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Act31:謝罪と依頼と予防線

なんかどっかのメダルで戦うマスクドバイク乗りみたいなサブタイトルになった…。

「……………」


 静也は困っていた。

 眉間にしわを寄せ、目は細くなり、口は苦虫を噛んだように引き結ばれている。

 というのも。


「お…おぉぉぉん!!済まねえ!本当に済まねえなぁ静也坊ぉぉぉ!!」


 天を仰ぐ静也の右手にドワーフの技師、グラール・ゼンガーが縋り付いて号泣していた。

 その後ろでレインが居心地悪そうに苦笑し、ケル坊が座り込んで首を傾げている。

 グラールは、自ら製作した爆裂籠手エクスプロードナックルが、静也の右腕を壊してしまった事にひどく責任を感じているらしいのだ。


「あー…グラールさんにはなんの落ち度もありませんから、もう泣かないでください」


「いいや!儂の腕が悪いばっかりに、静也坊の右手を壊しちまった!悪いのは儂だ!」


 頑として自らの非だと言って聞かないグラール。にべもない。


「……………」


 静也は後ろのレインを見た。

 レインは目を逸らした。


「(このダメ教師、丸投げしやがったな)」


「(とか思ってるんだろうなぁ…)」


 二人の思考が一致した瞬間である。

 閑話休題。


「………分かりました。じゃあ責任・ ・を取ってもらいましょうか」


「静也坊…」


 静也の言葉にグラールは顔を上げた。


「ちょっ…静也…」


「いいんだ嬢ちゃん。儂なりのケジメを付けさせてくれ」


 流石にそれはどうかとレインが止めようとしたが、グラールは手を上げてそれを制する。

 静也に目を向けると、肩をすくめて首を振っていた。

 目を閉じ、皮肉げに口端を釣り上げてグラールに何を言ってもムダだと示している。


「で、儂は何をすればいい?」


「ん、ケル坊、アレ持ってきてくれ」


『ワンッ』


 静也の言葉にケル坊はトテトテと部屋を出て行った。

 五分ほど待つと、大きなキャリーバッグを2つ重ねて器用に転がしながら戻ってきた。


「……何でぃ、こりゃぁ?」


「戦利品です。一部ですけど」


 訝しむグラールを尻目にバッグの鍵を外しながら静也は答える。

 がちゃりとバッグを開くと、分厚い数冊のファイル、そして色とりどりのインゴットが出てきた。


「……コイツは」


 ファイルの下から顔を出したインゴットに、グラールの眼の色が変わった。


「ナナセに鑑定してもらいました。ミスリル、黒隕鉄ブラックメテオ、アダマンタイト、双贋銀レプリタイト、オリハルコン、ヒヒイロカネ、超硬金ハードゴールド、その他もろもろ」


 静也はキャリーバッグの中にある希少金属レアメタルの数々を並べながら言葉を続ける。

 そして最後に本題を口にした。


「グラールさんには、この素材を使って、俺の爆裂籠手エクスプロードナックルを新しく作りなおして貰いたいんです」


「………静也坊…お前ぇさん…」


「勿論タダでとは言いません。今回迷宮からかっぱらってきた宝石類なんかを依頼料代わりにお渡しします。他にも作ってもらいたいものはありますから」


 グラールに二の句を継ぐ隙を与えず静也は一気にまくし立てる。

 今度は無償ボランティアではなく正式な仕事ビジネスとしてもう一度チャンスをあげます。

 静也の言いたいことを要約するとこういうことだ。

 上から目線の暴言とも取られかねない提案だが、静也はこれでいいと思っていた。

 責任を取らせろと言ったのはグラール自身であり、作った装備を更に向上させる試みは理に適っている。

 そして静也は世話になったグラールとは、正当な依頼と報酬によるWin-Winの関係を築きたいと以前から思っていた。

 これを機にその思惑をねじ込もうという企みである。


「作って欲しいものはそのファイルを読んでもらえればわかると思います。まあ中身は爆裂籠手の機構の元ネタと『剣』ですけど。じゃ、行くぞケル坊」


『ワンッ!』


「お、おい!静也坊!?」


 グラールの制止の声も聞かず、静也とケル坊は研究室を出て行った。

 その背中を見てレインはひとつため息をつく。

 そして呆れ顔で一言呟いた。


「………ひねくれ者め」





「悪いなナナセ。分け前多めに貰って」


「かまへんよ。実際あんたが今回のMVPなんやし」


 学生寮の食堂にて。

 ジークフリー(ドラゴンカルビ)丼を掻っ込む静也の言葉に、お好み焼きを切り分けているマーメイド、ナナセ・ブリッツは大した事無いと答えた。

 ケル坊を連れ出した迷宮。

 そこで見つけた財宝をナナセが鑑定した所、並の鍛冶師なら手が出ない程の貴重な金属が多々あった。

 それを聞いた静也は皆に自分の分け前を多めに貰えないか交渉、皆が快諾したのでそれをグラールに渡したという訳である。


「……にしても、みんなして俺の事過大評価してないか?ケル坊を仕留める決め手になったのは結局お前らだろ」


「あんたがあの時にきっかり時間稼ぎしてくれへんかったら、あたしらは今この場に生きてへんわ」


 「せやからMVPはあんたや」とナナセは箸を静也に指し示す。


「箸を向けんな。………そういうもんかね?」


「そういうもんやね」


 それを自分の箸で弾きながら静也がごちると、ナナセはお好み焼きを口に運んで頷いた。


「あー!もう食べてます!」


 そんな会話の最中さなか、黙々と料理を攻略する二人を咎める声。

 アリアを先頭にしたパーティ攻略メンバーの面々だ。


「ん、ごめん。腹ぁ減ってた」


「同じく。ごめんな」


 米と粉物を口に運んで二人は手を挙げる。


「もー、こらえ性ないどすなぁ」


 そう言ってタマキは静也の右側に腰掛けた。

 反対側にはアリアが座る。


「むっ…」


「むむ…」


 バチッ、と火花が散った。


「…………」


 間に座る静也は頬杖をついて面倒臭げな表情。


「ヒューヒュー。両手に花やねー」


「ウゼェぞ魚類」


 両手で指さしながら茶化すナナセを静也は不機嫌そうに睨みつけた。

 迷宮攻略後、静也に対するタマキの態度が若干変化した。

 視線に熱が入り、静也に弁当を用意したり、以前より彼と深く関わろうとするようになったのである。

 無論、そんなタマキにアリアが対抗心を燃やさない筈もなく、こうして度々小競り合いをするようになった。


「おい、タマキちゃんよ」


「はい?」


「俺、言ったよな?オーク(ブタ)から助けられてトキメイたならただの吊り橋効果だって」


「はい、それで?」


 小首を傾げるタマキ。


「………ああ、うん。やっぱいい、忘れてプリーズ(………恋は盲目、ね。めんどくせっ。あいつかよ)」


『シズ兄様っ』『おいチビユキ誰が兄様だ。俺はそんなキャラじゃねーって』


 ――――最近は、よく昔のことと重なるな。


 道場でよく自分の後ろをついて回っていた妹弟子を思い出しながら、そんな事を内心呟いた。






「………けっぷ、あー食った食った。ごちそうさまでした」


 ぱしん、と柏手を打って静也は頭を下げる。

 そんな静也の両側から湯呑みが差し出された。


「静也様(はん)、どうぞ。………む」


「あーはいはいはい。どーもねー……あっち」


 両側二人アリアとタマキが再び火花を散らす前に静也はそれを受け取って二つを順に飲み干す。

 一気飲みをしたので少し舌を火傷した。


「……はは、羨ましい災難だね」


「茹でられたいかモヤシ。いや、パラっとバターで炒めるぞ」


「……あの、モヤシって単語だけで調理しようとするのやめてもらえる?地味に傷付くんだけど?確かにモヤシ炒め美味しいけどね?」


 笑いながらギルベルトが皮肉ると静也がそう返し、更にギルベルトがツッコミ返した。

 ムダにキレのあるコンビネーションを発揮する二人である。


「じゃ、ボクは部屋に戻るよ。お先に」


「あ、待てギル坊」


 席を立とうとするギルベルトを静也は思い出したように引き止めた。


「うん?なに?」


「忘れるトコだった。お前に渡すもんあったんだわ」


 そう言って静也は着ていた黒のジャージのポケットから何かを取り出す。

 持っていたのは長方形で薄い厚みの紙箱だった。


「………何これ?」


 ハートマークの中央に円と斜線がプリントされたそれを見て、受け取ったギルベルトは首をかしげて問う。


「何って、――――――避妊具コンドームに決まってんだろ」


「ブゥゥゥ――――――ッ!?」


 その言葉に、翻訳魔法で意味を正確に理解した五人は吹き出した。


「あんた、なんてモン渡しとんねん!?」


「あ?この先必要だろ?」


 ナナセの怒声を受けた静也は冷ややかにサクラを見る。


「…にゃぁ…」


 目を向けられたサクラは顔を真っ赤にして俯いていた。


「い、いいいい要らないよこんなもの!」


「このアホ」


「痛い!?」


 受け取った避妊具を突き返そうとしたギルベルトに、静也は一発ビンタを叩き込む。

 かなり鈍い音がした。


「文献を読んでみたら、確率は低いが、異種族間でも子供は出来るだろ。男と女なんだから致すのは仕方無い。けど、ちゃんと責任が持てるようになるまで予防線は張っとけ」


「………」


 静也の言葉にギルベルトは赤い顔で呆然としている。

 どうやら言葉だけでも刺激が強すぎた様だ。


「あらら、坊やにゃまだ早かったか。んじゃ俺はこれで。使い方は裏に書いてあるって言っといてくれ」


「って、待たんかい」


 やれやれと頭を振って静也は席を立とうとするも、ナナセがそれを呼び止めた。


「なんぞ?」


「そもそも、なんでこんなモン持っとんの?」


 じとりとした目を向けられる。アリア達からも同様だ。


地球あっちで買ってた予防線だ、予防線。ま、モテなかったから使う機会も無かったけどなー」


 ユルい表情でそう答え、気だるけに静也は食堂を出て行った。

※静也は基本モテません。どちらかと言うと口説くタイプです。

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