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Act30:白雲流剣術

 顎を逸らした静也の目の前を、銀の線が通り過ぎる。


「ッ…つぁ!」


「甘い!」


「ブッ!」


「!」


 ロッドの一閃を仰け反って交わしながら前蹴りを放つが、レインはそれを受け流して静也の顔面にロッドを叩き付けた。

 べちんっ!と痛々しい音が響き、ケル坊が両手で目を覆う。


「は、鼻が…!」


「うーん…」


 顔を抑えてマットの上をのたうち回る静也に対し、レインは腕を組んで一言。


「やはり二週間も訓練していないと、鈍るな」


「この鬼ッ…!」


 その言葉に静也はレインを睨みつける。

 赤くなった鼻を撫でながら立ち上がり、再び構えを取った。

 不意打ち気味に一気に距離を詰める。


「りゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃぁっ!!」


「ッ…これはなかなか…!」


 右手に持ったロッドを左手で添え、レインに向けて突きの連打ラッシュを放った。

 レインは少し驚きつつも自らのロッドで突きをいなし、後ろに下がって躱す。


「ッ、く…!」


「隙あり」


 ロッドを伸ばしきり、引き戻す瞬間を狙ってレインの突きが放たれた。


「がぁ!?」


 水月にロッドの先端が吸い込まれ、静也は腹を抑えて膝をつく。


「ッぐ…ラァァァッ!!!」


「おっ…!」


 悶えたのは数秒、腹を抱えていた静也はそのまま四つん這いで跳躍し、レインに飛びかかった。

 直線的故に読みやすい攻撃だが、躱しながらレインは驚いた表情を見せる。


「かなり綺麗にきまったんだが…凄いスタミナだな」


「っせーな!チョロチョロ逃げんなっ!」


 着地した静也はそう叫びながら、前傾姿勢での突進を続けた。

 時折ロッドを振り回し、逃げ場を限定させることでレインの行動を読み取って蹴りを放つ。


「っとと…!はは、これだけ動いて全くスピードが落ちないとは、本当に凄いスタミナだ。正に体力オバケ(・ ・ ・ ・ ・)だな」


「ッ!?」


 そんな中、レインが口にした言葉に、静也は思わず足を止めた。


「…?どうした?」


 急に攻撃を止めた静也に、レインは怪訝な目を向ける。


「………………」


 目を見開き、静也はレインを見る。


 ――――相変わらずの体力オバケね。


 最近見た過去の夢。

 その中の彼女の言葉が否が応でも静也の心を打つ。


「…………………気が変わった」


「なに?」


 暫く沈黙していた静也はそう呟いた。


「ケジメが付くまで使わないつもりだったけど…」


 ひとりごとを呟きながら静也はミスリルロッドを両手で持ち、真ん中から二つに分解した。

 カキュリ、と結合部を外して小指側が長くなるように、剣を逆手に持つように構える。


「…静也?何を…」


 そう訊きかけたレインは僅かに目を細めた。

 やや左半身を取り、ロッドを握った手をだらりとぶら下げ、身体をゆらゆらと揺らす。

 たったそれだけの事なのに、どこか違う。

 先程までと纏っていた空気がまるで変わっていることに、レインは警戒を強めた。


「……ふっ」


「!?」


 ゆらりと揺れていた身体がしなる(・ ・ ・)

 静也の左手のロッドが下段から切り上げられ、レインのロッドを持つ手が僅かにブレた。

 僅かに崩されたバランスを更に崩すように静也の右のロッドが真横から振るわれる。

 レインは咄嗟にそれを受け止めた。

 次は蹴り、後ろに飛んでやり過ごす。


「…ッ!?」


 次の瞬間にはミスリルロッドの片割れが飛んできた。

 投げた左手のロッドに追い縋る様に静也が走る。

 レインは飛んできたロッドを上にかち上げた。

 静也はいつの間にか順手に持っていた右手のロッドを振り下ろすが、レインはそれを受け流す。

 それを読んでいた静也は振り下ろした勢いを利用して回し蹴り。

 レインはそれにロッドを打ち合わせる。

 ロッドとぶつかった瞬間、静也の脚が蛇のようにレインの手ごとロッドに絡まった。


「ッ!?」


 動きを止められたレインは息を呑む。

 レインが打ち上げたロッドが回転しながら落ちてきた。

 蹴りを打った態勢のまま静也はそれを受け止める。


「………静也?」


「…………ダーメだ。完っ全になまってら」


 レインのロッドから足を離し、そのまま尻もちを付いて悔しそうに呟いた。





「……静也、今のは一体なんだ?」


 狼形態のケル坊を撫でている静也にレインが疑問をぶつける。


「今のって何が?」


「分かってて聞いてるだろう。最後に見せた動きだ」


 呆れたように目を細めるレインに、静也はケル坊を撫で続けながら答えた。


「俺が昔習ってた古流剣術。白雲流しらくもりゅうってんだ」


「……剣術?」


 静也の言葉にレインは首を傾げる。

 言わんとする事は静也にも分かっていた。

 剣術において逆手持ちは邪道であり、更に言えば蹴りを放つ剣術とは如何なものかと思っているのだろう。


「白雲流はちと特殊でね。本質は『型なき剣』なんだわ」


「……型が無いのに、剣術として成り立つのか?」


「勿論基本になる型自体はあるよ?でもそこから派生するのは使い手次第っていう変わった流派なんだよ」


 「蹴りまで使う使い手は俺くらいだけど」と静也はそう締めくくる。


「それはまあ、いいんだが。……何故今まで使わなかったんだ?」


「使う気なかったから」


 レインが再び問うと、静也は即座に答えた。

 その背中は、それ以上語る気がないと言っている。


「…………」


 その背中がやけに小さく見えたレインは、少し悲しげな笑みを浮かべていた。

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