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Act26:迷宮突破

漸く学園に戻ります。

長かった…。

「………う…ぐぅ…」


 タマキに張り倒された静也は立ち上がろうと身を起こすが、再び地面に膝をつき、うつ伏せで倒れた。


「静也様!?」


「…………全身めっちゃ痛い…泣きそう」


 目を細めて顔だけをアリアに向けてそう口にする。


「タマキー。タマキさーん。タマキ様ー。ヘルプミー」


「………………ふんっ」


 療魔法を掛けてもらおうと静也がタマキに目を向けると、ツンとそっぽを向かれてしまった。

 無理もない話だ。マントを剥ぎ取られた事で結果的に辱められているのだから。


「ごめんなさい。マジで謝るから許して」


「そんなん知らへんもん」


 だからもんじゃねーよ。

 再び心の中でツッコミを入れる。


「つーか48で『もん』とか歳を考えかぼら!!」


 静也の臀部に三叉矛の柄尻が突きこまれた。

 見上げれば、ナナセが三叉矛を持ち直しながら影のある笑いを浮かべている。


「……あたし、さっきなんて言ったかいな?」


「うん、歳がどうこう言うなって言ってたね。ごめんなさい。そしてお前らの中で俺がヒエラルキーで最下層に落ちたのはよく分かった。だから矛先向けんの勘弁してェェェ!?」


 チクチクと尻を突かれて静也は悲鳴を上げた。





「癒しの力よ、我が意に応え、痛みを消し給う。『痛失ペインキラー』」


「…………おお、痛みが消えた。ありがと」


 土下座をしたくても出来ないので土下寝でタマキに必死で謝り頼み込み、静也は漸く療魔法を掛けてもらった。


「鎮痛効果の魔法を掛けただけどすから、下手に動かしたらあきまへんよ。せやないと腕がもげます」


「……はい」


 腕を動かそうとした静也に、籠手の上から包帯を巻き付けながらタマキがピシャリと言い放つ。

 恐らく本当のことだと静也は背筋が寒くなった。

 理由は単純、タマキが籠手を外させなかった事。

 腕の感覚が無くなっている静也は分からないが、触れて確認したタマキには、籠手の内側の腕が目も当てられない事になっていると分かっていた。

 なのでタマキは腕の処置は鎮痛のみ、下手に弄ると奇形化するので設備の整った場所でなければ治療は無理だという判断を下した。


「因みにこの状態で療魔法掛けたらどうなる?」


「骨は飛び出したまんま、血管もめちゃくちゃ、指は二度と曲がりまへん」


「うん、今すぐにでも帰りたくなった」


 動かせない腕をぶら下げたまま静也は青い顔をする。

 そして今し方撃破したケルベロスに目を向けると、頭の前でギルベルトがしゃがみこんでいた。


「………何やってんのお前?」


「うん、ちょっと気になることがあってね」


 そう言ってギルベルトはケルベロスの角が生えていた辺りの毛を掻き分ける。

 真っ黒な獣毛の奥の地肌に、青い宝石のような物体があった。


「何だこりゃ?」


「見てて」


 訝しむ静也の視線を背に受けながら、ギルベルトはその石をつまみ上げる。

 すると石からは白い糸のようなモノがケルベロスの頭部に伸びており、引き抜くと一瞬ケルベロスの身体がびくんと跳ねた。

 ちゅるん、と糸のようなモノが抜け切ると、ギルベルトはそれの裏側を静也に見せる。


「うわっ、何それキモッ!?」


 石の裏側には、ダンゴムシの様な大量の節足がうぞうぞと蠢いていた。


「寄生型モンスター、『パラセクトビートル』だよ。生物に寄生して操り、寄生した生物の魔力を吸い上げて角を作り出す特性があるんだ」


 ギルベルトが蟲を地面に落とすと、カサカサと蟲は逃げ出そうとしたが、ギルベルトはあっさりと踏み潰す。

 ベチャッと青い体液が広がった。


「そしてあのケルベロスも、モンスターじゃない。ましてや獣でもない」


 そう言ってギルベルトは視線をケルベロスに戻す。

 暫く二人が見ているととケルベロスは徐々にその巨体を小さくしていき、


「………亜種デミだったってわけか」


 静也の言葉通り、ケルベロスが横たわっていた場所には、黒髪に犬耳と尻尾を生やした10歳程度の少年が裸で倒れていた。


「ってガキかよ!?タマキ、治療!」


「は、はい!」


 人型に戻る過程でサクラの放った鉄杭が引きぬかれ、結構な出血が見受けられる。

 タマキは慌てて少年に駆け寄り、療魔法を掛けていった。






 取り敢えず少年の治療を終え、サクラが自分のマントを掛けて少年を背負うことになった。

 忍のサクラは線は細いが、実はパーティの中で静也に次いでの体力があったりする。

 因みに最下位はギルベルト。とことんモヤシっ子であった。


「さて、この先は何がある?」


 誰に言うでもなく静也が呟く。

 ケルベロスと死闘を演じた部屋の奥には、もう一つ扉があった。

 これが出口か、はたまた別の敵が居る地獄の釜か。

 先程と同じく、静也は扉を蹴破った。


「……………わーお」


「なんと…」


「にゃぁ…」


「おぉ…」


「すごい…」


 静也、タマキ、サクラ、ギルベルト、アリアが同時に感嘆の声を上げる。


「お…お宝やぁぁぁ!!!」


 そしてナナセが両手を上げて叫んだ。

 目の前には金銀財宝が山を作っている。

 拳大のルビーやサファイアががゴロゴロ。金貨や銀貨がジャラジャラ。黒や白の金属のインゴットがゴテゴテ。

 それらを見たナナセの目が今までにないくらい輝いている。


「(…………アリアさんアリアさん)」


「(はい?)」


 そんなナナセを見た静也はひそひそとアリアに声を掛けた。


「(なんかナナセがめっちゃはしゃいでるけど…なんで?)」


「(えっと…ナナセちゃん、家柄の都合でお金に目がないんです)」


「(ふーん)」


 血筋か、と静也は鼻を鳴らした。

 ナナセが目を輝かせたまま振り返る。


「どうする?どうするんや静也?」


 「持って帰るよな?」と目が語っていた。

 一特科の皆の姉御的な立場にあるナナセが子供のようにはしゃぐのに苦笑しつつ、静也は答える。


「折角だ、全部かっぱらっちまおうぜ」


「よっしゃぁ!」


 ひゃっほー!とナナセがお宝の山に突撃した。






「………宝の山を抜けると、そこはまた別の扉だった」


「何ですかそれ?」


「や、リラオード(地球)の小説の冒頭をパクっただけ」


 アリアの問いに静也は何気なく答える。

 財宝をバックパックに無理矢理詰め込んだ一行は歩を進め、扉の前に立っていた。

 意匠は皆が最初に出てきた迷宮の入り口とよく似ている。

 扉の隙間からは、青い光が漏れていた。


「………うん、多分出口だな。つーか光漏れてるし」


 動かせない両腕をぶらぶらさせて静也は呟く。


「……よし、こんな辛気臭い所はさっさとおさらばだ」


 静也の言葉に皆一様に頷いた。

 静也としても腕の鎮痛効果は丸一日持つとタマキは言っていたが、それでも血みどろなのは嫌なのでさっさと帰りたいという思いもある。

 ギルベルトが扉を開け、一行は光の中へ飛び込んだ。






 ウィジス学園、ターミナル。

 既に静也のパーティ以外は初心者向けの迷宮の踏破を終え、全員無事に帰還している。

 扉の前にレインが立ち、生徒や他の教師たちもその後ろで不安気な表情を浮かべていた。


「生きて…帰ってきてくれ…!」


 レインは眼鏡の奥の目を固く閉じ、手に血がにじむほど拳を握りこむ。

 その時だった。


「…!」


 目を見張るレインの前で、扉の隙間から青い光が漏れ出す。

 閉じた時と同じ勢いで扉が開くと中から六人の人影が歩いてきた。


「……よーす。一特科+三科の混成パーティ、ただ今帰還しましたー」


「………はへ?」


 そして現れた少年のユルユルっぷりにレインは呆けた顔になり、緊張していた残りの全員は一斉にコケる。


「ん?……うわっ、もう全員戻ってるよ。おーい、俺らドンケツらしいよ?」


「言われんでも分かっとるわ」


「はぶほ!」


 あまりの緊張感の無さに、ナナセが静也の後頭部を叩いた。

 後ろから残りの皆が続々と出て来る。


「……全員、無事帰還したのか」


「はい」


 レインの言葉に静也は頷いた。

 レインはホッと息をついて視線を下げると、ぎょっとした目をする。


「し、静也…!」


「?…ああ、この腕ですか。一応タマキに痛み止めしてもらってますんで、大丈夫っちゃ大丈夫です」


 血みどろの両腕を見たレインに静也はなんてこと無い様にそう答えた。


「ま、取り敢えず生きてた…んで…よし…と…」


 一歩足を踏み出そうとしてそのまま身体が前に傾く。


「静也っ…うわ!?」


「静也様!?」


 慌てて傾いた静也を受け止めるレインだが、武装した重さに耐え切れずに一緒に倒れる。

 態勢の関係からレインの豊かな胸に頭が埋まる形になった。


「ちょ…こら、時と場合を…静也?」


 偶然とは言え胸枕を作ってしまったレインは静也を押しのけようとしたがその手を止める。


「……くー…すかー…」


「………寝てる」


 漸く緊張の糸が切れたのか、レインの胸に頭を埋めた静也は寝息を立てて爆睡していた。


「…………ま、いいか」


 諦めたようにため息をつくレイン。


「頑張ったな」


「くかー…」


 出会った当初から少し伸びた黒髪を撫でて、レインは静かに呟いた。

ケルベロスは実は亜人でした。

多分気付いてた人も居るんじゃないかと思います。

ご意見ご感想お待ちしております。

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