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くさなぎときつねの思い出ごはん。  作者: ちはやれいめい
きつねの章《しょう》
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11/30

11 食堂《しょくどう》くさなぎの新《あたら》しいはじまり

 私《わたし》たちの日常《にちじょう》がもどってきた。


 目《め》がさめても、じゃましてくるシッポはない。


 部屋《へや》のすみにはダンボールベッドがおきっぱなしになっている。

 けっきょく使《つか》ってくれなかったんだよなぁ、雪路《ゆきじ》のやつ。


 大《おお》きくのびをして階段《かいだん》をおり、サンダルをつっかけて外《そと》に出《で》る。



 日《ひ》がのぼって、海《うみ》がキラキラしている。


「わー。もう波《なみ》にのってる人《ひと》がいる。元気《げんき》だなぁ」



 カンカンカンとふみきりの音《おと》にふり返《かえ》れば、江ノ電《えのでん》が見《み》える。


 キツネのあやかしなんていう、明治時代《めいじじだい》のお客《きゃく》さまが来《き》たなんて信《しん》じられないや。


 

 なんだかさみしい気持《きも》ちで海岸《かいがん》を歩《ある》いていたら、いつのまにか足元《あしもと》に白《しろ》いもふもふがいた。


 初《はじ》めて店《みせ》に来《き》たときのように、そ知‘し’らぬカオでそこにいて、見上《みあ》げてくる。



「マコト。わしははらがへったぞ。カレーをくれ」


 もふもふがしゃべった。



「雪路《ゆきじ》!? あんた、カレーを食《た》べてまんぞくしたんでしょ。なんでまだここにいるの?」



 雪路《ゆきじ》はフンとはなをならしてえらそうに、ほんとうに、それはもうえらっそーに言《い》う。


「カンタンな道理《どうり》だぞ、マコト。ここにいればまたいつでも草凪《くさなぎ》のカレーを食《く》えるだろう。だからわしはここにいてやることにした」


「たのんでない」


「そうつれないことを言《い》うな。もしも悪《わる》いあやかしがおそってきたときには、わしがたおしてやる」



 シッポをふりふり、お主《ぬし》の世話《せわ》をしてやるぞなんて言《い》っちゃう。

 ほんとうに、なんてナマイキなキツネだろう。


「令和《れいわ》の日本《にほん》に悪《わる》いあやかしなんて出《で》ないよ。何《なに》とたたかうっていうの」

「デンキヤというところの箱《はこ》が”眠気《ねむけ》とたたかうあなたにヤルキデルZ(ゼェェット)!”とうたっていたぞ」


「それはテレビ。ただのえいようドリンクのCMだよ!」


「しいえむ? 新手《あらて》のあやかしものか?」



 言《い》い合《あ》っていたら、ご近所《きんじょ》さんである山田《やまだ》のおばちゃんが、かい犬《いぬ》のヨークシャテリア、シンちゃんといっしょにやってきた。


 日中《にっちゅう》はあついから、おばちゃんはいつもあさごはんの前《まえ》……これくらいの時間にさんぽしている。

 シンちゃんはおばちゃんのゆっくりなペースに合《あ》わせてぽてぽて歩《ある》いている。


「おはようマコトちゃん」

「おはよー、おばちゃん」

「もしかして、くさなぎで犬《いぬ》をかい始《はじ》めたの? かわいい子《こ》ねぇ」


 

 山田《やまだ》のおばちゃんには雪路《ゆきじ》が犬《いぬ》に見《み》えているの?

 



「わんわんわおーん」

「キャン」

「わうー」

「キャンキャン!」


 雪路《ゆきじ》はわざとらしく犬《いぬ》のマネをして、シンちゃんと会話《かいわ》する。


 しかも、犬《いぬ》っぽく私《わたし》の足《あし》にあたまをこすりつけたりなんてしてきた。


 おばちゃんは、ほほに手《て》を当《あ》ててニッコニコだ。


「かい始《はじ》めて間《ま》もないのにこんなになついているなんて! よっぽどマコトちゃんのこと好《す》きなのね。名前《なまえ》は決《き》まってるの?」

「え? ええと……」


 すごくなついている犬《いぬ》っぽいものを連《つ》れていて、「知《し》らない子《こ》ですね」なんて言《い》いわけはできない。


「あててみせましょうかー? 雪《ゆき》みたいにまっしろだから、ユキちゃんでしょ!」

「お、おしーい! 雪路《ゆきじ》です」


 うわーん、ちがう、そうじゃないんだよー! 

 うちのペットじゃないから!

 


「わうん!」


『犬のふりをするな雪路!!!!』


 と言《い》いたいけれどガマンだ。


 言《い》ってしまったら、私《わたし》は犬《いぬ》と口《くち》ゲンカするへんな女《おんな》になってしまう。

 それだけはさけないと。



 だって山田《やまだ》のおばちゃん、もんのすっごいスピーカーなんだもん!!


 前《まえ》に私《わたし》がそこで転《ころ》んでショッピングバッグの中身《なかみ》全部《ぜんぶ》ぶちまけちゃったとき、たまたまとおりかかった山田《やまだ》のおばちゃんが助《たす》けてくれた。


 次《つぎ》の日《ひ》には近所中《きんじょじゅう》のひとに知《し》れわたってたんだよ!!

 おばちゃん口《くち》がかるすぎるよ!



 ………あれ? これはまずくない?

 このながれだと、山田《やまだ》のおばちゃんは「草凪《くさなぎ》さんちでわんこをかいはじめたわよー!」って話《はな》してまわるよね。


「それじゃあ、あたしはシンちゃんのおさんぽつづけるからね、またね、マコトちゃん。こんどだんなとごはん食《た》べに行《い》くわねぇ」

「あ、はい。まいどー」


 おばちゃんのすがたが見《み》えなくなってから、ためいきをつく。



 いつの間《ま》にか私《わたし》の手《て》にはシンちゃんがつけていたのと同《おな》じリードがにぎられている。


「いだいなあやかしたるわしには、これくらいのジュツは造作《ぞうさ》もない」

「そういえば雪路《ゆきじ》はあやかしだったね…………」


 これからずっと、わが家《や》の犬《いぬ》のフリをするつもりかな。



「さてマコト、いくぞ。たくさん歩《ある》いてはらをすかせたあとに食《く》うカレーはうまい。最高《さいこう》のちょうみりょうだな」

「……うちに住《す》む気《き》マンマンなんだね」

「ただめしを食《く》らうつもりはない。わしはちゃんと役《やく》に立《た》つぞ。売《う》り上《あ》げにコウケンしてやるのだ。くさなぎが長《なが》く栄《さか》えれば、わしはそれだけ長《なが》いあいだカレーを食《た》べていられる」


「はいはい……。なにをどうするのか知《し》らないけど。でも、私《わたし》だけじゃ決《き》められないよ」


「なら早《はや》くもどって誉《ほまれ》と千夏《ちなつ》をせっとくするのだ!」


 見《み》なれた海《うみ》ぞいの道《みち》を、犬《いぬ》のふりした雪路《ゆきじ》をつれて歩《ある》く。


 いい天気《てんき》だなー。風《かぜ》が気持《きも》ちいいや。



「ただいまー! 父《とう》さん母《かあ》さんきいてよー」


 店《みせ》にもどったら、二人《ふたり》が困《こま》ったカオをしていた。




「おかえり、マコト。雪路《ゆきじ》も一緒《いっしょ》だったか。またかわったお客《きゃく》さまが来《き》たぞ」

「へ?」


 店《みせ》先《さき》に、二本《にほん》のシッポのミケネコがいた。


 うしろ足《あし》できように立《た》ち上《あ》がって、マネキネコみたいに左《ひだり》の前足《まえたし》をもちあげる。


「やあやあ、わがはいは小町(こまち)と申《もう》す。雪路《ゆきじ》から、「ここは古《いにしえ》に失《うしな》われた料理《りょうり》をていきょうしてくれる店《みせ》だ」と聞《き》いてな。草凪《くさなぎ》よ。わがはいの思《おも》い出《で》の味《あじ》を再現《さいげん》してはもらえぬか?」



 店《みせ》にコウケンするってこういうことか─────────!?


 小町《こまち》を呼《よ》びよせた元凶《げんきょう》は、店先《みせさき》の花《か》だんをほっている。


「父《とう》さん、母《かあ》さん。どうする?」


「じきじきにリクエストしてくれたんだから、作《つく》るしかないだろう。料理人《りょうりにん》として!」


「わたしはさんせいよ。きっと雪路《ゆきじ》のカレーを作《つく》ったときみたいに楽《たの》しいわ。三人《さんにん》で力《ちから》を合《あ》わせればなんとかなるなる!」



「もーー! 父《とう》さんと母《かあ》さんがのり気《き》なら、私《わたし》もやるしかないじゃない」


「すなおじゃないなマコト。わしにはわかる、お主《ぬし》も楽《たの》しんでおるな」


「それはどうかな」



 なんだかんだ言《い》って、この楽《たの》しいと思《おも》っている私《わたし》がいる。


 あやかしが求《もと》める思《おも》い出《で》のごはんを作《つく》るなんて、きっと私《わたし》たちにしかできないし、最高《さいこう》にワクワクするじゃない。



 食堂《しょくどう》くさなぎが、あやかしご(・)よ(・)う(・)た(・)し(・)の店《みせ》になるまであと少《すこ》し。




 きつねの章《しょう》 おしまい

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