1.1章
2年後:
「引きこもり」の人が昼夜逆転することはよくあることだが、もれなくその点では神城 蓮も同じだった。真夜中を過ぎた頃、蓮はお気に入りのFPSのオンライン対戦に区切りをつけた。完全に覚醒していない頭の中で、ぼうっとパソコンの画面を眺めていたその時、チャット友だちが蓮の人生の転機となるメッセージを送ってきた。
- @blessedwitch: お誕生日おめでとう。- 00:01
- @fallenangel: えっ、確かに明日だけど、何で知ってんの?- 00:02
- @blessedwitch: 秘密。- 00:02
- @fallenangel: マジで怖いんだけど、ありがとう。- 00:04
- @blessedwitch: 誕生日なのにあんまりうれしくなさそうなのね。- 00:05
- @fallenangel: 誕生日ってだけで何も祝うこともないからね...。- 00:06
17歳。子供ではないが、大人というには若い微妙な年齢である。義務教育が終われば、勉強も仕事もしない隠居老人のように、やっと充実した生活を送れると信じていた彼にとって、「大人」ではないこの17歳の時期は、ゲームの最終局面にいるがラスボスには到達できていないようなもどかしい時期であった。
- @blessedwitch: そうなんだね。- 00:06
- @blessedwitch: 誕生日の君に何か出来たらいいなぁ。- 00:07
- @fallenangel: ねえ。- 00:09
- @fallenangel: あのさ、今履いているパンツの色教えてよ?- 00:10
- @blessedwitch: 何、私のパンツの色が知りたいの?- 00:10
- @blessedwitch: じゃあ、せっかくだから見せてあげよっか??- 00:11
- @blessedwitch: いいよ。あなただけだからね- 00:12
- え!?
テキストメッセージでくだらないチャットのやりとりと、ビデオ通話は完全な別ものである。連はさっき変態的なメッセージを送った時と打って変わって、突然のビデオコールに取り乱していた。彼の震える手はビデオコールの着信拒否ボタンを押していた。
- @fallenangel: ちょっと待って! - 00:14
- @fallenangel: さっきのは冗談だよ、無視して。- 00:14
- @blessedwitch: あ、恥ずかしがり屋さんなんですね。(笑) - 00:15
- @fallenangel: ...。- 00:15
- @fallenangel: 誕生日といえば、君のはいつ?- 00:15
- @blessedwitch: 明日でーす! - 00:16
- @fallenangel: ホントに!?すっごい偶然だね... - 00:16
驚いたが、このゲームを始めてからの彼女のことをよく知っているだけに、誕生日が同じという偶然を受け入れるしかなかった。
- @fallenangel: さて、魔女さん、いつも親切にお相手してくれてありがと。- 00:18
「聖なる魔女」がオンラインゲームでもメッセージアプリでもこの女の子のニックネームであった。もう1年近くメッセージのやり取りをしている。
- @fallenangel: 何か欲しいプレゼントとかある?(あまり高くないもので頼むわ) - 00:19
- @blessedwitch: そんなに私のことを思ってくれているとは......。困ったなあ...。- 00:20
"さっきは変なこと言っちゃったけど、誠意が伝わってくれるといいんだけどな...”
ハートの絵文字やかわいいステッカーのメッセージがたくさん送られてきて、画面がカラフルになったのを見て、少年はため息をついた。
- @blessedwitch: 実は、ずっと聞きたかったことがあるの...。- 00:22
パソコンのモニターの光だけで照らされた暗く雑然とした部屋で、ベッドに横たわり、蓮はだらしなくにやけながらスマホの画面を見つめていた。
"魔女さん"とのデートが決まっただけで、こんなに感情的になるなんて...。どうやら俺は引きこもってる方が良かったかもな! そっちのほうがもっと悪いか..." その少女のことはよく知らないが、蓮が辛い思いをしていた時に、その寂寥感を救ってくれたのは確かに彼女だった。蓮の気持ちを聞いてくれたり、オンラインゲームを一緒に楽しんだり、彼女はいつも彼のそばにいてくれた。
朝になった。曇り空であった。短い叫び声が聞こえ、ドアが勢いよく開いた。
- すまないが、お前はおいて行くからな...
- 待て、殺して!殺してくれ!頼む!-
蓮は慌てた様子で涙を浮かべながら、友人に懇願した。
- 恥ずかしくないのか、お前さあ?
- そりゃ…
- プライドとかないのかよ?
- 怖いんだよ、仕方ないだろ-
蓮は反射的にそう答えた。
- そんな大げさに騒ぐなよ。虫ごときで。
「カビ臭っ、嫌な匂い...」 蓮の部屋に入ってアレックスはそう思った。アレックスは片方の手で鼻を覆い、もう片方の手で虫を捕まえ、窓の外に放り捨てた。
- 蓮はさ、窓を開けて、この部屋に新鮮な空気を取り入れた方がいいよ。
- 換気するつもりだったんだ。で窓を開けたら、この虫が入り込んできた。殺してくれたらよかったのに...また入ってきたらどうすんだよ。
蓮は怯えながらアレックスに抗議した。
- 入ってきたのはただのセミだよ、ゴキブリじゃない。この部屋の状態からしてゴキブリじゃなかったのが驚きだよ、まったく。
部屋にはくしゃくしゃになったお菓子の包み紙や空き瓶、ソーダの缶など、害虫を呼び寄せるものがたくさんあったが、蓮の反応を見るに、どうやら虫が入ってくるようなことは頻繁に起きていないようである。
- 僕は命は尊重すべきと思ってるよ、アレックス... 。例外はあるけどね、昆虫は命として不完全なんだ。- 蓮の表情や身振り手振りで、その嫌悪感は明らかだった。
- 昆虫は犬や猫みたいな足がないじゃん..。足がカクカクしてるし、体からいろんな尖ったものが出っ張っていて、羽音はブンブンうるさいし、つぶすと、べとべとするし…。近寄るのも嫌...」
- 独り言は終わったか?-
アレックスは蓮の腕をつかんで話をつづけた。二人はよく喧嘩をしていたが、いつもそうなると蓮が負けていた。
- お前髪はぼさぼさだし、目の下のクマはひどいし、相変わらず服装はセンスないし..。せめてシャワーは浴びろよな!?
蓮は、制服のブレザーの下に赤いパーカーを着ていた。自分にとって快適な服と服の着こなし方のどちらを選ぶか迷った時に、今の服の着方が実用的だという結論に至った結果だった。
- 相変わらず、お前はかっこつけてるんだな!
携帯電話で時間を確認ながら蓮は反論した。
- あと黙れよ!ちゃんとシャワー浴びてるし!早く部屋から出てけ!
自らを夜行性と称する蓮は、早寝早起きとはいえ、必ずしも十分寝ているわけではなかったが、シャワーを浴びて学校に行くまでの時間は確実にあった。
- 俺たち10分以上前に学校に行けたってのに、お前のせいで遅れる...
- アレックス、何言ってんだよ、学校はすぐそこだろ!
蓮達が通う東京高等学園は、もともと日本政府がエリート学生養成のために設立した高校であったが、2年前に起こった東京大災害の後、アレックスのような外国人を含む高校生を受け入れるために、門戸を日本全国に拡大させていた。
- その女の子の着信を取るべきだったんだ!そんなチャンスもう2度とこないぜ...。- 蓮が逃したチャンスを聞いて、アレックスが言った。
- こんなひどい顔で女の子とビデオチャットできると思うか?
- お前、小奇麗にしたら女の子と会話できると思ってんのか。ははっ。 冗談だ...。でも、電話取るくらいは自信つけなきゃ。
"生まれ変わらないと自信なんて持てそうにないや。”
蓮の髪はかたく縮れていて、整えるのが大変だった。髪型のことは蓮にとって外見に関する悩みの種であった。
左目と右目の色が全く違うという特徴以外では、細身で平均的な身長の蓮は、それほど注目される所はなかった。彼は生まれつきの眼球異色症ではなかったが、もともと濃い茶色だった左目が、特に理由もなく、顔に月の形のタトゥーを入れた日に、白くなってしまったのだ。
- 話は変わるが...。神城蓮、俺と一緒に学校にいかないか?- アレックスはからかうような口調で、控えめな笑みを浮かべながら尋ねた。
- せっかく良い環境で勉強できるのに、寮に閉じこもって無駄にしてしまうのは、よくないと思うんだ。
学校の近くの敷地には、蓮と友人のアレックスを含む1000人以上の学生が住む寮のほか、フードコート、サッカー場、オリンピックサイズのプール、マルチスポーツコート、科学研究所、コンピューター、調理室、映画館、ゲームセンター、コンビニエンスストア、野菜畑、動物園があった。実質的には小規模な自給自足都市で、仕事の大半は入居している学生たちが行っていた。
- でも...、でもな、もしお前がいなかったらさ、俺はここには生きて存在していないんだ。俺はお前が本気になれば、もう少し頑張れるって知ってるんだよ。- アレックスの挑発的な口調は、蓮を励ますためのものだったが、蓮が授業に出ないことには、それなりの理由があった。
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