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側妃クラリッサは笑壺に入る  作者: くさき いつき


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第24幕 苦労は楽しみ

 涼やかな銀髪を編み込んで一つにまとめた女性。柔らかな笑顔を浮かべた彼女は、作業時に来ている制服のスカートをつまんで、カーテシーをした。


「御目文字叶い光栄に存じます。ユセフィナ・レウクテンベリにございます」


 そうね。側妃専任となるなら、貴族出身でないと難しいわよね。


「お会いできて嬉しいわ。クラリッサ・ディ・テッラニアよ」


 ふんわりと笑みを交わし合う。

 そして、ユセフィナの隣で笑みを浮かべるファビオ様を見る。技術者の派遣に付き添ってくださったのよ。公爵本人が。だから、執務室ではなく応接室に案内してもらったわ。

 うん、お隣の領だけどね、一旦戻って数日でまた訪れるって、フットワーク軽すぎでは?

 でも、笑顔キープよ。


「ファビオ様、早速手配していただき助かりましたわ」


「レケメデル領の発展は、私も楽しみにしていますから」


「ありがとうございます。この後はユセフィナと色々と話そうと思いますが、ファビオ様はいかがされますか?」


「同席が叶うならお願いします」


 元伯爵令嬢としては元第二王子の言葉を無碍にはできないわ。より良い協力関係を築いていきたいしね。


「では、二人ともお掛けになってくださいませ」


 いつまでも立っていても、それこそ据わりが悪いもの。

 そして応接室のソファに向かい合って腰掛けると、ダニエラがそっとお茶を置いていく。りんごのような甘い香りがするお茶。

 ファビオ様が、おや? と瞬きをされる。でも、何も言われない。私も澄ました顔で一口飲む。ユセフィナも続いて飲む。顔を顰めるようなことはない。むしろ、ほっと一息ついた顔になる。

 にっこり笑む。


「今、飲んでもらったものが薬草茶よ。どうかしら?」


 ユセフィナが目を見開く。驚くわよね。何も言わなければ紅茶と遜色ない味わいだもの。


「甘くて、でもほのかな苦味がありつつ、喉越しすっきりとしていて、美味しいです」


 うん、的確な評ね。舌もしっかりとしているみたい。

 ちらりとダニエラに目配せすれば、透明なガラスのポットを運んでくる。花びらの浮かんだ優美な見た目よ。


「こちらカモミールの花を使ったお茶なのよ」


「華やかですね」


「そうね。でもね、自領以外にも流通させるには花のままでは難しいのよ。他領にも流通できる特産品の一つにしたいと考えているわ」


 ユセフィナは改めてカップに目を落とす。透き通るように明るい黄色の飲み物。


「きっと多くの方に喜ばれるでしょう」


「そうなると嬉しいわ。その為にも協力してくれるかしら?」


「勿論でございます」


 笑顔で受けてくれたわ。

 良かったわ。ここまできて拒否されることはないだろうけど、プロの目から見れば無理と判断されるかもしれなかった。一先ず安堵して、笑みをファビオ様にも向ける。


「結果が伴いましたら、ブオナパルテ領にも還元させて頂きますわ」


「ありがとうございます。楽しみにしていますよ」


 握手して終わり、とはならない。

 オグレース領で薬草の栽培が盛んになってきている今、レケメデル領の新しい特産は早めに形にしたいもの。カモミールのお茶自体は難しいものじゃない。もしかしたらオグレース領でもすでに親しまれているかもしれないもの。

 流通できるようにして、一歩進みたいところよ。


「まだ一口飲んだところだけど、今思いつくことはあるかしら?」


「そうですね。まずは紅茶の茶葉と同じ製法でどうなるのか考えてみようと思います」


「そう。作業場は半地下に用意してあるの。他にも必要なものがあれば、遠慮なく言ってちょうだい」


「ありがとうございます。流通するためにはパッケージも大切かと思いますので、そちらの技術者も必要かと思います」


 そうね。小さめの麻袋に入れるのが手軽だけど、薬草茶の風味が損なわれる可能性もあるし、見た目はあまり貴族向けじゃないわ。ガラスの瓶ならデザインも凝れるかもしれないけど、ガラス職人が必要になるわよねぇ。

 でも、それも薬草茶が茶葉として仕上がってからかな。

 いや、今から併せて考えていくべきよね。


「分かったわ。職人の手配をしておきましょう」


 一応、南部の町にガラス工房はあるのよ。ただレケメデル領内で流通する分しか作れない規模。だからと言って、新たにガラス工房を建てるのは難しい。ガラスには炉が必要だもの。貴族向けはガラス瓶、平民向けは麻袋等にすれば大丈夫だろうか。悩みどころだわ。

 結局、こういう所も領が分断された弊害よね。


「お声がけ頂ければ、いくらでも協力しますから」


「ありがとうございます」


 私の溜め息の理由をファビオ様はよく理解してくださる。元々、レケメデル領の現状を懸念されていた訳だしね。

 とはいえ、おんぶに抱っこ状態って感じだわ。

 まずはレケメデル領に現存するガラス工房を視察しよう。


「ユセフィナ。味をより良くした上で薬草茶の作り方を確立してほしいわ。できればカモミール以外にも薬草茶に適している薬草も見つけてほしいの」


 一つの薬草に頼ると、何かあった時に困ったことになる。それに種類があった方が選ぶ楽しみもできて、手に取る人も増えてくれるはず。

 確実にお金を回収して、レケメデル領の経済を回していけるようにしないとね。あれこれやったは良いけど、お金がなくなりましたじゃダメだもの。

 そのためにも優先順位をしっかりと考えよう。


「何だか活き活きとされていますね」


 こんなに次から次へと問題が出てくるのに?

 ファビオ様の言葉に首を傾げかけて、でもちょっと笑ってしまう。


「そうですね。自分にできることがあると思うと、愉快な気分になるかもしれませんね」


 どう解決しよう。

 どう民の生活を向上させよう。

 苦労の先に笑顔があると思えば、楽しさが上回ってしまう。奉仕精神なんてものが自分にあるとは思わないけど、やる気が漲るのも確かなのだった。


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