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Act24:『獣』

イタい厨二描写が来ますよー。

注意してください。

『アオオォォォォ――――――――ン!!!!』


「チッ…!」


 錐状の一本角が真っ直ぐに心臓を狙う。

 中型トラックに匹敵する巨大な狼の突進を、静也は横っ跳びでやり過ごした。


「……クソ犬が。物理的にハートをブチ抜かれても全くトキメかねーよ」


 「むしろ物理的に停止するわ」と軽口を叩く。心臓ハートの方は命の危機的な意味でバクバクと早鐘を打っていたが。


『グルルルル…』


 狼…ケルベロスの三(つい)六つの瞳は敵意を滲ませながら静也を睨みつける。

 闘牛の様に前足を掻き、歯をむき出して唸る様は静也の恐怖心を掻き立てた。


「(クッソ…怖えなぁチクショウ。あいつらにあんだけ啖呵切っといて俺がビビっちまってる…。けど、適材適所だ。あいつらが壁になって俺が算段付けるより――)」


 ――自分が囮になって皆が戦略を練ってくれた方がいい。

 無論、静也とて決死隊など御免被りたいのだが、静也は魔法が使えない。

 確かに知識としてある程度把握出来てはいるものの、実際に使える者と知識だけの者の理解度は雲泥の差が存在する。

 魔法に対する理解がより深いアリア達に攻略法を任せた方が合理的なのだ。


「だから…3分は確実に持たせる…!」


 カッと目を見開き、歯を剥き出す静也はケルベロスへと突貫した。






「……静也様…」


 巨大な足音が耐えず響く中、アリアは両手を合わせて祈るように呟く。

 しかしケルベロスはその声に反応する気配が無い。

 というのも、五人は『隠れていた』。

 今五人が居るのは、サクラが作り出した大地属性魔法『土遁隠遁壁どとんいんとんへき』の内側だ。

 『土遁鉄壁』の様に石壁が周囲を覆う魔法なのだが、特徴として周囲の景色と同化するという特徴のある魔法である。

 所謂隠れ身の術だが、それが尚更(サクラ)らしい魔法だった。


「ウィジス、今は祈っている場合じゃない。赤月くんが時間稼ぎしてくれている理由を忘れるな。……ボク達を煽り立てた理由もだ」


「…ビルブレストくん…」


 頭を垂れるアリアに、ギルベルトが然りと言い放つ。


 静也に散々こき下ろされた中で、ギルベルトはいち早く冷静さを取り戻していた。

 『3分でケルベロスを仕留める用意をしろ』

 静也がそう言い放った所ではたと気付いた。

 あの男は自分たちの恐怖心を怒りで塗り潰したのだと。

 そして少し頭を冷やして考えろと。


 そこからのギルベルトの行動は早かった。

 ケルベロスが静也に気を取られている間、真っ先にサクラへ指示を飛ばし、『土遁隠遁壁』で五人を隠し、僅かな隙間から静也とケルベロスの姿を観察する事にしたのである。

 三科のトップエース、ギルベルト・ベン・ビルブレスト。

 冷静になれば、同年代でその才覚に追随を許さない。


「……で、静也が時間稼ぎしとる間に、どないするんや?」


「…一応、手がないわけじゃない」


 ナナセの言葉にギルベルトは自信無さげに答える。


「なんや?手があるんやったらさっさと…」


「確実じゃないんだよ。赤月くんの持ってる科学知識から考えた手段だけど、一手足りないんだ。それに…うわっ!?」


 続きを口にしようとしたギルベルトの声を遮るように轟音が響き、皆は咄嗟に頭を抱えた。

 ギルベルトは隙間から戦闘の様子を覗き込む。


「………なっ…!」


 その光景に、彼は息を呑んだ。





「…くぁ…!」


『アオオォォォォ――――ン!!!』


 静也は向かってくる大質量に真っ向から突っ込む。

 一本角を左手の籠手で受け流しながら、スライディングで股の間をすり抜けた。

 そのまま身を起こした静也はケルベロスの尻尾を引っ掴み、背中に飛び乗る。


『ガルルルルッ!!!』


「にゃろっ…!暴れんなッ!!」


 自らの背に乗った不埒者を振り落とそうとケルベロスが飛び跳ねると、静也は必死でその背中にしがみつき、右籠手の撃鉄を上げた。


「こんのバカ犬ッ…おすわりィッ!!!」


『ギャッ!』


 そう叫んだ静也は右拳を叩きつける。

 轟音。

 衝撃と共に静也の身体がケルベロスの背から飛び上がり、巨狼きょろうの身体は地に伏した。


「ギッ…!」


 静也の右手の痺れが痛みに変わる。

 悲鳴をあげそうになるのをぐっと堪えながら着地すると、再びケルベロスへと肉薄した。


『ガルルルルッ!!!アオオォォォォ―――――――――――ン!!!!』


 背中から地面へ赤い血を滴らせたケルベロスは一つ吠える。


「………なんッ…!?」


 直後、静也の目は驚愕に見張られた。

 ケルベロスはその口から1つずつ、合計三つの『魔法陣』を出現させたのだ。

 向かって右から紫、青、緑の光が輝く。


「ぐ…!」


 次の一撃は避けられないと直感した静也は、左手で頭部を、右手で心臓付近を覆うように防御態勢を取った。

 それは(・ ・ ・)失策だった(・ ・ ・ ・ ・)

 魔法陣はその光を色濃くする。


『グルオオオオオオオォォォォォォォォォ――――――――ン!!!!!』


 ケルベロスが一際大きく咆哮を上げた瞬間、凄まじい極光が静也を襲った。


「ぐがッ!?ぐくく…!」


 紫電、突風、氷雪。

 轟音とともに稲妻が静也を直撃する。電撃で右籠手の残弾が纏めて暴発した。

 突風で態勢を崩され、右こめかみに拳大の雹がぶつかり、額が切れた。


「ぐ…ああああああああああああああああああああああああああああああァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッッッッ!!!!!!!!!!」


 更に雹が肩や腹、身体の至る所にぶつかる。

 その間も電撃は静也を貫き、突風は勢いを増して静也の身体を斬り裂き、吹き飛ばした。


「カ…ァ…!?」


『グルルルル…』


 どちゃり、と糸の切れた人形の様に静也は倒れ伏す。

 全身から血を流し、煙を立ち上らせながらびくびくと痙攣する様は、滑稽なほど無様。

 所詮は凡夫。

 所詮は凡才。

 何にも至れぬ中途半端。

 知があっても相応の力が無ければ宝の持ち腐れ。

 静也が時間稼ぎを始めて一分。

 魔法という絶対的な差は、唯の少年に取って絶望しか産まなかった。





「――――ッ!」


 目の前の悲惨な光景にアリアは口に両手を当てて悲鳴を押し殺す。

 今すぐに静也へと叫びたい感情と、今声を上げるわけにはいかないという理性の狭間で身体が震えていた。

 サクラ、ナナセ、タマキも同様にそれぞれ複雑な感情を顔に浮かべていたが、ギルベルトはその中で思考を止めない。


「今のはまさか…合成魔法フュージョンか?あのケルベロス…血の色といい、高度魔法を行使したことと言い、どこか変だ…何だ?何かが引っかかる…」


「ギ…ルベルト…あんたぁ…!」


 その冷静さが冷血とも取れるギルベルトの態度に、ナナセは怒りを滲ませてギルベルトに掴みかかる。


「状況を分かっとんのか…!静也が…」


「解ってる。その上で、ボクはボクに出来る事をやってるんだ…!」


 言い合いながらも、状況は刻一刻と動いていた。


「お二人はん、喧嘩しとる場合とちゃいますやろ…!」


 覗き穴から様子を見ていたタマキが声を落として二人を諌める。

 外では、ケルベロスが静也に止めを刺さんとしていた。





『グルルルル…!』


「ぁ…ぐ…くぅ…!」


 静也は自らを見下ろす巨狼を睨みつける。

 ケルベロスは唸りながら自らを手古摺らせた獲物を見下ろす。

 静也が頭を守る様に左手を動かし、ピストルの形を作ると、自らのこめかみに突き立てた。

 ケルベロスが一本角を振り上げた。


「――――――す」


『ガァァァァッ!』


 静也は目を閉じてナニカを呟く。

 ケルベロスは一本角を振り下ろす。


 ざくり、と音がした。


『……?』


 ケルベロスは、手応えの違和感に目を細める。

 血塗れだった獲物の姿は消えていた。

 否、振り下ろした瞬間避けたのか、2m程後ろに立っていた。

 獲物はまだ動く余裕を持っていたようだ。


「フー…フー…」


 頭を垂れ、だらりと腕を下ろした様は今にも倒れそうなほどの死に体。

 しかし、その姿にケルベロスは違和感を覚えた。

 まるで眠っているかのようなその姿が、どこか不気味に映った。

 すぐに止めを刺そうと巨狼は少年に突進する。

 それに少年はゆっくりと右手を突き出した。


『――――グル?』


 次の瞬間、ケルベロスは目をぱちくりとさせ、思わず小さく鳴き声を上げる。

 頭を穿とうとした一本角を、静也は右手一本で掴み上げていた。

 伏せられていた静也の口元が開き、歯を剥き出す。

 そして、にたり(・ ・ ・)と、


「――――クケ」


 嗤った(・ ・ ・)


『………ッ!?ギャォン!?』


 直後、ケルベロスの右の顔に衝撃が走り、上後方に吹き飛ぶ。

 ぼきり、とケルベロスの額から嫌な音が響いた。


『ギャッ、ガガッ、ギャゥゥゥゥゥゥン!!!!』


 吹き飛んだケルベロスは天井と床を数回バウンドするという有り得ない体験をした後、額を襲った痛みに悲鳴を上げた。

 そして痛みの元凶を睨みつける。


「ケケッ、クケケケケケッ!!!」


 静也は嗤いながら左拳を上げていた。

 今の一撃は左アッパーを撃ち込んだもの。

 そして右手には、


「あぁ?何だ駄犬イヌぅ?随分カッコイーコトになってるじゃん?角はどこに行っちゃったのかなぁ?………あ、そっかぁ、俺が折っちゃったのかぁ」


 真ん中から圧し折れて青い血を滴らせた一本角の片割れがあった。

 静也の表情は普通では無い。

 いびつな嗤いを浮かべ、目は濁り淀み切り、普段の彼とは印象が変わり切っていた。

 何よりも、静也は戦いの最中で満面の(・ ・ ・)笑みを(・ ・ ・)浮かべない(・ ・ ・ ・ ・)

 それが尚更不気味だった。


『ガルルルルッ!!!』


 ケルベロスは吠える。

 自らの身体の一部をもぎ取った敵を。


「戯れんなよ、クソ駄犬イヌぅ。

――――――ちゃぁんと、遊んでやる」


 威嚇する巨狼に対し、少年はそう言葉を返した。

伏線伏線。

回収できるといいなぁ。

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