第26幕 魚は美味しい
薬草茶は、一先ずカモミールを中心に精度を高めていくことになった。
他の薬草も薬として使うなら鮮度は最高品質よ。
でもね、お茶として試してみると、なかなかに癖が強いのよ。お茶と付くとどうしても紅茶のような味を想定するからかもしれない。ミントなんかはすっきりとした味で、カモミールとは別の好みの人をターゲットにできそうだったけど、薬を飲んでいる感が強くもあった。苦味がかなり強く出るものもあったし、カモミールより課題が多い感じだわ。
なので、あれこれ手を出すよりもカモミールに絞って、より良いものを目指していくことにした。
まずは紅茶の茶葉と同じ製法で、カモミールも試すことになったわ。
ただ、陰干しする必要があったのだけど、半日以上かかるみたい。風魔法で短縮できるかもしれないけど、まずは魔法を使わずにやってみようとなったのよ。
比較検討は大事だからね。薬は魔法を使った方が良いけど、お茶は魔法を使うとダメかもしれないもの。
ぽっかりできた空き時間には、アドリアンと一緒に領地の視察にも出たりしていたわ。代官はアドリアンだけど、直轄領に住む王族だからね。実質、私が領主のような扱いになっているのよ。だから、アドリアンは今は私の補佐のようになっているわ。
「アドリアン、これから薬草茶が流通していけば、今よりも業務が増えると思うわ。特に他領とのやり取りがね。外交に長けた人はいるのかしら?」
執務室でふと気になったことを聞いた。
そう、私のそばには補佐のようなアドリアンしかいないのよ。他は誰も直接話しかけてこないの。もちろんアドリアン一人しか人材がいないなんてことはなく、領主館で働く人は他にもたくさん見かける。
でも王族である側妃の私と対面できる役職となると、なかなかね。中身は伯爵令嬢といってもね、やっぱり側妃の肩書は大きい。張りぼてだけどさ。
「外交ですか? そうですね、何人か話し上手な者はおりますよ」
「そう。もう少し薬草茶が形になれば、試飲等に同席してもらえるかしら?」
「それはもちろん大丈夫かと思います」
「良かったわ」
傾き始めた領地ではあるけど、お茶も飲めないほど激務ではないわよね。他領に売り込む窓口になる人材には、きちんとアピールできる知識を持っていて欲しいもの。
「もし他領に売り込む方法を検討されているのであれば、商人殿にも依頼してはいかがでしょう?」
商人殿、ね。
アドリアンが思い浮かべているのは子爵家三男坊でもあるネイサンだろう。
「そうねぇ。頼んでいることもあるし、小まめに連絡を取ってみても良いかもしれないわね」
「きっと飛んでいらっしゃるでしょう」
思わず笑い合ってしまったわ。
でも、そうね、お金になると分かれば本当に飛んでくるかもしれないわ。気付けばあれこれ王家御用達になっていそうで、ちょっと怖いけどね。気をつけよう。私は幼馴染みを信じているわ。
ネイサンの風魔法の腕前はどれくらいだっけ。
なんて噂話をしていたせいかしら。
「やぁ、クララ。少しご無沙汰してしまったかい?」
本当にやって来たわ。
いや、悪口を言っていた訳じゃないから良いんだけどね。タイミングがタイミングだったから、少し驚いてしまったわ。盗聴されていないよね?
……一応、ネイサンと親しくなった使用人がいないか気にかけておこう。
「側妃に選ばれた頃に比べれば、わずかな暇よ」
「そうかい? 一年も一週間も誤差かい?」
「どうかしら?」
軽口を言い合える。
気楽な関係も悪いものじゃないわ。
夫という身内ではないというのは気をつけないといけないけど……。でもアウジリオ様が軽口を言うところは想像できないわね。マリアンヌ様とは軽妙なやり取りをされているのかしら。お子を成すためにも、いつまでも仲睦まじくいてほしいものだわ。
「ところで、今日は何を持ってきてもらったのかしら?」
例の鉱物について分かったことでもあるのかな。
けれど、ネイサンが応接室のテーブルに並べたものは全く別のものだった。ダニエラがワゴンに載せて持ってきたものを置いてくれたのだけど、どう見ても鉱物じゃない。
「ほら、湖で獲れる魚を所望していただろう?」
美味しそうな匂い漂う魚を使った料理だった。
「早速用意してくれたの? ありがとう」
「いやいや、レケメデル領の行商人はあまり多くはないからね。それも薬草ではなく魚となるとねぇ」
それでも商会に属さない商人を探すのは大変だったろう。改めて感謝を笑みで表す。
だけど、ちょっと意外なラインナップかもしれない。
「その行商人は魚を生のまま運んでいたの?」
並べられたものは、どう見ても長期保存したものではないように思う。
マスを素揚げしたものやクリームスープの具材にしたものは、どれも美味しそうなものではあるけど……。
「ああ、酢漬けにしたものもあるよ。でもねぇ、その商人は魚を長期保存するために薬草の葉を使っていたようなんだ」
「薬草の葉を?」
「うん、詳しい効力とかは知らないそうなんだけど、昔からの地元の知恵らしいねぇ」
「そうなのね」
「長期保存と言っても何ヶ月とはいかないみたいだよ?」
おっと、そう簡単にはいかないか。年単位で保存できるのなら湖で獲れる量が少なくとも、活用方法はあるかと思ったのだけど……。
「それでも、他領に食材を流通できる可能性があるのは嬉しいことよ」
「そうだねぇ。じゃあ、アレはどうかなぁ?」
「アレ? ああ、薬草ではなく酢漬けしたものということ?」
さっき言っていたものね。
「コレは違うよぉ。ニシンを塩漬けにしたものだよぉ」
あら、でも何だかネイサンの笑顔が怖いわ。何故かしら?
そうして、運び込まれた樽を開けた瞬間、応接室に絶叫が響いた。
クサすぎるわ!




