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くさなぎときつねの思い出ごはん。  作者: ちはやれいめい
きつねの章《しょう》
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10/30

10 よみがえる思《おも》い出《で》の味《あじ》

 私《わたし》は世界ノ珍品堂(せかいのちんぴんどう)という店《みせ》に向《む》かった。


 

 いろんなスパイスの香《かお》りがいりまじる店内《てんない》には、ワニ肉《にく》だのウサギ肉《にく》だのシカ肉《にく》だの、スーパーでみることのないめずらしいものがところせましと並《なら》んでいる。


 うわぁ、ワニなんてウロコと爪《つめ》までついているよ。どうやって食《た》べるのかな。


 いや、世界《せかい》のどこかにこれを食《た》べているから、店《みせ》にあるんだよね。


 変《か》わりダネがならぶ店《みせ》で、中学生《ちゅうがくせい》の私《わたき》は明《あき》らかにういていた。


 そしてついに、カエル肉《にく》をゲットした。

 何語《なにご》かわからないパッケージの上《うえ》に日本語《にほんご》のラベルシールがはりなおされていて、食用《しょくよう》ウシガエルと書《か》いてある。


 うへー、……形《かたち》がまんま、カエルだ。


 カチカチにこおっている。

 カエルってみどり色《いろ》の皮《かわ》をはぐとピンクなんだ。


 ショーケースのガラスに、カエルを抱《かか》える私《わたし》がうつっている。

 えほんに出《で》てくる悪《わる》いまじょになったきぶん。



 家《いえ》に戻《もど》って、自然《しぜん》かいとうされるようにカエルを冷《れい》ぞう庫《こ》にいれる。


 今日《きょう》の営業《えいぎょう》がおわってから、私《わたし》たちはカレー作《つく》り取《と》りかかった。


 カエル肉《にく》はほどよく溶《と》けていてぷるんぷるんだ。


 父《とう》さんは真剣《しんけん》なかおでカエルからホネをそいで、細切《こまぎ》れにしていく。

 フライパンにバターを引《ひ》いて、長《なが》ネギといっしょに炒《いた》める。

 ジュワ! といい音《おと》と香《かお》りが広《ひろ》がる。


 そこに小麦粉《こむぎこ》をよくからめる。

 ショウガとニンニクもすりおろしてくわえる。


「あらら、カエルってこうして火《ひ》を通《とお》すと本当《ほんとう》にトリ肉《にく》みたいなのね。初《はじ》めて見《み》たわ」


「俺《おれ》も、じぶんちでカエル料理《りょうり》を作《つく》る日《ひ》がくるとは思《おも》わなかった。調理師学校《ちょうりしがっこう》のころもカエルなんて使《つか》ったことがない」



 母《かあ》さんの感想《かんそう》に、父《とう》さんもうなずく。


 火《ひ》が通《とお》ったら昆布《こんぶ》だしを注《そそ》いでカレー粉《こ》を入《い》れ、じっくりと煮込《にこ》んでいく。


 こうして、ついにカエルカレーが完成《かんせい》した。


 

 皿《さら》にごはんをのせて、カエルカレーを盛《も》りつける。


 雪路《ゆきじ》はこれまでにないほどのいきおいでかぶりついた。

 


「これだ、この味《あじ》だ!! 草凪《くさなぎ》といっしょに食《た》べたあのごはんだ! わしはこれを食《た》べたかったのだ!」


「ほんと!? やったぁあ!!!!」


 ついに私《わたし》たちは、ご先祖《せんぞ》さまが作《つく》ったカレーの再現《さいげん》に成功《せいこう》した。

 三人《さんにん》でハイタッチ!



 雪路《ゆきじ》が大好《だいす》きだというカレーを、自分《じぶん》たちでも食《た》べてみる。


 トリ肉《にく》のような舌《した》ざわりなのに、なんとなく白身魚《しろみざかな》にもにている。

 あっさりしたカレースープのような。でも、しっかりスパイスを入れて煮込《にこ》んだおかげでおくがふかい。


 この味《あじ》を知《し》っていたら、たしかにブタ肉《にく》と野菜《やさい》ゴロゴロカレーはち(・)が(・)う(・)という感想《かんそう》になる。


「ふしぎな味《あじ》。明治時代《めいじじだい》のカレーってこうなんだね」

「雪路《ゆきじ》が俺《おれ》の店《みせ》のカレーを思《おも》い出《で》の味《あじ》とちがう、と言《い》うわけだな。たしかにカエルのカレーは、うちのカレーとはぜんぜんちがう」


父さんはカレーを食べてうなった。

 

「少《すく》ないヒントをたよりに料理《りょうり》を作《つく》るなんて、推理小説《すいりしょうせつ》のたんていになったみたいで楽《たの》しかったわね。雪路《ゆきじ》のおかげで貴重《きちょう》な体験《たいけん》をできたわ。ありがとう、雪路《ゆきじ》」


 

 母《かあ》さんもえがおでおかわりまでもっている。



 カレーをきれいに完食《かんしょく》して、雪路《ゆきじ》はうれしそうになく。


「ありがとう、誉(ほまれ)、千夏(ちなつ)、マコト。わしはとてもまんぞくしたぞ。あのとき食《た》べたのとおんなじだ。こうして心《こころ》をくだいてくれる食《た》べ物《もの》のなんとうまいこと。どれほどときが流《なが》れようとも変《か》わらぬものはあるのだな」


「……雪路《ゆきじ》、カエルカレー食《た》べられて良《よ》かったね」


「ありがとうな、雪路《ゆきじ》。大昔《おおむかし》の料理《りょうり》を再現《さいげん》するなんて、料理人《りょうりにん》としてとても楽《たの》しい経験《けいけん》だった」


「わたしも楽《たの》しかったわ。キツネのあやかしとおしゃべりして一緒《いっしょ》にカレーを食《た》べたなんて、だれかに言《い》っても信《しん》じてもらえなさそうだわ」


 父《とう》さんと母《かあ》さんも、しんみりしてる。




「ふふふ。お主《ぬし》たちなら作《つく》ってくれると信《しん》じていたさ」


 

 雪路《ゆきじ》はシッポをふって出《で》ていく。


「草凪《くさなぎ》の、とおいとおい子《こ》どもたち。わしはおぬしらに会《あ》えてうれしかったぞ。また気《き》が向《む》いたら食《た》べにくるから、よろしくな」


 そう言《い》って、日《ひ》の落《お》ちた夜《よる》の町《まち》に消《き》えていった。



 ……雪路《ゆきじ》は、私《わたし》と父《とう》さんが、草凪《くさなぎ》さんではないととっくに気《き》づいていたんだ。

 わかっていて、友《とも》だちの草凪《くさなぎ》さんと同《おな》じようにせっしていた。



 次《つぎ》に雪路《ゆきじ》が来《く》るとしたら、また百年《ひゃくねん》くらいたったあとなのかな。

 私《わたし》の孫《まご》やひ孫《まご》の時代《じだい》に。



 きっと、私《わたし》はもう雪路《ゆきじ》と会うことがない。



 おフロに入ってパジャマにきがえたら、布団《ふとん》にもぐり込《こ》む。


 布団《ふとん》の取《と》りあいがないのが、ほんのちょっとだけ、さびしい。



 せめて百年後《ひゃくねんご》でなく、生《い》きているうちにもう一回来《いっかいき》てくれないかな。


 そうしたら私《わたし》は、キツネの友人《ゆうじん》のためにカエルカレーを作《つく》るんだ。


「あいかわらず、キツネのくせに食《く》い意地《いじ》がはっているんだね」なんて言《い》いながら。

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