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Act19:鉱物巨人

アイエエエ。

 静也が起こした一悶着(藪蛇)の後、4人は洞窟の奥へと歩を進めていた。

 無論、ギルベルトとサクラの捜索の為である。

 先頭の静也は不機嫌気味に鼻を鳴らした。


「…………ちくしょー、理不尽だ」


「ご、ごめんて」


 両頬にもみじをこさえて。

 ナナセは幾度と無く詫びているが、静也は目を細めて聞いてませんアピール。

 いつの間にこのような事になったのか。


「……せやからちゃうって言うたんどすえ」


 端的に言うと、タマキが原因である。

 先ほど4人は再会し、静也がナナセに三叉矛トライデントで脅しをかけられていた時のこと。

 アリアが偶然タマキのマントの下を目にしたのだ。

 服はズタズタに引き裂かれ、半ば裸同然。

 …………静也がタマキに暴行を働いたと勘違いするのに、十分すぎる理由だった。

 『この畜生にも劣る下衆がァッ!』とナナセにマウントを取られ、顔面にビンタをこれでもかと張られ続け、タマキの必死の弁護を経て現在に至る。


「はぁ…俺ってそんなに信用ねーのな」


 「男はすべからく獣なり」なんて名言があったような無かったような、等と思いながら静也は歩を進め、手に持っていた手帳を開く。

 開かれたページには、うねうねとした線が描かれていた。手帳の表紙に挟み込んでいたボールペンを手に取り、線を描き加えていく。

 静也が描いていたのはこの洞窟内の道のりを記した地図である。

 迷宮に飛ばされてから、静也は抜け目無く地図作成(マッピング)を施していた。

 正確な縮尺は出来ないものの、大まかな道の流れは分かっているので取り敢えずの問題はない。

 合流地点から二股の分かれ道があったが、片方はナナセ達が通ってきたそうなのでここまではほぼ一本道。

 つまり二人が居るとすれば、この先だと静也は考えていた。


「(隠し部屋に閉じ込められたとか、イレギュラーが無きゃ、だけどな)………あ、ヤベ。こんなこと考えてるとなんかフラグっぽい」


 つい思ったことをぽつりと呟く。

 同時に、静也は足裏に違和感を感じ取った。


「……ん?」


「静也様?」


 思わず足元を見下ろすと、アリアが不思議そうに首を傾げる。

 それに構わず静也はその場にしゃがみ込み、地面に手を付けた。


 ほんの僅かな振動。


「……地震?」


 一瞬そう考えたがおそらく違う。

 周囲の気温、呼吸の違和感からここは恐らく高地、地上からそれなりに高い場所だと思う。

 ともすれば地震がこの程度で済むとは思えない。


「…………」


「静也様?どう」


「シッ。静かに」


 耳を地面に着け、話しかけてきたアリアに人差し指を立てて静粛を指示する。

 他の二人もそのジェスチャーで動きを止めた。


「…………………………………………………………………」


 目を閉じ、微動だにもせず、全神経を聴覚に集中。

 洞窟の奥から流れる薄ら寒い空気。

 顔の産毛に触れる空気が煩わしい。

 心臓の鼓動がやけに大きく聞こえる。

 そうして極力呼吸を止め、全身の血流の音すら聞こえそうなまでに集中した頃。


「…………………………………………………………聞こえた。ここからまっすぐ行った所で、戦闘が起きてる」


 その言葉に、静也以外の3人は同時に顔を見合わせた。







『ゴ――――――――ン!!!!』


「くっ…!」


 眼前に迫る殺意を、ギルベルトは真横に跳んで躱す。

 直後、ギルベルトが立っていた地面に大きなヒビが入った。

 ごろごろと土埃にまみれながら無様に転がるが、死を前には微々たるもの。

 手を着いて膝立ちになり、目の前の敵意を睨みつける。


『ゴー…!ゴゴッゴォォォォォ!!!』


 全身黒鉄色に光る巨躯。

 体つきそのものは人間に近いが、その大きさも、ましてや身体そのものが生物とは言えない。

 その高さは3mを優に超える。

 巌の肌は鉄塊。

 双眸は赤く光るのみ。

 口には仄暗いあながぽっかりと開いている。


 その名は、鉱物巨人ゴーレム


 ハイオーク等足元にも及ばない、歩く災害そのものだった。


「ギルくんッ!」


「ボクに構うなッ!前衛のお前は牽制に集中しろッ!」


「ッ…!」


 ギルベルトに駆け寄ろうと振り返るサクラだが、彼の一喝に一瞬息を呑み、再びゴーレムと対峙する。

 その動きを見たギルベルトは呪文の詠唱を開始した。

 両手に逆手に持った鍔のない小太刀を握り直し、目を細める。


「………やらせない」


『ゴォォォォォ!!!!』


 一言呟き、ゴーレムが吠えた瞬間、サクラは一瞬膝を曲げ、爆発的な速度で飛び出した。

 次の瞬間にはゴーレムの肩に菱型の苦無ダガーがぶつかり、弾かれる。

 ゴーレムは煩わしげに拳を振るが、サクラにはかすりもせず、ただ空を切るのみ。


「『土遁錐』《どとんすい》!」


 ぎゃいん、とサクラが小太刀を交差させて叫ぶと、地面から大量の土の円錐が飛び出してゴーレムへと殺到する。

 ゴーレムが腕を振るうがそれでも振り払い切ることは敵わない。

 僅かな円錐を掴みとってサクラに投げつけても陽炎のように影は躱す。


 クズキ家はゼブオードに数ある傭兵一家の一つ。

 その中でも隠密、暗殺、諜報に特化した一族。

 その兵種は、奇しくもリラオード(地球)のものと同じ名を冠す。

 その兵種の名は、シノビ

 ゼブオード最高峰の工作員と言われる一家だった。


「『土遁爪牙どとんそうが!』」


 サクラが攻撃を躱しながら再び小太刀を打ち鳴らすと、今度は岩が地面から三日月形の刃となってゴーレムを攻撃する。

 ゴーレムの鉄肌に細かな傷が幾つも付くが、さしたるダメージには至らない。

 しかし、攻撃は着実にゴーレムの神経を刺激していた。


『ゴ…ゴォォォォォ――――――――――ン!!!!』


 ちくちくと気を散らされて業を煮やしたゴーレムが吠える。

 直後、ゴーレムの空虚な口から幾何学模様の『魔法陣』が現れた。


「なッ!?『魔法種まほうしゅ』!?」


 その様を見たサクラはぎょっとして一瞬動きを止める。

 魔法種。

 文字通り『魔法を使うモンスター』の事だ。

 基本的にモンスターとは身体能力フィジカルのみで敵を圧倒するのだが、極稀に魔法を扱う珍種が存在する。

 それが『魔法種』。

 このゴーレムもその魔法種の1体だった。

 そしてそれを知ったサクラの動揺が隙を生む。

 その一瞬で、ゴーレムの口腔から大量の鉄棘が射出された。


「………なっ…!」


 ―――――今正に雷魔法を撃たんとするギルベルトへと。


「ギルくんッ!!」


 その瞬間をサクラはスローモーションの様に錯覚する。

 ギルベルトの身体能力ではあの数の鉄棘を躱すことなど出来ない。

 次の瞬間には粗挽き肉(ミンチ)になったギルベルトを幻視した。

 鉄棘とギルベルトとの距離、10m。


R&Xあーるあんどえーっくす


 5m。


「アーカーツーキー」


 3m。


「キーック」


「ぐがぼっ!?」


 ―――――その距離僅か1mというところで、ギルベルトの顔面に、静也が棒読みで声を上げながらドロップキックを叩き込んだ。

 その一撃でギルベルトは左に吹っ飛び、静也は蹴りを入れた反動で右へサマーソルトから三回点バク宙で着地する。

 二人の間の地面に、鉄棘の雨あられが突き刺さった。


「別に太陽の子でもない、月は付けども影は付かない、赤月静也、助太刀に参上ー」


「うごごごご…」


 膝立ちから立ち上がると、静也は右脇腹を締めて拳だけを前に出し、左腕を肩まで上げて肘を上にやや曲げ、拳を握る。

 そしてまたしても棒読みで口上を上げた。

 反対側ではギルベルトが頭を抱えて悶絶している。

 静也に蹴り飛ばされた後、左のこめかみ辺りを地面に3mほど擦っていた。将来禿げないことを祈る。


「………ふにゃ?」


『………ゴ?』


 突如現れた闖入者に、サクラとゴーレムは同時に呆けた声を上げた。


「ふぅ…よし、無事間に合ったか」


「ボクが無事じゃないよ…」


 ギルベルトが悶絶しながら抗議の声を上げたが、静也は聞いていない。


「タマキ、ギルベルトの回収。ついでに治療お願い」


「はいな。お任せくだはれ」


「ナナセ、遠距離から牽制してサクラを離脱させてくれ」


「分かっとるわ!」


「アリアさん、あのデカブツの足止めよろしく」


「はい!」


 静也の指示に、後ろから3人が飛び出した。


「おぼぼぼぼっ!顔っ!顔ぎゃぁぁぁァァァ!!!」


「それも治したりますから我慢しておくれやす!」


 タマキはギルベルトの足を掴んで引きずっていき、


「サクラ、早よ逃げや!『水球連射アクアボール・ラピッド』!!」


「う、うん!」


 ナナセは三叉矛を構え、複数の水球をゴーレムの足元付近に飛ばし、


「………水の力よ、我が意に応え、その姿を変え、まみえる敵を凍てつかせよ!」


 アリアが呪文を詠唱し、


「さて、まずは様子見…よーいどん」


 静也はクラウチングスタートを切ってまっすぐにゴーレムへと突っ走った。


『ゴ…ゴォォォォォ!?』


 サクラがゴーレムの攻撃圏から離れると同時に多数の水球がゴーレムの足元で爆発する。

 これによりゴーレムの足元は水浸しになった。

 そしてアリアの詠唱が完了する。


変質水魔法ディトレーション・アクアウィズ・氷槍アイスランサー』!!」


 直後、アリアの頭上から水で出来た槍が現れ、その槍が凍り付いた。

 アリアは独自の魔法を使う事ができる。

 一系統という尖った能力の魔法使いの中でも更に尖った存在。

 水を氷へと変質させる魔法に特化した魔法使いだった。


『ゴゴッ……ゴォォォォォン!?』


 氷の槍がゴーレムの足元にある地面に突き刺さると、地面とゴーレムの足首辺りが凍り付き、はりつけにする。


「おっ、ナイスアリアさん」


 静也も嬉しい誤算だったのか、一瞬振り返ってアリアにサムズアップした。

 それを見たアリアも静也の背中にサムズアップする。


「さて、あの岩野郎(ROCKMAN)に一発ブチ込んでみましょうかね」


『ゴォォ――――――――ン!!!』


 ゴーレムが向かってくる静也に右拳を振りかぶる。

 そのまま、鈍重そうな見た目からは想像できないほどの凄まじいスピードで、拳を振り下ろした。

 それに対し、静也は走りながら左手を伸ばす。


「………よい……しょっと」


『ゴッ!?』


 ゴーレムは次の瞬間、ぎょっとして落ち窪んだ目の光を強くした。

 静也は左手でゴーレムの右拳の中指辺りを叩き、跳び箱の要領で股を開いて拳を飛び越えたのだ。

 そのまま空中で一回転してゴーレムの手首に着地すると、腕を駆け登る。


「りゃっ!」


 右手をゴーレムの肩に置き、身体を捻ったウィンドミル(ブレイクダンス)の様な動きで右足の蹴りを後頭部に見舞った。

 脛当てがぶつかった瞬間、ぎゃりん、と硬質的な金属音が響く。


「………チッ、ダメか」


 蹴った静也が舌打つ。

 ゴーレムの後頭部は凹むどころか、傷一つつかなかった。


『ゴ―――――――ン!!』


「わ、ヤベ」


 ゴーレムが左手で掴みかかったので、静也はたまらず肩から飛び降りる。

 向き合うように着地しながらゴーレムの全体をざっと見回した。


「さて、まともな打撃は効きそうにねーな。………む」


 ふと、ある一点を見て目を細める。


「………関節」


 見ていたのは、ゴーレムの肘だった。

 よくよく見ると肘の内側には隙間がある。

 更に他の関節も見回すと、どこかしらに隙間があった。


「………イケるかもな。アリアさん、ナナセ!このまま時間稼ぎ!」


「はいっ!」


「任せや!」


 二人に足止めを任せ、静也はギルベルト達の方へと駆け出す。

 そこには、タマキから療魔法の治療を受けるギルベルトと、それを心配そうに見守るサクラが居た。


「よう、怪我ねーか?」


「…………普通、怪我させた本人が言うかい?」


「いやワリィ。あの状況じゃアレが最善だったんでね」


 静也の軽口にギルベルトは呆れながらも「冗談だよ」と返す。

 少し笑いあった後、すぐさま真剣な表情をとった。


「…それで、どうするんだい?」


「おー、上手く回ればあの磔野郎(LOCKMAN)をなんとか出来そうだ」


 そう言って静也はサクラを見る。


「サクラ、魔法で金属は創れる?」


「にゃ?……出来なくはない…ですけど…」


 サクラは首を傾げて頷き、静也はその言葉ににやりと笑った。

ギルベルトの扱いがどんどんぞんざいになっていく…。

最初はどっかの眼鏡魔法使いの映画に出て来る丸フォイ的ポジだったのに。

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