーも現代のものを使っているからな。さっきの雪路の思い出の話では、野菜が出てこない。ご先祖さまはこんなに大きく具を切っていなかったということだ」
父さんはメモを読み返しながら言う。
怒るのでなく、理由を考える。料理人のかがみだ。
すぐ怒ってしまった私は、見習わないといけないかもしれない。
「もっとちゃんと組み合わせを考えてみよう。もう少し待ってくれよ、雪路」
「あいわかった」
気をとりなおして、雪路の食べたご先祖さまのカレー再現がはじまった。




