負の奇跡 中編
俺はアイススカルハウンドの破片と一緒にガンガン落下していた。砦跡から遺跡に景色が切り替わる。地下1層どころじゃないっ! この穴、中層まで続いてんじゃないか? 氷の冥翼王の攻撃か??
「・・・」
これはプロテクト重ね掛けしててもさすがにミンチか? いや、もう1回くらい重ねて地面に防御技の鉄亀で突っ込めば・・いやいや、そもそも中層より深い可能性ありありだっ! 今、俺にある材料だけじゃキツいっ。となると、
「ブレッシングっ! ううっ、ブレッシングっ!!」
2回まではどうにか祝福魔法を重ね掛けできた! 運気も上がったはずっ。来いっ! 超ラッキーっ!! ・・と、
「っ!」
穴でブチ抜かれた地下の通路の1つから、ふぁ~っと、骨に実体のある霊体モンスター、アイスガイストが1体、彷徨い出てきた。俺に気付いてボロボロのサーベルを手に向かってくるっ!
「愛してるぞっ?! 鉄亀っ!」
俺は銅鑼打ちだと粉砕して貫通しそうだったから防御技に落下の勢いを足してヒートシールドをブチ当て、サーベルと骨の実体を砕きその反動で大穴の縁へと身を翻した。
「うおおぉーーーっっっ!!!!」
穴の縁の構造物のある部位にどうにか取り付き、ヒートソードを突き刺して焼き削りながら、落下の勢いを殺してゆくっ!!
階数は数えていた。穴はやはり下層まで続いているが勢いは中層で止まった。ヒートソードにヒビが入っている。
「んがっ」
俺は穴の縁の壁を蹴りつつ、焼けた筋が上まで続く遺跡構造物からヒートソードを抜き、一番近い中層の通路に着地した。着地した途端ヒートソードが折れちまった。
「はぁはぁはぁ・・運がいいんだか悪いんだか・・」
俺はヒートソードの変わりに予備のミスリルソードを装備し直し、大穴の縁まで行ってみた。
上も見てみたが砦跡や遺跡に掛けられた凍結化の呪いのせいで、穴を穿ったパワーが最も弱かったはずの上層は既に氷で塞がりつつあった。
穴伝いに上がると最悪、途中で氷漬けか・・
「エビィユー、大丈夫か? 俺も言ってられねーが」
心臓がバクバクしていたので一端、縁から離れて座り込み、魔法石の欠片を使い、ポーションも飲んで一息ついた。
遺跡通路には陰火の燈台が等間隔に置かれていて、ライトの魔法を使わなくても視界は利き、寒いが呼吸も問題無い。使い魔達の調べた通りだ。
「・・さてと」
地上1層と違い、破壊されたゴーレムや殺害された使い魔の死体が目立つ、中層の通路に俺は歩きだした。
「ブレッシングの効果は残ってる。やれるさっ!」
自分にいい聞かせ、マップでどうにか現在地を割り出し、俺は通路を進みだした。
途端、アイスボーンドラゴンに襲われたっ!! ブレッシング~っっ。何神だ? 何神様がおサボりになられたんだっ??
「ゴァアアーーッッ!!!」
吠えまくるアイスボーンドラゴンっ!
「よーしっ、今日はいい日だ。骨だがっ、ドラゴンスレイヤーケンスケっ! 爆誕だぁっ!!」
と言いながらもどうにか離脱できないか? 俺は遭遇した広間を逃げ回りながら思案した。広間に続く通路はどれも狭い直線! 逃げ込むとブレスの追い打ちで通路ごと氷漬けだっ!
どうするっ? どうしたら生き残れるっ?!
色々考えたが、ブレスを封じるくらいダメージを与えないと逃げられもしない、と結論するより他無かった・・
「ええいっ、やるかっ!」
俺はヤケクソ気味に武器を構え、ウワバミのポーチやボックスの魔法の中の魔法道具類のリストを必死で思い出していた。
俺が神の加護を見切ったその時っ。神は俺に微笑んでいたようだ!
「リザードハントっ!!」
空中に出した加速特性の魔方陣を蹴って急降下し、ヒートスピアでアイスボーンドラゴンを半壊させっ、大きく怯ませる男がっ衝撃吸収効果の魔方陣に着地してきた!
「おいおいケンスケっ! たちけてぇ~っボク死んじゃうよぉ?! って、うるせーぞっ?!」
ニヤニヤする耐寒ヘッドギアから金髪ロン毛がはみ出したマッチョ野郎はっ、
「ロドリーっ! 誰もそんなこと言ってねーよっ」
俺がワーワー言ってると、
「ゴァアアーーッッ!!」
頭を半分吹き飛ばされても凍えた骨の竜は俺達に襲い掛かってきたがっ、
「よいしょっ!」
装着型のゴーレム、魔工ゴーレムスーツを着込んだ女性が(スーツは胴体前面はあまり覆っていない)気の抜ける掛け声で鋼鉄の拳持って殴り付け、アイスボーンドラゴンの頭部を完全に吹き飛ばして打ち倒した!!
「2人とも、大丈夫ぅ? ケンスケ君久し振り~」
フェイスガードを解除して顔を出したのは褐色の肌のグラマーなオーガ族、ノイノイさんだった。ノイノイさんはファジーネーブルのギルドスクールの指導員だが、冒険者てしてはレア職、魔装闘士だ。
「ノイノイさんまでっ」
等と俺が驚いていると、
「ふっふっふっ、わたくしの見立て通りこの辺りで回復要素を拾えるというのは的中だったようですね」
広間の瓦礫の陰からのそのそと、陰気そうな細身のエルフの女が現れた。
「ドルタマ・ノチー!」
リーラ州冒険者ギルド78期の同期だ。職業は占い師。癖、強めの女だっ。
「なんだよ回復要素って」
「ふっふっふっ、ケンスケ、
卒業式以来ですね。在校時さほど会話した記憶もないですが、ふっふっふっ」
「・・・」
めんどくさっ。話してみると、3人はノイノイさんの火力を期待されて本線ルートの3次隊に属していたが、途中の乱戦で本隊からはぐれてしまい、ウロウロしながら戦っている内にポーションの残数が少なくなってきたらしい。
打開策をドルタマに占わせたところ、この広間を示されたらしい。癖は強いがドルタマ、グッジョブっ!
急に同窓会じみてきたが、俺達は一先ず他の隊なり隊員なりと合流してまともに隊が組める体勢を整え直すことを目指すことになった。
何神だかわからないが、感謝しないとな!
・・最下層、手前の遺跡下層では多重に補助魔法を掛けられた太古火の矛を振るうレベル40の竜殺し、ヴィマ・アランバが氷の冥翼王と交戦していた。壁の多くは突き破られ、広大になった下層遺跡の空間で、炎と氷の力が激突する。
「ブリンク・ドレイクハントっ!!」
分身し、宙に多数発生させた加速魔方陣を蹴り全方位から凄まじい猛え盛る炎の槍のの突きの連打を放つヴィマ。
氷の冥翼王は翼をはためかせ、冷気の衝撃波をはなって全て分身を吹き飛ばし本体だけになったヴィマに対し、
「クゥアアァーーーッッッ!!!!」
冷気ではなく、無属性の極太の光線を放った! 1階のケンスケが床を崩壊させられたのもこの光線であった。
ヴィマは撃ち気を見切って魔方陣を蹴って回避した。
奇襲を受けたこともあり、この下層までヴィマと共に攻略してきた数十名の手練れの冒険者達が殺害されて瓦礫と氷と炎にまみれた下層のフロアに転がされていた。
「魔本・熱砂の女王っ! 5章砂鮫に乗ってっ!!」
瓦礫の陰でエクスポーションを飲んで回復していたフルッカが、別の州のギルドが獲得した炎の魔本を使い、燃える扇子を持つ火の女王の姿に変化し合わせて出現した砂の鮫に乗ってヴィマの加勢に入った。
「燃えて下さいっ!」
この数日を炎の魔本を使いこなす訓練にのみ費やしたフルッカは意識を保ったまま変化していた。
「クゥアッッ!!!」
吠える氷の冥翼王は炎のフルッカとヴィマは激しく交戦する。
「水の聖杯よっ!」
ザルビオを含む、生き残りの補助系能力の冒険者達と共にいたネッサリアが水の聖杯の力でヴィマと炎のフルッカを回復させる。炎のフルッカはフルッカ本人を高温から守る必要もあった。
「クゥゥッ、邪魔ぁっ!!」
鋭く氷り付く羽根を十数本、ネッサリア達に超高速で放ってきたが、
「炎獅子っ!」
ボウトゥーメが炎の回転斬り技で全て斬り払った。ここで、
「マナバーストっ! 凍り付くことを封ずるっ!!!」
魔力を一時的に底上げしたザルビオが冥翼王の氷の力を半減させた。
「7章、踊り狂う夕陽っ!!」
砂の鮫を消し変わりに扇子の炎の勢いを増して、自身の身が焼かれるのに構わず猛烈な連撃を氷の冥翼王に浴びせる炎のフルッカ。
「クゥアアァッッ!!!」
冥翼王は怒りを募らせ、魔力を高めだしたが、
「マナバーストっ!」
炎の魔力を高めたヴィマがフロアの中空に7つの輪状魔法陣を発生させた。冥翼王は警戒したが、炎フルッカは損耗しながら位置修正に協力しだし、ボウトゥーメも遠距離攻撃で支援し、ネッサリアは自ら焼き尽くしそうなフルッカを回復させ続け、ザルビオは暴発しそうな封印の多重魔方陣を必死で維持した。
「ネヴュラランスっ!!!」
飛び上がったヴィマは宙で発生させた魔方陣を蹴って加速し、ある程度起動修正される7つの輪状魔法陣をくぐり抜けた。1つ抜ける度に魔力が増大する。
7つ目の輪の先に、最後は扇子が砕け、フルッカの蹴りで投げ出された氷の冥翼王は、神速で降下してきたヴィマに全ての氷の防護障壁を破られ、胸板を貫かれた。
「グェッッ?!!!」
刺された側から大爆発して爆炎に呑まれる氷の冥翼王っ! ネッサリアは水の聖杯の力を回復から炎の遮断に切り替え、耐性のあるヴィマ以外の全員を守った。
「カヒューッ・・カヒュー・・ふふふ、壊したな、この身体。来いっ、メタグリフォンどもっ!!」
ほぼ焼き尽くされ焦げた骨に近い姿になり胸に風穴を空けられた冥翼王は、20体の骨のグリフォンを召喚し、消耗したヴィマ達に放ち、自身は素早く最下層へと逃れだした。
「くそっ、儀式をやる気かっ!」
ヴィマ達は強壮なメタグリフォン達に手こずり、もはや死は免れないであろう氷の冥翼王を即座に追うことは叶わなかった。




