表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/44

Act23:三ツ首狼

うーむ…イマイチ。

でもGO。

『ワンッ!』


 体長120㎝程の黒狼は、静也達を見とめると一つ鳴き声を上げる。

 その反応自体は生後数ヶ月の子犬を思わせる仕草だが、静也の危機判断能力はその仕草に警鐘を鳴らしていた。


 動物の子供というのは、得てして無邪気で、残酷だ。


 この黒狼も仕草や鳴き声は若い犬と変わりない。ならば。


「みんなから見て、あいつをどう思う?」


 そう言って静也はちらりと背後に目を向ける。


「………ッ」


 メンバー全員の顔が、真っ青になっていた。

 ギルベルトはカチカチと歯を鳴らし、ナナセは自らの肩を抱いて震えている。

 タマキとサクラの耳は折りたたまれ、尻尾は丸まっていた。

 そしてアリアは、今にも気絶しそうなくらいに目の焦点が合っていない。

 それだけで、あの狼がただの狼でない事に察しがついた。


「や…ヤバい…あかん…ホンマにアレはあかん…!」


 ナナセが震えながらなんとか声を絞り出す。


「あ…あああの狼…周囲にとんでもない量の魔力をにじみ出させてる…上澄みだけでも、ボボ、ボクの数倍だ…!」


「体力スッカラカンになるまで練り上げた量のか?」


 「当たり前だ」とギルベルトはどもりながら答えた。

 その言葉に静也は改めて危険度を再認識する。


『ガルルルルッ!!』


「げ!?」


 そして前を振り返った瞬間、狼が大口を開けて静也に飛び掛かってきた。


「っとぉ!」


『ぎゃん!』


 一瞬の速さで肉薄した黒狼の鼻面へ咄嗟に左ストレートを叩き込む。

 カウンターを食らった狼はどたどたと転がるもすぐに立ち上がった。


『グルルルル…!』


 そして身体を深く伏せ、喉を唸らせ静也達を威嚇してくる。

 正直、運が良かった。

 あの狼が静也以外の者を襲っていたら。

 例えばギルベルトなら、一瞬で喉笛を食い千切られていた。

 タマキなら、躱せても腕一本は持って行かれていた。

 ナナセなら、対応しようと構え、三叉矛を持った手を噛み砕かれていた。

 サクラなら、辛うじて躱して逃げられるだろうが、直ぐ様追走されて足をやられていた。

 そしてアリアなら、詠唱する間もなく顔面を噛み削られていた。

 たまたま筋力に優れ、反射神経の悪くない静也だったからこそ、魔力を感知できず気後れしなかった静也だったからこそ、狼の突進に対応できたのだ。


「(ヤバい…ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい!!!あんなに意気込んでたみんながブルっちまってまともに動けるのは俺だけ!?あの狼一体なんだってんだ!?どうする!?どうやってあの狼を…)……!アリアさん!」


『ガウルッ!!』


 状況を打破するために思考の海に沈みかけた静也は、次の瞬間真横に跳んだ。

 同時に前に飛び出す黒狼。


「―――え?」


 そしてその先には、アリアが呆然と立っていた。


「ぐぎ…!」


 どちゅり、と肉をく音。

 びちゃ、とアリアの頬に赤いぬるさが張り付く。

 眼前には、青い錐状の一本角がアリアの喉元すれすれで止まっていた。


「…あ…し…静也様?」


 呆けた声でアリアは言葉を吐く。


「………大概にしろ、テメーら…!」


 言葉を受けた静也はアリアと狼の間に割って入り、左肩に狼の角が突き刺さった状態で狼の顎を抱え込んでいた。


『グ…!ガルルルルッ…!』


 狼は静也を押し込んでアリアを貫こうともがくが、静也の身体は微動だにしない。


「……ッラァ!」


『キャイン!?』


 そのまま狼を持ち上げ遠くへ投げ飛ばした。

 静也は普段よりもひどく冷めた目で、左肩の傷口に右手を当てて掌に血を塗りたくると、振り返って五人の前に立つ。


「………ッ」


「歯ぁ食いしばれ」


 そしてひとりひとりの左頬に右手を軽く叩き付けた。

 全員の左頬に赤い手形が付く。

 そして静かに落ち着いた声で話し始めた。


「この傷は、テメーら自身が蒔いた種だ。あんだけ大口叩いといて、たかがワン公一匹にビビったテメーらの責任だ」


 普段よりもかなり横暴な口調で静也が言葉を吐いた事に、皆は目を見開きつつも耳を傾ける。


『グルルルル…!』


 その静也の背後で唸り声が上がった。

 投げ飛ばされた狼が起き上がってゆっくりと歩み寄る。


「吠えんな畜生が」


『…!』


 しかし、静也の眼光にその歩を止めた。

 その目には警戒の色が浮かんでいる。

 近づく気配が無いと判断した静也は再び五人に目を向けた。


「言ったろ。俺ら全員が出来る事を出来なきゃ、死ぬってよ。もう少しで迷宮攻略出来るかも知れねーのに、ここで全滅すんのか?言っとくが、俺は勇者なんて偽善のカタマリみてーなモンになったつもりはねーから、俺一人になってでも逃げるし、ここで死んだら確実にテメーらを恨む。テメーら全員地獄に堕ちろって死に際に言い放つ。そんな後味悪い最期で良いってんならそこでガタガタ震えてイヌの餌になってろ腰抜け共」


 言いたい放題言い放った静也は狼の方へと振り返る。

 五人の身体は、震えていた。


「………好き勝手言ってくれよんな…」


「ボクが…腰抜け…?」


「ホンマに…ホンマにこの人は…!」


「赤月さんッ…!」


「静也様の…おたんこなすッ!」


 沸点などとうに振り切った怒りで。

 そんなもの知ったことではない静也はゴキゴキと首を鳴らして構えを取った。


「腰抜けに腰抜けって言って何が悪い。3分くれてやるから、さっさとあのイヌ仕留める算段付けやがれ。尤も…」


 相対する狼への視線を険しくする。


『グガルルルル……………アオオォォォォ――――――――ン!!!!!』


「俺が3分も止められるかが問題だけどな」


 狼は全身から黒い何かを吹き出し、その姿を徐々に変えていっていた。

 魔力感知能力を持たない静也にも視覚化出来る程の膨大な魔力が、狼の身体を別物へと作り変える。

 両肩に当たる部分から頭が生え、尾は二本増え、その体躯は5m程に肥大化する。


「………ギリシャ神話の地獄の番犬サマかよ。竪琴でも持って来いってか?」


『ガルルルルッ!!』


 静也は両手の握りを確認しつつ呟く。

 それに応えるように三つの頭が唸りを上げた。

 その姿に静也は、学園の図書館で読んだ書物を思い出す。

 その中に記されていた、300年前に魔王の配下として現れたモンスター、三ツ首狼(ケルベロス)を。

 そして静也の中で、この迷宮に誘ったのは魔王の配下の何者かだと確定した。

ええ、静也くん割と本気で怒ってます。

そりゃ突入して10秒で意気消沈してりゃ世話無いですもんね(笑)

ご意見ご感想お待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ