↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/24

閑話.言葉を持たぬ相棒の誓い

銀灰色の毛並みを打つ風は、花咲く王都レマニアの甘い香りを運んでくる。


「ライ、あっちの路地から迂回しよう。あそこなら人通りも少ないし」


隣を歩く少女——アレクシアが、隣を歩く俺の首元を優しく撫でた。

宝石のように澄んだ青い瞳と、揺れる銀髪。

その指先から伝わってくるのは、ほんの少しだけ冷たい、だけど俺にとって世界で一番温かい気配だ。

俺たちナグラヴォルフは、人のように言葉を喋ることはできない。

だが、誰よりも繊細に「理(ことわり)」を感じ取ることができる。

この街の人々が使う魔法は、温かく、巡り、波打つ「動」の気配だ。

アレクシアが普段見せる「水魔法」も、一見すれば周りの魔法使いと同じように流れる水に見える。だが、俺には分かっていた。

彼女の肌の奥、その心の底から滲み出る力が、世界の時間を一瞬で静止させるほどに澄み渡った「静」の冷気であることを。


(——あの日から、ずっと変わらない)


俺の鼻腔には、今でもあの日の匂いが鮮明に残っている。


血と鉄の嫌な臭い。檻の冷たさ。

そして、俺を庇って息絶えた母さんの最後の唸り声。

絶望に打ちひしがれ、世界すべてを噛み殺したかった幼い俺を抱きしめたのは、小さく震える十二歳のアレクシアだった。


『ごめんね……ごめんね……。一緒に行こう』


彼女の胸から伝わってきた冷気は、傷ついた俺の身体を癒やし、狂いそうだった心を静かに包み込んでくれた。

世間はそれを「忌むべき禁忌の力」と呼ぶのかもしれない。

だが、俺にとってあの冷気は、絶望の淵から救い出してくれた希望の温もりそのものだった。


「グルゥ……」


喉を鳴らしてアレクシアの手のひらに鼻先を押し付けると、彼女は嬉しそうに目を細めた。


「ふふ、どうしたの? お腹減った? ギルドに戻ったら、マスターに特大のお肉ねだろうね」


彼女は笑っている。

けれど、その瞳の奥には時折、幼い頃から抱え続けてきた「隠し通さねばならない」という孤独の影が落ちる。


前衛で敵の攻撃を遮る土の壁になり、後衛で水魔法を装う彼女の背中を守る。

それが、俺の生きる理由だ。


誰にも言えない秘密も、世界から抹消された過去も、すべて俺が一緒に背負う。

彼女がその冷たい魔法で自分自身を傷つけそうになった時は、俺がこの毛並みで抱きしめて温めてやるのだと、あの日に死んだ母さんと自分自身に誓った。


路地裏を抜けると、光あふれる大通りに出た。

コンフェデラの国花であるエーデルヴァイスの花びらが、風に乗って舞っている。


(お前の背中は、死んでも渡さない)


俺は銀灰色の尾を小さく振り、誇り高く前を見据えて、大切な相棒の先頭を歩き始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。