19.傷だらけの誓い
王都レマニア、騎士団執務室。
「……目覚めたか、ライ」
オスカーの声に、ソファの上で体を起こそうとした銀灰色の狼が「ウゥ……」と低い声を漏らした。
全身の傷には重厚な包帯が巻かれ、痛々しい痛みが残っているはずだった。
それでもライの青澄んだ瞳は、力強く執務室の窓辺に立つ背中を見つめている。
窓から差し込む陽光を受けながら、フレッドは静かに己の長剣を研いでいた。
その横顔には、いつもの穏やかな笑みはない。
冷徹なまでに研ぎ澄まされた、一国の騎士団長としての、そして「秘密を守り、生涯守ると誓った大切な人を奪われた男」の凄絶な顔つきだった。
「ライ。お前が命懸けで繋いでくれた手掛かりだ。絶対に無駄にはしない」
フレッドが振り返り、ライの頭にそっと手を置く。
ライはフレッドの手に鼻先を押し付け、悔しさと怒りを込めて低く唸った。
「オスカー殿。……帝国がアレクシアを連れ去った目的は、ひとつしかない」
ソファーで煙草の煙を吐き出していたオスカーが、琥珀色の瞳を小さく細め、重く頷いた。
「ああ……。俺たちがずっと隠し続けてきた、あいつの体内に眠る『氷魔法』だ。あいつの両親が命と引き換えに隠し通そうとした、世界を静止させる古代の力……」
「四大属性が生命を巡らせる『動』なら、氷はすべてを凍てつかせ、静止させる『静』……。帝国はかつて世界を滅ぼしかけた『氷の魔王』の力を蘇らせ、アレクシアから魔法を抽出して支配の道具にするつもりだ」
「ああ……絶対に許さねえ。あの時、アレクシアの秘密を知った日……俺たちは誓ったはずだ。この力を悪用させない、アレクシアを誰にも奪わせないと」
フレッドの手の中で、剣の柄がミシ…と悲鳴を上げた。青い瞳に、抑えきれない怒りの炎が燃え上がる。
「行くぞ、フレッド。ライ! コンフェデラの最強陣容で帝国へ乗り込み、アレクシアを取り戻す!!」
「……ああ! 俺の命に変えてもアレクシアを救い出し、あの裏切り者に落とし前をつけさせる!」
「ガウッ!!」
ライが力強く咆哮し、フレッドの全身に爆風のような風の魔力が渦巻いた。
コンフェデラの風と火、そして誓いを共にした狼が、大切な仲間を奪還するため、漆黒の帝国へと牙を剥く。




