第31幕 謎は深まる
お兄様はファビオ様と話された後もレケメデル領の視察を、数日されることになった。出資するのなら当然よね。ただその隣には私ではなく、何故かファビオ様がいらっしゃるのだけど……。一緒にレケメデル領の経営をしていく訳だし、交流が深まるのは良いことよね、うん。
お兄様とファビオ様が仲良くなったようで何より、なんて思っていたら、新たな来客が現れた。
「やぁ、クララ、何だか随分賑やかだねぇ」
公爵と身内がいる場でも態度が変わらないのは、いっそ感心するわ。
「ネイサン、今日もお魚を持ってきてくれたのかしら?」
「あははは、今日は違うよぉ」
明るく笑っているけどね。応接室の匂いが取れるまで大変だったんだからね。いや、まぁ、湖の魚の手配を頼んだのは私だけれども。
「ネイサン殿は今もクララと交流を持って頂いているのですね」
お兄様はにっこり笑顔だけど、少し壁を感じるのは気のせいかしら。
応接室にいるのは二人だけではない。ファビオ様とお兄様も一緒なのよ。レケメデル領の経営に関する話ということだったからね。壁際にはダニエラも控えているわ。護衛の顔をしたベルもね。身内や友人と言っても、男性三人に女性一人はまずいからね。
「はい、幸いレケメデル領でも縁があったんですよぉ」
「妹がお世話になっているようで、ありがとうございます」
本当にね。
ノリが軽いネイサンではあるけど、私一人では入手できないものや情報を手に入れてもらっているもの。塩漬けのニシンみたいなものは、もう勘弁してほしいけどね。
「ネイサン殿はカステッリーニ伯爵家と昔から交流があるのですか」
お兄様とも気軽な会話をしているのを見て、ファビオ様は改めて疑問に感じたみたい。
「私と同い年ですから。学年が同じだと話す機会も増えますよね」
それこそベルとディアも、学生時代は私と同じくらいネイサンと会話することはあったはずだ。子爵家の三男坊で、自ら身を立てる必要があったネイサンは、学生時代の繋がりも大切にしていたと思うわ。
「ええ、年上の方々とももっと交流したかったんですけどねぇ。上の学年には学年で商人志望の者は多くいましたから」
ファビオ様をまっすぐに見てにっこりと笑みを浮かべるネイサンに悪意は感じないけど、ファビオ様は思い当たる所もあったらしい。少しうんざりしたような顔をされる。
「そうだな。社交は大切なことだ」
一応、肯定的に頷いて下さるけども。今の公爵でも充分影響力はあるけど、学生の頃はまだ第二王子だったのだ。縁を繋ごうとする人は多かったでしょうね。辟易とするくらいには。三歳も下のネイサンでは分が悪かっただろう。それが、今、こうして交流を持てているのだ。
人と人との繋がりの大切さを感じるわ。
そうして、挨拶が一通り済んだ所で、私は改めてネイサンに向き直った。
「それで今日はどうしたの? 例の鉱物に進展があったのかしら?」
「鉱物の方はねぇ、進展はあったけど、ない感じかなぁ」
「どういうこと?」
首を傾げる私に、ネイサンが周囲を見回す。
今いるメンバーは全員情報共有できているから問題ない。私が大きく頷くと、ネイサンも一度頷いてから口を開いた。
「うちの商会はねぇ、大陸間の交易も船で行っているんだけどね。その船員が鉱物に取り込まれた植物を見たことがあると言うんだよぉ」
つまり海を越えた鉱山ではよく採れるものなのかしら。
でも、おかしいわね。もし他国で鉱石として扱われているのなら、図鑑にも載っているだろうし、陛下や王妃殿下も把握されていそうなものなのだけれど。
私の疑問は、ネイサンも感じたようだ。口に出さなくても、補足してくれたわ。
「それがねぇ、ドワーフたちの集落で見たらしいんだ」
ドワーフ!
その言葉に、私だけでなくファビオ様やお兄様も目を見開く。
ドワーフというのは、地下を主な生活圏とする種族。見た目は人間と然程変わらないけれど、成人しても人間の子供と変わらない背丈だ。そして、何より力が強く、鍛冶を得意とするものが多い。
地上の人間と地下のドワーフ。
かつては、それこそ古代の頃は縄張りを争い、人間とドワーフで戦争をすることもあったらしい。それも住み分けがなされた今では過去のことではある。ただ過去を繋いだからこそ今がある訳で、仲良しこよしとはならない。
今更戦争をするようなことはない。でも、深く関わることもない。
ドワーフの鍛冶能力に目をつけて交流をもつ者も一部にいるらしいけど、それも細い繋がり。少なくともテッラニア王国において、ドワーフとの間に正式な交易はない。もちろん情報の共有もない。
貴族はさておき、平民の間ではおとぎ話の存在のように思われていると聞くわ。
私も民と交流する中で、何となくその考えに染まっていたのかもしれない。私自身、見たこともなかったのだもの。
鉱物と言えばドワーフ。親交があれば、すぐに気付いていた図式だ。おとぎ話になったドワーフは、盲点になってしまっていた。
でも、レケメデル領でドワーフが扱うものが採れるということは、意外と身近なところにドワーフは存在しているということ?
いえ、船員が見たのは海の向こうよ。
レケメデル領は大して広い領地じゃない。それに直轄領よ。ドワーフが住んでいるのなら、把握していないはずがないわ。
ネイサンの話を聞いた私は、困惑した顔のままファビオ様とお兄様を見た。
ドワーフと、どう交流を持てば良いのかしら?
困惑に明確な答えは返ってこなかった。




