Act20:Boom!!
作品タイトルを変えました。
まるまる一ヶ月もほっぽってすみませんでした。
『いやだいやだ!おねえちゃんがかえるなんてゆるさない!』
『ギルくん…』
『サクラ、いつまでも何をやってるの?早く行くわよ』
金髪緑眼の男児は緑髪の少女のスカートを掴んで駄々をこね、少女は困ったように耳を揺らす。
バックパックを背負う緑髪の女性が声を掛けると、少女は振り返って更に困ったように目を細めた。
『……ごめんね、ギルくん。もう行かなきゃ』
『いやだ!』
『ッ…』
手を離そうとしない男児の態度に少女は頭を振り、目を閉じる。
『あっ…!?』
そして男児の左頬をはたいた。
殆ど痛みの無い程度の力加減だったが、男児が少女の拒絶の意思を汲み取るのには十分なものだった。
『ごめんね…本当にごめんね…』
少女は去る。
打たれた頬を押さえた男児は、その背中を呆然と見つめていた。
「……てなことを考えたんだけど。どう思う?」
手に持った布製の巾着袋を弄びながら、静也は3人に訊いてみる。
サクラとタマキは納得したようだが、ギルベルトは明後日の方向を見ていた。
「あん?聞いてるかギル坊?」
「え…あ、ああ。…ってギル坊ってなんだよ。……そんなに凄いのかい?その中身は」
眉間にしわを寄せて訝しげな視線を巾着に向ける。
この中身が静也の作戦の肝なので、確実な成果が出るのか心配なのだ。
「お前にゃギル坊で十分だガキ。タマキもサクラもコイツの威力は知ってる………けど、お前とサクラが上手くやらなきゃ、ご破算なのは確かだな」
顎に手を当て、ギルベルトの疑問に答える。
「サクラと」という部分に不満気だが、ギルベルトも自分が作戦の要だと一応の理解はしたようだ。
しかし納得はしていないという表情。
「………何故ボクがコイツと」
「黙れバカガキ」
「ふがっ」
座り込んでいるギルベルトと向き合うようにしゃがみ込み、静也は彼の鼻を摘んだ。
「あのなー。お前なー。しょーもない理由でサクラを恨むんじゃねーよ。つーか亜種全体を嫌うってありえねーだろ」
ギルベルトはその言葉を受けて静也を睨みつける。
「しょーもなくない。それにボクはガキじゃない」
「十分しょーもねーしお前はガキだよ。…………好きだったからってサクラの仕事の解任をゴネて、それで強く突っ撥ねられて、それでも駄々こねてビンタされたからって恨むような奴は、十分ガキだ」
「……ぅ」
あっさりと切り捨てられてギルベルトは言葉を詰まらせた。
どうやらうっすらと自覚はあったようだ。
サクラの任期が終盤に差し掛かり、ギルベルトはずっと一緒に居たいと思った。
だがそれは叶わなかった。
なまじ権力があった家の息子だけに、思い通りに行かなかった事が気に入らなかった。
それがサクラとギルベルトの過去。
「ま、プライドが高いお前のこった。今更引くに引けないってのも分からないでもないよ。惚れた女をモノに出来ねーってのは、プライド傷つくもんなー。だったら『最初から嫌いだった』って事にすりゃまだマシだ」
すぱすぱと自身の心情を言い当てられ、ギルベルトは完全に口をつぐんだ。
その様に静也は苦笑する。
「お前の生き方だ。他人の俺が考え方を変えろなんて言うつもりはねー。けど、今は折れろ。じゃなきゃ全員死ぬぞ」
そう言いながら静也は立ち上がってゴーレムに向き直ると、背後にいるサクラへ巾着袋を投げ渡す。
「にゃわ……赤月さん」
「頼んだぜ」
最後に一言言い残し、戦場に駈け出した。
「ごめん、待たせた!」
「遅いわアホ!」
「静也様!」
静也が声を上げるとアリアとナナセが振り返る。
『ゴォォン!ゴッゴォォォォ!!』
その向こうでゴーレムが咆哮を上げた。
既に氷の戒めは砕かれ、怒り狂っている。
「おーおー、岩が怒りクルってるってか?」
「上手いこと言うとる場合かっ!」
静也の軽口にナナセがツッコミを入れた。
「リアクションがコテコテだな」等と思いつつも静也は指示を飛ばす。
「前衛は俺が行く。二人は魔法で適当に牽制してくれ」
「任せと……ってちょっと待たんかい!」
静也の言葉にナナセは制止をかけるも、静也は聞く耳持たずゴーレムへと突貫する。
『ゴォォォォォ!!!』
ゴーレムは先ほど自らを虚仮にした人間を見ると、凄まじい咆哮を上げて胸を叩く。
その腕を振り上げて再び静也へと打ち下ろした。
「さて、さっきみたいに飛び越えるのは逆に危険だ……なっとぉ!」
静也はそれをギリギリまで引きつけ、直前で身体を捻って拳の小指に右足の踵を叩きつけた。
恐ろしい速度で拳が身体の右側を通過し、地面へと打ち付けられる。
柔よく剛を制す。
合気や柔術など、相手の力を利用する技の模倣である。
静也の場合は力任せに拳の流れを変えただけであるが、理屈としては同じものだ。
多少強引なやり方ではあるが、的が大きければこの程度、大した事はない。
静也は蹴り弾いたゴーレムの拳をそのまま踏みつけ、ポケットから親指の爪程の何かを取り出し、親指で弾いた。
「――ッ、ひとつ」
それが関節の隙間に入り込んだのを見た静也は呟き、ポケットからまた先程と同じものを取り出して握ると、ゴーレムの腕を駆け上がる。
そして頭を踏み台にして飛び上がり、上空から再び親指で銀色のそれを弾いた。
『ゴゴォォォォォォォォン!』
「ふたつ……三つ………四つ」
拳の雨を躱し、いなしながらも1つずつ確実に、ゴーレムの両肘、両膝へと指弾を飛ばす。
「(…このままブッパなさせっか)ナナセ!しばらく直撃は無し!アリアさんと牽制!俺に構わず撃て!」
都合十五発程指弾を飛ばした静也の叫びに二人は目を見張る。
咄嗟に「そんな事出来るか」と叫ぼうとしたが、静也は背中越しにニヤリとほくそ笑むのを見て、ぐっと言葉を飲み込んだ。
それなりに付き合った予想では、静也なりの考えがあってだと察してのことである。
「……ああもう、死ぬなやアホゥ!水の力よ、渦巻きて顕れよ!水魔法『螺旋水』!!!」
ナナセが叫ぶと、彼女の周囲に魔力が集まり、螺旋状の水が奔流となってゴーレムへと向かった。
「アリアッ!」
「はいっ!水の力よ、我が魔力を以って凍てつかせよ!変質水魔法『吹雪』!!」
ナナセの合図を受けてアリアが呪文を唱えると、びゅごう、と局地的な寒波が起こる。
その冷気は水のドリルを一瞬で氷のドリルへと凍てつかせた。
「静也様避けて!」
「わーってら」
静也はアリアの叫びを聞いて口の中で小さく呟き、頭を下げる。
直後に頭上を氷のドリルが通過した。
『ゴォォォォォッ!?』
ドリルは拳を突き出そうとしたゴーレムと静也の間に突き刺さり、ゴーレムの動きを阻害する。
静也は突き刺さった氷塊の尻を足場にして再び跳び、ゴーレムの背中に飛び付いた。
『ゴゴ…ゴゥ!?』
「暴れんなよ、今良いもんくれてやる」
ゴーレムがもがいて静也を振り落とそうとするも、静也は人体で言う肩甲骨辺りの隆起した部分にしがみついているので手が届いていない。
全身を揺らすゴーレムの身体に縋り付きながら静也は左手をポケットに突っ込み、襟のように出っ張った首の隙間に、先程から撃っていた指弾を纏めて叩きつけた。
その瞬間、アリア達の後ろから声が掛かる。
「赤月さんッ!出来ました!」
「よっしゃいいタイミングだっ!」
暴れるゴーレムの腕を掻い潜って戦線を離脱し、腰のホルスターから分割したミスリルロッドを抜き取る。
「サクラ、投げろッ!」
「はいっ!」
静也の言葉でサクラは持っていたそれを投げる。
円錐状のそれを受け取った静也は底面に空いた穴に組み立てたミスリルロッドを差し込んだ。
「っし、穴ぴったし」
かっちりと嵌め込んだそれは螺旋状の溝が彫られた、槍の穂先だった。
「そんじゃあ、コイツで勝負だ。………アリアさん、ナナセ!下がれぇぇ!!!」
静也は叫び、二人が左右に飛び退くのを見ると、すぐさま即席の槍を振りかぶる。
その先には無論、ゴーレムが氷の足止めを食らっており―――――
「――――ぅ、ぉ、お、らぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
『ゴッ…!?』
――――投擲した槍がゴーレムの胸部に突き刺さったのは自然の理だった。
「ギルベルトぉ!」
「雷の力よ、我が意に応え、見える敵を穿て!雷魔法『雷鳥閃撃』!!」
静也が声を上げた直後、彼の背後から雷の鳥が通り過ぎる。
ギルベルトの放った魔法が過ぎ去り、ゴーレムに向かう瞬間、静也は呟いた。
「炭素1:硫黄2:硝石6…ソイツに塩素酸カリウムを加えると…」
ライトニングバードがゴーレムに突き刺さった槍と接触する。
次の瞬間、
『ゴゴガガガァァァァァァァァァァァァァァッッッ!!!!!』
凄まじい轟音と共にゴーレムの身体が爆発した。
「…………黒色火薬の出来上がりだ、コノヤロー」
『ゴ…ォォ…』
突然自らを襲った爆撃に、胸部から煙を上げるゴーレムはふらふらと膝をつく。
胸だけに留まらず、着いた膝や力無く下げた肘、首元からも煙が立ち昇る。
その箇所は先程から静也が指弾………アルミホイルに包んだ黒色火薬を撃ちこんでいた場所だった。
この作戦が上手くいったのは、ひとえにゴーレムの身体が金属だったこと、そして関節の構造がその体躯に見合わずアンバランスだったことだ。
迷宮攻略の為に静也が制作していたもの、黒色火薬。
イグドラシルの太い枝を炭化させ、グラールの工房から硫黄を貰い、農場の肥溜めから取り出した硝石を合わせた混合薬。
発火性が高く、摩擦や静電気に敏感なそれをゴーレムの関節に仕込む。
続いてサクラに作らせた槍の穂先には、内部に大量の火薬を詰めさせていた。
それを打ち込み、ミスリルロッドを避雷針代わりにして雷魔法に撃ちこんで起爆させる。
ロッドを伝った電流は穂先の火薬を爆発させ、ゴーレムの身体を伝ってアルミホイル内の火薬も起爆させる。
それにより確実にゴーレムの身体を破壊した。
「………手前で考えた策とは言え、こうもハマると背筋が寒くなる」
この世界とは全く違う常識と手段を使った作戦。
自ら講じた策ではあるが、その威力に静也は目を細めた。
「さて、死んだかね?」
静也は慎重にゴーレムに歩み寄りながら右籠手のギミックを弄くり、円柱形のパーツを露出させた。
右手を上げて軽く振ると、『内部が空洞になり砕けた紫ジェムを尻に埋めた』円筒が六本、地面に落ちる。
そして『アルミホイルで蓋をされ、砕けていない紫ジェムを埋めた』円筒を素早く装填した。
皆は固唾を呑んで事の次第を見定める。
「………ん?」
注意深くゴーレムを見ていたナナセは違和感を感じ取った。
僅かに、ほんの僅かにゴーレムの双眸に光が宿る。
そして右肩が僅かに動いた。
「……アカン!静也、そいつまだ生きとる!」
「ッ!」
『ゴ………ォォォォォッ!』
ナナセが警告した直後、ゴーレムはばちりと面を上げ、千切れかけた右腕を振り上げる。
咄嗟に後退すると、静也の眼前に拳が振り下ろされた。
「チィ…この死に損ないッ…!」
静也は舌打ちながら右籠手の甲部分に着いた金属片……撃鉄を上げる。
ゴーレムを見ると、槍を撃ち込んだ爆撃痕には銀色の球体が埋まっており、槍の先端が僅かに突き刺さってひび割れている。
「刺さっとるのはゴーレムの『核』どす!それを砕いて!」
タマキの言葉を聞いた静也の行動は早かった。
再び振り下ろされた拳を掻い潜って懐に潜り込み、右拳を振りかぶる。
「いつまでも手こずらせやがって…」
そのまま思い切って右拳を叩き込んだ。
「さっさと…くたばりやがれエエェェェェ!!!」
拳が穂先の尻に打ち込まれた瞬間、拳頭の金属板が押し込まれ、それに連動して撃鉄が下りる。
撃鉄に叩かれた紫ジェムが砕け、僅かに流れた電流は円筒内の火薬を着火し、アルミホイルを突き破って爆風がパイプを伝わり、金属板を押し上げた衝撃が穂先に伝わった。
『ゴ…』
穂先が核ごと背中を突き抜けた一瞬、喉から漏れたゴーレムの声。
それがゴーレムの断末魔だった。
直後、青い液体が巨体の前後から飛沫上げる。
「…………折角洗ったのにまた汚れちまったよ、チクショウ」
右拳でゴーレムの死体を支え、青血に塗れた静也はうんざりしたように呟いた。
ご拝読ありがとうございます。
感想とか頂けますとわたしのモチベーションが上がります。
右籠手の着想は赤くて角付けて両肩にクレイモア付けてるロボの右手についた武器です。
魂を極限まで燃やすと遠藤○明さんが叫んでくれます。




