Act22:山犬の巣
繋ぎの話なので若干短いです。
次からが本番。
静也が通算3度目のもみじをこさえ、ギルベルト達の腹ごしらえを済ませた後、一行は再び歩を進める。
「……静也はん、ホンマに食べへんでええんどすか?」
「いらん。吐く」
冷静さを取り戻したタマキが問えば、結局食事を摂らず仕舞いの静也は若干ふてくされて言葉を返す。
静也の必死な解説(という名の弁解)によると、吊り橋効果は一時的な暗示に近いものなのですぐに冷める場合も多く、ひどい時にはただ単にお人好しなだけのダメ男に引っかかる場合もあるから気を付けろ、と言いたかったそうだ。
…………因みにそのダメ男とは静也自身も含んでいたりする。
なんやかんやで自分の心配をしてくれていた事にタマキは申し訳ない気分になり、現在に至る。
「というか、吐くってなんやねん。そんなに機嫌悪いんかい」
未だに嫌疑の目を向けるナナセに対し、静也は呆れを含んだ目を向ける。
「ちげーよ。あんだけブタ共をブッ殺したんだ。メシが喉を通らないだけ……うっぷ、思い出したら吐き気が…」
「お、お水です」
「ごめん、助かる」と若干顔を青くしている静也はアリアから水筒を受け取り、中身をあおる。
ごく普通の高校生が、都合三桁近いモンスターを殺めたのだ。気分が優れる筈もない。
脚から伝わる骨を砕く感触。剣から伝わる肉を引き裂く感触。腕から伝わる頚椎をへし折る感触。
そのどれもが、未だに静也の中で渦巻いている。
―――これで相手が人間なら、稀代の大量殺戮者。
―――否、人間でなくても、だ。
思考する静也の目は徐々に光を失っていき、昏い影が落ちていく。
「(………けど、この感触に早く慣れにゃならん。生き残るためにも。………それに)」
「……静也様?」
昏い思考の深海へ埋没する静也に、アリアが恐る恐る声を掛ける。
「………あ?」
「ッ!?」
その目に宿る『ナニカ』に、アリアは息を呑んだ。
アリアを見とめた目は瞬きをすると、元のユルい半眼に戻る。
「ああ、ごめん。ちょっと考え事してた。どうかした?」
そして、にへらと普段通りの表情で静也はアリアに笑いかけた。
その顔を見たアリアは「気のせいですよね」と内心呟いて静也に笑いかける。
「早く脱出できるように頑張りましょう」
「うん、同感。それじゃ行こうかね」
そう言った静也を戦闘に一行は再び歩を進めた。
「…………なんつーか、テンプレっつーか」
眉間にしわを寄せ、三白眼が普段の三割増しで細まっている静也。
その目の前には、物々しい雰囲気の巨大な鉄の扉が固く閉じられていた。
「この如何にも最終ステージですよって感じ、わかり易っ」
ゴキンと一度首を鳴らして一言感想を漏らす。
というのも、あれから幾度と無くオーク達の集団を殲滅しながら一本道を歩き、最終的に至ったのがこの扉。
迷宮というにはあまりにもお粗末な代物だと静也は率直にそう思った。
「トラップと言えそうなのは最初にバラけた扉と、常時敵集団との戦闘みたいな状況だけ…しょぼすぎる」
静也の言葉に皆「確かに」と頷く。
しかし、静也が再び首を鳴らして言葉を吐くと、その表情は固まった。
「………考えられるとすりゃ、この中のヤツが圧倒的に強いからバランス取れてんのかね?」
「ふ、不吉なこと言わんといてや…」
「あ、ヤベ。またフラグっぽい」
ナナセの言葉に静也はしまったと口を抑える。
そして内心で「この迷宮は自分を排除するために仕組まれた罠だ」と改めて自覚し、焦りが生まれた。
「………ヤベーな。気付いたらこの扉、かなり臭う」
血生臭さが、と静也は舌打ちする。
無論、実際に臭うという訳ではなく、静也の経験から来る直感からだ。
この先に進むと、確実に危険だ。死ぬぞ。
静也の脳内でそう警鐘が鳴る。
「ぶっちゃけ、面倒になる前に逃げたいんだけど…」
「そうも行かねーよなぁ」とごちる。
表情自体はいつものユルユルだが、内心ビクついている。
しかし、その恐怖を押し殺す様に一歩前に出た。
「……行くよ。みんな用意は?」
「OKや」
「ええどすえ」
「だ、大丈夫です…」
「足手まといにはならないよ」
ナナセ、タマキ、サクラ、ギルベルトが同時に頷く。
「………行きましょう」
「おっしゃ、一丁……」
アリアが頷いたのを確認すると、静也は右足を後ろに下げ、
「カチ込むかね!!」
そのまま前蹴りで扉を蹴破った。
蝶番を破壊された鉄扉は派手な音を鳴らしながら奥へと飛んで行く。
そして外から大量の布袋…即席手榴弾が放り込まれた。
「タマキ、サクラ!」
「『大狐火』!!」
「『土遁鉄壁』!!」
直後に扉内部に巨大な青炎が飛び込み、扉の跡を塞ぐように鉄の壁がせり上がる。
――――――ッッッッッ!!!
青炎が手榴弾に接触した瞬間、部屋全体に釘や陶器の破片が大量にブチ撒けられた。
ガガガガガガガガガガガガガッ!!!!!!と容赦無く降り注ぐ凶器の雨。
音が止んで暫く経つと、部屋を塞いでいた壁がボロボロと崩れ去り、静也達が中に入ってきた。
「………流石に卑怯すぎるんじゃない?」
「知るか。騎士道精神なんぞ犬にでも食わせちまえ」
ギルベルトの苦言に静也はべろりと舌を出す。
そして険しい目付きで前方を睨んだ。
「それに、これで死んでりゃ儲けモンだと思ったが…」
大量の刃が降り注いだ床に、一点だけ更地の部分が存在している。
「嫌な予感、的中かよ」
『くーん?』
その中央には青い一本角を生やし、黒い毛並みをした狼が首を傾げていた。
うーん、なんか静也が黒い。
………いや、黒くする予定はあったんですが、こんなに早くなるとは…。
因みに前話でハイオーク相手に無双してたのには一応理由があります。物理法則的に。
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