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側妃クラリッサは笑壺に入る  作者: くさき いつき


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第36幕 答えはすぐそば

 午前中は薬草採取の手伝いをし、午後になってからは執務室で書類仕事をする。気付くと、そんなルーティンの日々になっていた。

 今日はちょっと例外の日ね。建築家が工房の設計図を書いて、大工も集まってきたから、建設予定地を確認することになったの。設計図も建設場所もまだ仮だけどね。

 

 道すがら領民たちに声をかけられることも増えたわ。軽い挨拶だけど親しみを感じる。薬草採取はマチルダの所だけでなく、他の村にも行ったからね。お陰で領民とも大分打ち解けることが出来たように思う。子供たちが懐いてくれたのも嬉しいわね。


 ただ今の所、この領地に伝わる逸話や伝承などは、特に聞く機会はないのよねぇ。領都には教会もあって神父さんも派遣されているのだけど、この辺り特有の逸話に覚えはないみたい。

 鉱物に閉じ込められた植物は、北部に行くと昔から見かけるものではあったらしいけれど……。南部の町や村で見かけることがないのは何故かしら。苔むした辺りで見つかることが多いと言っても、川沿いで見かけることもあると言うし。川下までは流れないのだろうか。


 マチルダや村長は他の村や町との交流もあるけど、大体の領民は自分の住んでいる村から外に出ることはないみたいだし、単純に情報交換できていないだけの可能性もあるのかしら?


 うん、レケメデル領全体のお祭りも開催できるようになるといいわね。今はそんな余裕もないけど、冬を迎える前か、春がやってきた頃辺りが妥当かな。ブオナパルテ領ほどではなくても、花祭りも賑やかに開催したいものだ。

 え? ニシンの塩漬け祭り? うっかり人目に触れたら阿鼻叫喚になるわ。


「考え事しながら歩いていると危ないよ」


 不意にベルに声をかけられる。

 おっと、いけない。領地のことを考え出すと止まらなくなるのは悪癖ね。もっと広い視野を持てるようにならないと。


「ありがとう。気をつけるわ」


「うん、慣れた頃が危ないからね」


 その通りだわ。

 北部への道のりもすっかり通い慣れたものだけど、馬車が通れない悪路だし、野生の獣も多い場所だもの。注意を怠って良いことはない。


「この道も馬車が通れるようにしたいわね」


「将来的に鉱物を採掘するようになるなら、必要でしょうね」


 悪路と言っても、運動が苦手なディアでも歩ける道なので緊急性は低いという判断になるのかな。でも、その将来がこの二年以内に必要なことであるのなら、やはり私が判断する必要があるだろう。


「工房をこの辺りに建てられるのなら、同時に進めた方が良いかもしれません」


 アドリアンの意見は、お金はかかるけど合理的よね。歩きで薬草を運ぶのは物量が限られるし……。この辺りもお兄様に相談した方がいいかな。


「そうね、南部に建てる方がコストはかからないでしょうけど……」


 北部の働き口を増やすことを考えるとね。例の鉱物が採れることも考慮すると、北部を工房地帯にしたいのよ。南部に比べれば涼しいから、獣の問題さえ解消すれば立地も悪くはないはずなのだ。

 その辺は、建築家や大工をはじめとした職人の意見も大事にしたいところよ。今回の視察にも同行してくれているし、適切な判断をしてくれるでしょう。


 領地の今後について取り留めのない話をしていると北部の村に着いた。

 早速、村長も交えて工房を建てることについて詳細に検討していく。農地として開墾するのも難しい場所が多いため、建設すること自体は問題なさそう。あとは立地ね。薬草を取り扱うことを考えると水辺の近くが良いのか、水魔法が得意な者が多いのであれば、その辺りはこだわらなくても良いのか。

 設計図を見ているだけでは判断できないことも、実際に見ると明確になっていくわ。


 ちなみに、大工は体力、筋力に加えて計算が得意なこと、更には土魔法が使えることで優位になる。一般の庶民からすると、騎士と同じくらい憧れを抱く職種なのよ。

 だからね、土魔法で小さな家を見本代わりに造ると、子供たちの歓声があがったりする。サイズはちょうど子供の背丈の半分くらいね。


「すごい!」


「おうち、ほしい!」


 大工たちも満更でもない顔よ。大事なお話中ではあるのだけど、将来、この子たちも工房で働くこともあるのかもしれない。興味を持ってもらえるのは悪いことではない。


「みんなはどんなお家で働きたい?」


 笑顔で子供たちに話を振ってみれば、次々に意見が上がるわ。大工たちもできた人ばかりのようで、子供たちの拙い意見に合わせて工房の形を変えていくわ。実用性はない建物になるかもしれないけど、夢は溢れているわよね。


「ねぇねぇ、お兄さんたちはコベルなの?」


「コベル?」


 聞き慣れない言葉に首を傾げる。大工たちも分からないようで顔を見合わせている。でも、子供たちでは通じ合っているようで、コベルという単語に疑問が飛び交うこともない。


「これ、コベルのおうちじゃないの?」


「ちがうの?」


 私は目線を合わせるように子供たちの前にしゃがむ。


「お兄さんたちは大工なのよ」


「コベルじゃない?」


「そうねぇ、コベルって何か教えてくれる?」


「いいよぉ」


 子供たちは元気よく頷いてくれる。大工たちがコベルじゃないことに、少しがっかりした様子もあったけど、すぐに我先にと教えてくれるわ。雛鳥みたいで、ちょっとかわいい。

 なんて微笑ましく思ったのも、ほんのわずかな間よ。


 コベルは普段は地下に住んでいて、土魔法が得意。背丈は大人でも子供と変わらない大きさ。大工たちは明らかに大きいのだけど、子供たちは土魔法の方に目が行ったみたい。

 そしてコベルは鍛冶が得意で、良い子にはお鍋や剣をくれるそうよ。でも悪い子には悪戯をして地下に連れていっちゃうんですって。大人が、子供が悪いことをした時にする、教訓のお決まりの話。

 悪魔に連れ去られちゃうぞ、とか、天国に行けないぞ、とか、そんなのと同じ類のものよ。


 でも、待って。コベルの特徴ってドワーフじゃない?


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