別章 1話 父母の馴れ初め
ダフニウスは、ディアドコイ同士の戦いに巻きこまれ地中海上で拿捕された。
故郷のマケドニアから遠く離れたここは、エジプトのアレクサンドリア。
奴隷に落とされ終生使役につくのか、晒されて処させるのか、どちらなのかすら分からないが、正に風前の灯にも似た状況下である。
そして入れられた地下牢は、下賎の者たちであふれ荒ぶる雰囲気でピリつき、天井壁床は石造りで湿っぽく苔も壁面にむしついる。
さらに、便所もないので牢内の隅には汚物が詰まれていて悪臭漂う不衛生極まりない上に換気すらもまともには無い牢内。
そしてさらに、時折りネズミが走り虫が這う様な、なんとも始末の悪い最悪な環境。
戦いで負った傷も、これでは癒るどころか化膿が広がり最悪そのまま死ぬかもしれない。
出なければならない、生きる為には何としてでもこの地から脱出せねばならないのである。
しかし、良い知恵が浮かばない。
そんな時に出会いが来たのは必然なのか?プトレマイオスの右筆が牢屋に訪れた。
青年期まで共に、同じ師達に学び共にオリエント世界まで赴いて大王と共に東方を目指して戦った同窓であるプトレマイオスと袂を分かち戦う羽目になるなんて、確かに水と油で何時も言い争ってはいたが、その時まで互いにこんな時が来るとは思いもしなかったダフニウスとプトレマイオス。
右筆は、ファラオへ即位したプトレマイオスへの臣従と本物のアレクサンドロス大王の遺体の在処を言う事を条件に、この牢から出して治療してやるとダフニウスにどうするのか問うてきた。
プトレマイオスは、このダフニウスに煮湯を飲まされていた。
わざわざ奪った大王の遺体が偽物であった事は、大王の葬儀を取り仕切り養女として迎えた大王の末子の保護者としてエジプト王朝を継承したのだという宣言の正当性が揺らぐ事態なのである。
そんな事をして今地下牢に入れられているダフニウスは、わざと聞こえないフリをして右筆を自分の手が届くところまで呼び寄せた。
右筆は牢に近づき再び伝えようとすると、ダフニウスは牢の柵越しから右筆の手を手繰り寄せ、そのまま右筆を羽交締めにしてしまった。
それからダフニウスは門番に、「早く俺を牢から出せ!」と、怒鳴り付け右筆を人質に取りその牢屋を後にした。
そしてダフニウスは、彼女を知っていた。
彼女は、プトレマイオスの養女にして大王の血を引く実子。
かつての名は、クレオラ。
今は、クレオパトラ。
栄光と言う名は父の栄光と言う名に置き換わっていた。
プトレマイオスは、そこまでして自分の正当性を誇示したいらしい。
姑息である。
で、それから二人は、なんやかんやあってラブラブなバカップルになり、頭お花畑のまま名を変えアレクサンドリアからブリテン島まで愛の逃避行気取りで駆け落ちした。
ダフニスとクロエ。
モモタウロスことアレックスの両親が、運命の出会いを果たした時の話である。




