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将来有望冒険者ケンスケっ!!  作者: 大石次郎


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負の奇跡 後編

私の最初の記憶は2歳3歳の頃、焼け落ちる要塞のような館を高台になった丘から私と母と父で見下ろしていた。

私は父に手を引かれていた。父と母はニーベルングの血を引いていなかった。

父の顔は上手く思い出せないが、とても大柄な人だった。


それから3人で辺境の里に流れ着いた。様々な非合法な団体から逃れてきた人々が作った共同体で大人の多くは疲れきっていたが、私の他にもいくらかいた子供に関係無く、殆んど機械の類いを見ない前時代的な里で私はそれなりに楽しく暮らしていた。

母は決して私に近付かなかったが、私はもう乳飲み子ではなく父は私の面倒をよく見てくれた。

その里も私が5歳になった頃、過激派の光明神信奉者達に襲われ壊滅した。父は私と母を庇って亡くなってしまった。


一緒に逃れた人々は少しずつ離れてゆき、最後に私と母だけになると、母は工場の多い空気の悪い街の歓楽街で働くようになり、それから私は毎日のように母に折檻されるようになった。

6歳になる頃には私は痩せ細り、傷だらけで、頭の中がぼんやりするようになり、この女はそろそろ自分を殺すつもりらしい、と他人事のように考えていた。

しかし私は殺されず、前触れも無くサーカス団に売られることになった。連れてゆかれる日、いつものように酒を飲んでいた母はダイニングのテーブルで父からもらったネックレスを聞き取れない独り言を呟きながらいつまでもイジっていた。

本当に哀れな女だった。


サーカス団ではまず私が衰弱し過ぎていて使い物にならないので、世話役のゴブリン族とのハーフらしいまともに口が聞けない老婆に、それから3週間余り1日1度脂っぽい団員の残飯に薬草を加えて煮込み直したヘドロのようなシチューを無理矢理食べさせられた。

私が腹痛と吐き気に悩まされながらも回復すると、逃げないよう逆らえば締め付けられる呪いの首輪をつけられ、旅を続けるサーカス団で下働きをさせられた。

食事は薬草が入らず煮込み直されてもいないが、団員の残飯を1日1度与えられた。おかげで私は働くようになっても1月あまり腹痛と吐き気に悩まされたが、やがて身体が適応してなんともならなくなった。

1日18時間は働かされ、同年代の孤児達が次々過労や病で死んでいったが、私は死ななかった。強壮なニーベルングの血に守られたのだろう。


9歳になるとは他の珍しい混血の子達と一緒に邪血の仔(じゃけつのこ)として、檻の中で岩の部位の肌がよく見えるような格好サーカスのテント入り口で入場する客へのデモンストレーションとして見せ物になる仕事を与えられた。

珍しがられ、疎まれ、石を投げられ、唾を吐かれることもあったが、別になんともない。数時間、ただ座っているだけで団員と同じ傷んでいない食事にありつけ、睡眠時間も2時間は増えた。

11歳になる頃には少し数は減ったがやはり他の珍しい混血の子達と一緒に多少着飾った格好でテント内を音楽に合わせて一輪車で駆け回る仕事を与えられ、駄賃をもらえるようになり、月に2日は休暇が与えられ、新入りの子供達がなるべく死なないように様子を見る仕事も与えられた。

いつかのハーフゴブリンの婆さんは完全に正気を失くし団員に相手にされなくなっていたが、この頃の私はムキになって亡くなるまで世話をした。

段々と、居着いていってるのがわかった。最近サーカス団のパトロンの1人が私に色目を向けてくるようになっていたが、それも仕方ない。殺されるかもしれないが、それも仕方ない。私のような者は収まる所に収まって、後は静かに消えてゆくだけなのだ。

この血を残したくはなかったが、それもきっと私には選べない。


次の休暇に、パトロンの館へゆけ。上手くすれば呪いの首輪を外してやってもいい。


ある日、私は団長にそう命じられた。特に何も感じなかった。首輪も取れるのか、死体になるという比喩じゃないのか? まぁそれくらいの物だった。

休暇の前日、私はいつもの通り愛想を振り撒いて一輪車をテントで乗り回していると、楽屋に山程花を送り付けてきていたパトロンはVIP席から舐め回すようにオペラグラスで私を観ていて、さすがに寒気はした。

そして私達の演目が終わろうかという時、冥王教団のニーベルング混血閥の者達がサーカスのテントを強襲し、観客もパトロンも、私以外の団員も私の友達だった子供の団員も面倒を見ていた幼ない子達も、団で飼っていた獣達も、全て殺してしまった。

当時、閥を率いていた覆面の男は魔剣の一太刀で呪いの首輪を断ち切り、私に血塗れの手を差し伸べ、言った。


「高潔なるニーベルングの血っ! 選ばれし者よっ、不浄なる地上に我らの神血(しんけつ)の勝利を知らしめんっ!!」


私はその手を取り感涙した。自分にまだ怒りがあったことに感涙したんだ。

何より安心した。やっと悪の側に回れると、



最下層の、凍り付く白骨の山で飾り立てられて儀式の間に胸部に時折火を吹く風穴が空き、崩壊する身体を上手く冷気を持って再生できなくなった氷の冥翼王が飛び込んできた。

上手く飛べず激突した下位の冥王信奉者達を引き裂き、凍り付かせ、あるいは胸から噴きだした太古の火で焼き払って追い立て、どうにか体勢を立て直して儀式の祭壇へと歩きだす。

祭壇の近くにはレイミが率いる一党が待ち構えていた。


「レイミ! 我と我の同胞がっ、尋常(じんじょう)を超えし者どもの魂を集めたっ。今! 使えっ!!」


「木の冥翼王も先程討たれたようだよ? まぁこっちは質より量を集める感じになったようだけど」


祭壇から離れたバルコニーになった中二階に、手勢と共にいるヨズーが気安い調子で言った。


「・・氷の翼(こおりのつばさ)よ。 死の翼達よ。よく闘った」


左頬に凍傷の傷痕を持ち、左耳の欠けたレイミは袖を捲り、所々岩のような質の左腕を氷の冥翼王に差し出した。


「冥府において不滅であろうとも、その労と、確かに受けたこの不浄の世界での仮初(かりそ)めの死の痛みに、対価無く私の左腕を与え慰めよう」


氷の冥翼王はレイミが言い終わるや否やレイミの左腕に喰らい付き、凍り付かせ、噛み砕きだした。

眉一つ動かさず見詰めるレイミ。

バルコニーのヨズーは肩を竦めた。


「・・っ!」


氷の冥翼王は左腕を喰い尽くし肩口まで凍らせると、即座に胸の残火を冷気で一時消してレイミに飛び付き、まだ無事な右の耳に向かって囁いた。


「レイミ、お前の滑稽さに免じ、お前にばかりはお前の望まぬ呪いを与えよう」


「っ?!」


氷の冥翼王は崩壊仕掛けの身体を離し、柔らかといい程弱く羽ばたいて祭壇の中心に舞い降り、仰向けに身を置いた。胸風穴から火が拡がり始める。


「主よ、この身を、儀式に捧げる」


瞬間、祭壇の床から死の力を纏った朧気な巨人の手が現れ、氷の冥翼王を握り潰し、胸の炎を打ち消し、その凍える鮮血と肉片と砕けた骨で、祭壇に元々ある陣に呼応し、禍々しい魔方陣を描きだした。


「・・()らよ、願え」


冷たく誰もが知る真夜中に地に落ちる病葉(わくらば)のような声が響き、死の巨人の手は床に吸い込まれるようにして消えていった。

左腕を失ったレイミは妖しく輝く魔方陣の祭壇に歩み寄った。

レイミの一党の者達が祭壇の周囲(ひざまず)いて祈りを捧げた。

レイミは陣に右手を差し伸べた。


「我らが始祖、ニーベルング族の復活をっ!!」


叫ぶレイミ。陣は妖しい閃光を放ち、それを再び地上に喚び出した。


「ヴァムウウウゥゥッッッ!!!」


「トゥウウウィィッッッ!!!」


喚くそれは、人の3倍程度の大きさの岩の肌を持つ男女一対の肉塊であった。背にはその8倍程度の(こぶ)集合体のような物があり、瘤の1つ1つにゼリー状の半透明の球体が数十個盛り上がっており、その中に小さな所々に岩の特徴を持つ胎児が詰まっていた。

レイミとその一党は驚愕した。


「これがっ、純血のニーベルングっ?!」


レイミの混乱等構わずに、ニーベルングの肉塊は瘤の部位全体から触手を発生させ、レイミの一党に襲い掛かり串刺しにすると瞬く間に体液を吸い付くして殺害しだした。

為す術が無いレイミ。

触手はヨズーとその手勢に関心を示さなかった。


「ごめんね、レイミ! 君らのグループを捧げるのも契約の範囲でね」


ヨズーはバルコニーで嗤っていた。


「不純な血っ! 我らの中で浄化してやろうっ、これでお前も純血なりっ、ヴァムゥッッ!!!」


「さぁさらにっ! 命を捧げなさいぃっ、トゥウィィッ!!」


レイミにも触手が迫り、レイミは自嘲気味の笑みを浮かべ、抵抗しなかった。が、


「ヴァムゥッ??!!」


「痛ぁっ?! トゥイッ!!!」


レイミの凍り付いた左の肩口から突如生え出した猛禽類の特徴を持つ鉤爪の腕が、襲ってきた触手を全て引き裂いた。


「なっ?!」


自身の左腕に驚くレイミ。


「なんの気紛れだよ?」


ニヤついた顔を維持するのを忘れて困惑するヨズーだったが、ハンドサインで手勢に魔力増幅の多重魔方陣を発生させた。


「悪ふざけかっ?! 冥翼王っ! ヴァムーッッ!!!」


「不純の猿に力を貸すなんてぇええっ、トゥウィィッッッ」


ギロチン状に硬質化せさた触手で猛然とレイミに襲い掛かり後退させる肉塊のニーベルング。


「私は、何もっ?!」


勝手にギロチン触手を迎撃する冥翼王の左腕に困惑するばかりのレイミ。


「エル・エレクトロン!!!」


手勢の増幅陣で強化した上位電撃魔法をレイミに放つヨズー。

凄まじい電撃に冥翼王の左腕で防ぎ切れず、


「あうっ!!」


全身を感電させて吹っ飛ばされるレイミ。倒れ込み、白目を剥いて痙攣し、左腕の冥翼王化が解けて岩の特徴も無い、ただの人間の左腕になった。


「無能だけどやる気のある人達は整理する、って僕は言ったよね? レイミ」


ヨズーは続けて電撃を纏い始め、肉塊のニーベルングも触手の追撃の構えを見せたが、不意に遺跡全体が大きく揺れだした。


「っ!!」


「ヴァムッ?」


「トゥイ??」


遺跡の凍結化が急速に解け、その反動で遺跡のあちこちに亀裂が入り始めていた。


「始末が悪いっ、御先祖! 食事の埋め合わせはするっ」


忌々しげに言い、手勢に自分達と肉塊のニーベルングの足元に別の魔方陣を発生させるヨズー。


「可哀想なレイミっ! この遺跡は君の墓標にしてあげようっ、じゃあね! ロングレンジテレポート!!」


ヨズー達と肉塊のニーベルングはいずこかへと空間移動していった。


「・・・」


天井の崩落が始まる凍結化の解けた儀式の間で、痙攣もほぼ止まったが白目を剥いたままのレイミは、合流した教団で初めて会ったまだ幼さの会ったヨズーの軽口や、信奉者として血生臭い日々、冥翼王の召喚方法の発見の報せが届き自分達の一派が沸き立った日等を思い出していた。

冥翼王の言う通り滑稽に過ぎない。ただそう思っていた。

しかし冥王信奉者は死に近い。これ程一所で殺され放置されれば、例え個の命を吸い奪われ尽くしていてもなんの死の顕現も無いわけがなかった。

干からびたレイミ一党の死骸達から死の欠片達が立ち昇り、逆巻き1体の弱々しい死霊を造りだした。

死霊はレイミの焼け焦げたウワバミのポーチを指差し、その口を独りでに開けさせると、そこから砕け、焦げた、脱出の鏡の破片を全て浮き上がらせて取り出した。


「・・よせ、私はもう、冥王様の御元へゆく。やるだけの、ことを行い、目的を、果た、した。ヨズーは、はしゃいだ、だけだ。我々は、ここまで、だ・・」


意識を取り戻したレイミは言った。


「・・罪も、多く、ある。それ、に・・疲れた。皆で、ゆこう・・・」


レイミが死霊に微笑み掛けると、


「本当ノ我々ハ、君ダッタ」


死霊は呟き、脱出の鏡を再構成し、黄金に輝かせた。力を使い果たし、消え始める死霊。


「止めてくれ! 何も期待しないでくれっ」


泣いて懇願したが、レイミは黄金の鏡へと吸い込まれていった。

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